1話 神と球と白い翼と狼
頑張って投稿していきます。
「ここはどこだ?」
白い部屋の中でひとりの少年がつぶやいていた。10代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。10人中8人が容姿を見れば「かっこいい。」と言うだろう。しかし今はそんな所ではない。
(たしか、下校中で横断歩道を渡ろうとした少女に信号無視した車がやってきたんだよな。それに気づいて身体が動いて少女を突き飛ばして代わりにはねられた。で、意識を失った)
普通に考えれば病院のベットで目覚めるはずなのに、ベットの上ではなく訳のわからない白い部屋にポツンと立っている。この状況を考えて一つの結論をだした。
「俺は死んだんだな。」
《その通り。君は死んだよ》
突如、声が聞こえ後ろを振り返ると白い球が浮いており、そこから誰かが話していた。声の話から同じ年のようにも聞こえるが、球しかない為、分からない
《でも君は勇敢だね。少女を命がけで守った。そこは評価に値するよ。とても綺麗な魂だ》
褒められた事は嬉しいが、それよりも気になることがあった。
「えっと、やっぱり死んだんですね。」
少女を守れた事は良かったが、死んでしまったことについてはやはりショックだ。せいぜい全身の何か所か骨折で済むと思っていたが、想像以上にダメージがあったようだ。ため息をつきつつ少年は球に聞いた。
「で、ここはどこであなたは誰です?」
《ここは天国と言いたいけどちょっと違う。冥界と天界の間と言ったらいいかな。本来なら君のような綺麗な魂は天界に送るべきなんだろうとけど、君の人生と最後が悲しくてね。で、君に新しい人生をあげてもいいかなと。私は魂の選別の担当や転生を行っている。一応神様かな。名前は特にない》
その言葉を聞いて少年は驚き、慌てた声で球(神様)に尋ねる。
「えっと、また生まれ変わる事が出来るのですか?同じ世界で?」
「いや、同じ世界では無理だ。まったく違う世界。しかも君が生きてた世界の過去でも未来でもない所に転生してみようかなと。でどうする?」
少年は考える。特に今の世界に未練はない。両親は5歳の時に交通事故に亡くなってしまい、親戚にも頼る事が出来なかった為、児童養護施設で育ち、とにかく生きるのに必死だった。少しでも生きるのに知識はいると思い、勉強は出来た。勉強だけではなく、スポーツにも励んだ。ただ、あまり人との接点を無くしたいと思い、チームプレーのスポーツはしなかった。自分が強くなる為、武道に励み空手や柔道、剣道、合気道を学んだ。そのおかげでとある強豪校からスポーツ特待生で高校入学する前だった。
「いえ、生き返らせてくれるならよろしくお願いします。」
少年は球(神様)に向かって頭をさげる。もう一度生き返るならなんであれ嬉しい気持ちは変わらない。今度は自分がしたいことをする為に生きてみたい、そう思う。
《そういえば、まだ名前を聞いてなかったね?》
球(神様)は表情は無いが、嬉しそうに少年に声をかけた。
「白羽 流一と言います。よろしくお願いします。」
と流一は笑顔で伝えた。
「これからどうするのですか?」
流一は球(神様)に名前を告げ、どうしたらいいかを尋ねる。何しろ転生するかをどうか尋ねられていただけで、具体的に何をするかを聞いていない。
《もちろん君を転生させるよ。しかし次の世界はけっして楽しい世界ではない。死が常にある場所だ。
だから君を強くする環境が必要だ。その為に君に前世の記憶はつけておく。後は・・・・》
球(神様)は白く輝くと2つに分け、一つは球に戻り、もう一つは徐々に形を変えていく。
《君にはこの子をつけるよ。次の世界の生き方を教えてくれるよ》
光が治まるとそこに居たのは、1匹の狼だった。体長は3mぐらいか、白い毛並みが美しい立派な体格をした狼だ。
「主よ。お久しぶりです。御用は何ですか。」
狼は球(神様)に向かってそう伝え、お辞儀をする。3mもある狼がお辞儀をすると中々迫力がある。
《この子と一緒に別の世界に行ってほしい。そして強くなるように鍛えてあげてほしいんだ。》
球(神様)に言われた狼は流一を見つめた。銀の瞳をした狼から見つめられ、まるで心の底を覗かれたように感じたが、特に不快感は感じず、どちらかでいうと心地よい感じがした。しばらく見つめていた狼はふっと笑う。
「この少年からは、とても綺麗な魂をしていますね。主が嬉しそうにしているのは久しぶりです。」
球(神様)に伝える。表情がないのでどうやって嬉しそうなことが分かるのか流一には不思議だが、本人しか分からないものがあるだろう。流一は何も言わなかった。
《では、生と死の神の名とともにあなたに命じます。この少年[白羽 流一]とともに次の世界に転生し、その世界でも強く逞しく生き残れるように育て、そして共に生きなさい》
その言葉を聞いて狼は球(神様)に頭をさげる。
「この白翼狼、我が主の命、しかと承りました。」
この一連の流れを見ていた流一はしばらく茫然としていたが、これからお世話になるのは間違いない。
すぐに狼に頭を下げる。
「白羽 流一です。よろしくお願いします。あの・・・・名前はなんていうのですか?」
狼にそう尋ねるとちょっと困った顔をした。
「私には名前というものはないの。あくまで種族の一人、白翼狼。それだけだから」
「白翼狼というのは?」
流一は尋ねると、白翼狼は身体を震わせると、背中の白い毛並みが変化し、巨大な翼が出てきた。突然現れた巨大な翼に流一は度肝を抜かれたが、翼をみて納得した。
「成程。白い翼をもつ狼で、白翼狼ですか。綺麗ですね。」
そういうと白翼狼は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「あら、ありがとう。それと流一君にお願いがあるのだけれど、私に名前をつけてくれないかしら?。あなたと共に生きるのだから名前が必要でしょうから。」
そう言われ、流一は考える。白き狼と言われると真っ先に思いつくのは北欧神話で有名なフェンリルだが、少し安直すぎるうえフェンリルは雄だ。おそらくこの狼は喋り方から見て雌だ。しばらく考え、名前を伝える。
「アセナ・・・というのはどうですか?」
アセナとは戦争に負け、傷ついた少年を助けたという逸話が残るトルコという国に伝わる伝説の雌狼だ。
国章候補にも選ばれたほど、その狼は神聖化されている。その事を伝えると、嬉しそうに笑い、
「アセナ・・・アセナ・・気にいったわ!これから私の名前はアセナよ!よろしくね、流一君!」
白翼狼=アセナはそういった。
《さて、一段落済んだところで転生について流一君に説明しようか》
球(神様)は二人の様子を楽しそうに見つつ、話をする。取りあえず転生した後についてはアセナが指導してくれるから心配ないが、色々聞きたい事はある。
《まずは転生する先はアルウェンという名前の世界だ。君の世界では中世ヨーロッパぐらいの世界感かな。しかし君の世界と違うのはアルウェンには魔素というものがあり、その魔素を使い、そこに住む人は魔法を使って暮らしている。人間族だけではなく色々な種族がいる。獣の特徴を持つ獣人族、森にすみ森とともに住む森人族、山に住み鍛冶と工芸に長け、力が強い山民族、魔素の扱いが上手く、魔法に長けた魔人族。この5獣族が住んでいる》
流一は魔法という単語を聞いて驚く。
「魔法?魔法があるんですか!?」
流一は興奮した。流一は読書を趣味としていて、時代小説や推理小説を読んでいたが、ライトノベルも読んでいた。その中に魔法は必ず出てくるキーワードだ。年頃の少年らしい所が見れて表情は分からないが嬉しそうに球(神様)は話を続ける。
《ただし、平和に過ごしているかといえばそうじゃない。君の世界に戦争があったようにこっちにも戦争はある。それだけではなく、魔素を吸い、大きくなった獣。魔獣が住んでいて人々の生活を脅かしている所もある。だから君は強くならなきゃいけない》
それを聞いて流一は思った。今までは強くなるという事は自分が決めたというより、そうしなければいけない状況があったからだ。けど今回は違う。魔法というものを使う為に強くなるという目標があり、自分が決めた事がとても嬉しかった。
「魔法を覚える為なら頑張りますよ。でも誰が教えてくれるのですか?」
流一は尋ねると、それを聞いていたアセナが答える
「私が指導しますよ。主が言ってたでしょ。強く育てなさいと、だからまかせてちょうだい。」
と笑顔で答える。
《それでは転生した後について説明します。転生した場所はこちらが用意した所に移ります。通常転生であれば人の身体から生まれますが、今回は転移を使い直接アルウェンに行きます。しかし向こうの環境で身体を作りたいので最初は生まれたての乳児になります》
それを聞いた流一は疑問に思った。乳児からスタートするにしても当然、食事が必要だ。しかしご飯はまだ食べられず、ミルクが必要になる。そのことを尋ねると、
《それも問題ない。アセナ》
「はい。主。」
するとアセナの身体が輝き、狼の姿から人の姿に徐々に変身していく。輝きが落ちつき、流一がアセナを見ると、目を見開いて思考が停止した。
そこにはまさにボッ・キュン・ボンという言葉が相応しいスタイル抜群の美女が現れた。髪は白く、綺麗に輝いており、銀色の眼はとても美しい。胸はバランスかつ適度な形を保ち、巨乳より美乳と言った所か。腰回りや太もも等は引き締まり、まさに美の化身といってもいい。
なぜ流一がこんなにも詳しく説明できるかというと、アセナは服というものを着ていない。つまり裸だったのだ。
流一は徐々に思考停止から復活し、そして
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なんで裸なんですか!服を着てくださいよ!」
流一は叫びながら急いで後ろに振り向く。流一も思春期真っ盛りの男子。しかも今まで積極的に人付き合いをしてこなかったので女子と付き合った経験もない。つまり女子に対する耐性がまったくないのだ。
そんな状態で美の化身といってもいい女性の裸体を見たのだ。叫びたくなるのも無理はない。
「あらら。流一君は私の身体を見て恥ずかしいと思ってくれたの。嬉しいわ」
《アセナ。流一君をからかうのは可哀そうだから止めなさい》
「分かりました。主。」
アセナは答えると再度身体が輝き、輝きが落ち着くと白いワンピースを着た状態となった。その事を流一に伝えるとようやくアセナの方に振り向いたが、明らかに顔が赤い。あまりにも刺激が強すぎたのだろう。それを見たアセナはあまりの可愛さにからかいたいが、主に言われている為、自重する。
《アセナはこの通りに人に化ける事が出来る。必要であれば母乳も出す事ができるんだ。つまり乳児の状態でも育てる事が可能だから安心しなさい》
そういわれて少し安心したが、同時に嫌な予感がした。乳児の状態では当然食事をする場合、アセナのをもらう事になる。前世の知識が乳児からあった場合は・・・・・・。
そこまで考えた流一はいっきに顔が赤くなるのを感じた。それを見た球(神様)は大丈夫だと伝える。
《君の前世の記憶やここで会ったことの記憶は1歳になった時に思い出すよう調整するよ》
それを聞いて流一はこれ以上もないほど安堵感がでた。さすがに記憶がある状態でそのようなことをしたらせっかく転生したのに恥ずかしさのあまり憤死してしまう所だ。
《ではそろそろ時間なので転生を始めましょうか。流一君はアセナの手を握ってね》
流一は手を握る為、アセナの方へ向かうとアセナが突然、流一の身体を抱き上げた。つまりお姫様だっこをしたのだ。
「な・な・なんで!!」
困惑した流一は焦った様子で尋ねるが、アセナの方はすました顔で言う。
「今から君の身体は小さくなのだから抱き上げないと危ないでしょう。」
その様子を見た球(神様)は面白そうに見つめていたが
《では始めます。流一君。次の人生は良きものになりますように。アセナ、流一君をお願いしますよ》
その言葉とともに自分の身体が光っている事に気づいた。すると徐々に自分の視界が暗くなっている事に
気づき、最後は意識を失った。
二人の姿が見えなくなり、球(神様)はつぶやく。
《頑張ってください。君の力でその世界を守ってあげてください》
球の姿だが、まるで祈っているかのように見えたのだった