一話:シープvsリュウ
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(*'▽')うわああ!
――薄暗い謁見の間には、この世界で己の技を極め頂に辿り着いた者のみが名乗ることを許される職業、『王』を持った『最強』たちが揃っていた。
金色の鎧を身に纏い、やや汚れて長年使い続けてきたであろう青いマントを羽織っており、両手にミスリル製の白く輝く大剣を握ったまま倒れた男。彼の職業は『英雄王』、世界を平和に導くための真っ直ぐな心と、悪を滅す聖なる力を宿すヒーローだ。倒れた英雄王はやがて、光の粒子になって消えた。
赤い稲妻が輝き、映し出した。光の粒子になって消える英雄王、そして魔道王、錬金王。それを紅の玉座に座り見下ろす少年と、最後の魔王を赤い稲妻を纏う黒槍で貫いた黒い鎧兜の侍。
クロ侍:最強を集めた最高のギルド……この程度か……
◇
あー、やっと終わったー!
テストの補習とか地獄でしょ……まあ補習したのは僕じゃなくて友達であるが、待つのはつまらない。
「急ぐぞ! サービス終了まで遊び尽くすぞ!」
学校から走って出てきた彼は、待っていた僕を通過してそのまま走り去っていく。
「ま、待ってよー!」
「待てねえ! 俺たちの青春が……数年間やりこんできたゲームが終わるんだ!」
VRRPG【ワールド・キングダム】は三年前に登場し流行ったゲームだ。
このゲームの魅力は豊富な職業とスキル、魔法、そして職業スキルとレベルに応じて上がって行く戦闘能力。
レベルが一定に達すると職業を上位のものに昇華させたり、魔法式を作れるようになったりする。
また、職業によって様々な差がでてくる。
差が大きく出るのは会得できるスキル、魔法、そして進化できる上位職だ。
しかし今はアップデートでの鬼畜要素の追加により上位勢と下位勢の差が開き、初心者などにはかなり厳しい環境になってしまった影響で少しずつ過疎化が進んでいた。またライバル社も新たにワールド・キングダムのようなゲームを発売した影響もあり、過疎化が更に進んでしまった。
残っているのは上位勢とドMか強者だけになり、遂に運営もサービスを停止し新たなゲームの作成を発表した。
僕もプレイヤー『ウルル』としてゲームを楽しんでいた。
僕らは名前に【王】が付く職業を集めた、少人数のギルド『集王』の中でもトップクラスの性能を誇り最高の生産職で戦闘能力も最強と謳われる【羊王】を極めた【虹羊王】の職業を持っている。
まあ、ギルドマスターといっても、僕のプレイスタイルが『友人たちと茶会を開きのんびりとゲームを楽しむこと』で他のメンバーがギルドマスターになるよりも、ギルド内での争いがなく安全だと全員の意見が合意したからだ。
「今日はしっかり付き合えよ! 最終日だからな」
「うん。けど今日だけじゃなくて、いつも誘うじゃないか」
「どうせ過疎化で茶会なんかできないんだし、いいじゃねえか」
うーん、今日が最後になるし人も集まるから久々に茶会をするのも……ダメだ、走りながらこっちを見る顔が怖い。
目を大きく開いて、眉毛が波のようにうじゃうじゃ動く、口は小さく開き、顔のいたるところに怒筋を立てている。
元から断るつもりもなかったし、まだ死にたくないので従っておこう。
「と、ところで今日は何をするの?」
話題を変えると、とても眩しい笑顔を向けてくれた。
「考えてみろよ」
「えっと、邪神チャレンジ、魔王狩り、ギルド破り、うーん色々あったなぁ」
「あぁ、優羊って呼ばれたのに、今は『恐羊』だもんな」
「誰のせいだよ」
過疎化で茶会が開けなくなったから、いつも付き合って邪神や魔王、ギルドを潰して回っていたらいつのまにか『優羊』から『恐羊』と呼ばれるようになった。
しかも、巻き込んだ犯人はニヤニヤとして弄ってくる。到底許していい行為ではないと思います。
「そんな怒るなって、今日は特別だから絶対に来てくれよ」
「うん」
「じゃあ、またな!」
家の前に着いたので早速、駆け込みVRを起動する。
……サービス停止が決まってから、色んな所を連れまわされたなぁ。
茶会をしているのも良かったけど、ゲームを初めて以来の戦闘も良いものだった。
今日は何をするのか聞けてないから楽しみだ。
「泣いても笑ってもこれで最後! 楽しむぞ!」
ゲーム内に入って、早速チャットを開き彼を待つ……けど、1秒という時間が悠久の時に感じたので一言だけ送信してみる。
ウルル:今日は何するの?
クロ侍:一応言っておくが、もうゲーム内で俺たちに敵う奴はいない
うわ、ビックリした。送信した時と、ほぼ同時に返信が帰って来た。
このクロ侍は先程話しながら帰った友人のいくえ、名前の漢字は難しいので覚えてない。
いくえは僕の幼馴染で幼小中高と一緒だ。今では僕の唯一の友人となっている、何故なら彼のしているゲームに誘われて沼に嵌り廃人ゲーマーになってしまったからね……
おっと、愚痴を言う時間はない、早く今日の予定を聞かないと
クロ侍:今日の敵は……俺だ!
どうゆうことよ?
ウルル:つまり、僕と君が対戦するってことでOK?
クロ侍:OKだ 明日の敵は今日の友っていうだろ?
いや、その使い方は少しズレてると思う。
クロ侍:審判は公平に行えるようミュリエルにしてもらうぜ
ミュリエルは僕といくえの二人で作り育てたNPCのキャラで、いくえの提案によりロリに、僕の提案により赤目、紫髪のショートボブになった。
衣装は紫の甚平に赤い羽織、双剣を腰に下げている。
ウルル:そしてジェシカたちが立会人だね!
ジェシカ:ごめん、私たちは野次馬だよー!ww
ウルル:了解……
ジェシカもこのゲーム内で知り合ったのだが付き合いは長く、ゲームが始まった頃からいる猛者でランキングは三位と僕らの次に強い人だ。
間違えて、立会人と言ってしまい少し恥ずかしい。
クロ侍:俺は準備出来たぜ
自慢の白龍王装備一式に身を包み、白龍王の鉈を振り回して僕を待っている。
いくえの職業は【龍王】で、羊王とは逆に攻撃に特化した戦闘職だ。
龍王になるには羊王よりも簡単で全ての龍族モンスターを狩り、前龍王を倒せばいい。もっと言えば、羊王のように全種類を制覇しないと能力が使えない訳ではなく、最初から全ての能力が解放されている。羨ましい。
ウルル:僕もOKだよ
僕が使っているウルルのアバターは、おっとりした12歳ほどの中性的な顔立ちの少で黒目、白髪だ。
服装は基本、黒のウール100%のゆったりと動きやすい服にマント、ズボンと靴を身に着けている。
ウルル:羊王だから全身羊装備だ!
手には捻じ曲がった黒く禍々しい羊飼いの杖(羊王作)を持ち、アダマンタイトで作成されたブレスレットを付けている。
アダマンタイトのブレスレットは趣味、禍々しい杖は僕の最大火力を出すために必要な物だ。上位プレイヤーは防御も尋常ではないほどに高いので、戦闘職でもない僕の通常攻撃では傷一つ付けられないからね。
ウルル:アレも装備してみようかな~
クロ侍:うわ、懐かしいな!
ウルル:最終戦だからね
アレというのはカッコ付けて作ったけどジェシカに『ダサい』と言われ、ほぼ身につけたことのないハッド帽のことだ。
デザインは黒と白の羊毛で編んだウール100%チェック柄、被るとハードボイルドで渋いおじさんになれた気がする。
クロ侍:羊の装備って、お前……
ウルル:殺ってないよ
そんな、大事な戦力を削るようなことしないし、可哀そうじゃないか。
ミュリエル:おーい、準備できたなら始めるぞー
二人で雑談していたがミュリエルの声で、ハッとする。
緊張するな~。勝てるだろうか? いや、勝つぞ!
ジェシカ:3
アイザック:2
私はだれ:ここはどこ?
ミュリエル:はじめ!
ミュリエルが合図すると、いくえが一瞬で距離を詰めて切り付けてくる。
グハアァ! 流石に戦闘職である龍王は強く、貫通スキルも持っているようだ。羊王の完全防御を突き破って、僕は致命傷を負ってしまう。
しかし、この程度のことは予想済みだ。予め作っておいた『身代わり人形』でダメージを無に帰す。
追撃を貰うとマズいので黒羊王の毛を操り自分を守るよう囲って、いくえに攻撃する。
龍王は全属性の耐性を持っていて、通常の属性攻撃ではダメージを与えられない。
黒羊王の属性は『消滅』で触れると言葉通り消滅する。これがこちらの攻撃手段で、防御手段だ。
このまま眉に籠って攻撃するのは地味で作業的だが、それが一番確実に勝つ方法だ。
それに、いくえならこの防御を突破してくると羊の本能が言っている。
クロ侍:ふふふ、何の対策も取ってないと思っていたのか?
やはり、何か術があるようだ。
直接本体を攻撃されるわけにもいかないし、まずは羊毛を伸ばして様子見しようかな。
クロ侍:無駄だ、最強メタ魔法『羊毛破壊』!
よく戦闘中に文字を打てるな~。
あと『羊毛破壊』って僕以外に無害だし、完全にメタじゃないか。僕は何も用意していなかったのに、自分だけずっと前から準備してメタを貼るなんてずるいぞ!
でも名前とかが明らかに弱そうだし、センスがないz……はい?
一瞬で召喚していた全ての黒羊毛が消滅した。
いや、黒羊毛が消滅するなんて在りえない。羊毛事態にも破壊無効の術式が掛かっているのに!
クロ侍:黒龍神
上位破壊スキル?! これで黒羊毛を相殺したのか!
相殺しないと避けられない……
「虹羊王」
ウルルから虹色の光があふれだし攻撃を防ぎ、同時に攻撃を行う。
虹羊はいくえを貫き、めった刺しにする。
虹羊王は、その身に宿る全色の羊王を同時に発動して一瞬だけ全能を得る必殺のスキルだ。
ボロボロになったいくえは自らに『狂化』をかけて、その身に始祖のドラゴンを召喚する。
クロ侍:狂化
クロ侍:古代龍
クロ侍:終身撃
いくえは、これが最後の攻撃になることをチャットで伝えてくる。
「僕も男だ、最後まで付き合おう!!」
相手の全力には、自分も全力で応える。
全力で放たれた虹羊と白龍の命を捧げた攻撃が衝突し、音が消え、色が消え、僕の意識も闇へと消えた。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
これからもお願いします!
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