天文(あまぶみ)・月光エセー
今日は、あまりにも月が綺麗であったので、外に出て、月を眺めた。
家の庭から眺める景色は特別美しく、月を眺めるのには絶好の場所であることに気が付いた。さらに、今日は風も程よく吹き、心地よく快適であった。
その中で、僕はいろいろと考えた。風のことを考えた。今、僕のまわりでは風が吹き、木々を揺らし、僕の髪を、眉毛を、まつげを動かしている。そうして肌は風の重みを感じている。風がないときは、その存在を感じさせないほどに静かであり、物を動かす力など持たないのに、ひとたび風が吹けばその存在は明らかになり、強弱の差はあれ、それに見合った力で物を動かすのだ。そう思いながら月を見ると、月は動いてはいなかった。月はこちらで風が吹いていることを知っているだろうか。こちらに月の様子が分からないように、月もこちらの様子を分かるまい。月はこちらの風の外にいるのだ。そして、こちらは月の風の外にいるのだ。何が動いているか相互に知りえない。ただ、遠くから見つめるだけである。
自分の座っているところから、桜の木を通して星が見えた。桜の木は今、葉が覆い茂っている。風が木を揺さぶり、風が止まったその間に、葉と葉の間から、星が一粒見えたのである。それはそれは小さかった。しかし、左の方へ目を移すと、葉を茂らせた枝の先端に、光り輝く月があったのだ。それはとても大きく美しかった。