第十二話
がばっ!!!!
真っ暗。背中に腕の感覚。なんか土臭い。苦しい苦しい苦しい…!!
「はーなーせ!!!!コルルルァ!!!」
顔を動かし笑鬼の拳をひょいとかわし、仕返しとばかりにさらに腕に力を込める。
「痛てーーーー!!やーめーろ!!!おい立香なんとかしろ!!!」
笑鬼はじたばたと暴れるが、満足げに微笑む男の手から逃れることはできないようだ。
立香は感情のない目で見つめている。
「久しいね、チビ!!それに立香も」
最後に大きな手のひらで笑鬼の頭をワシャワシャとかき回した後、やっと手を話した男はさわやかに言葉を続ける。
「お久しぶりですわ、森の熊さま」
熊と呼ばれた男、その名のとおりかなりの大男である。ガタイがいいというよりは全体的に締まっている。
岩清水のように透き通った瞳、優しげな顔つきであり本人曰く、見た目よりも結構若い。
というより、年齢は笑鬼達とそんなに変わらないそうだ。
毛皮で作った羽織は着古された様子であり、そこから鍛え上げられた傷だらけの腕が覗く。
「チビじゃねえええ!!いきなりなにしやがんでい!!!!…寄るな!!」
つかつかと笑顔で歩み寄る「熊」。
「ん?まだ、スキンシップが足りないのかと思って。ははは、冗談だよ。そんなに怯えないで。」
「俺を野生動物扱いすんなっつーーーーの!!!
なぁ〜コイツいっぺんシメていいか??いいよな!!つかシメる!!」
「おやめなさい。また遊ばれますのよ。」
「まぁ立ち話もなんだから、座って座って。笑鬼はこちらへきなさい」
「あんだよ!!いやだね!!!く…来んな!!来んなっつーの!!」
後ずさりする笑鬼の腕をつかむと、有無を言わせず自分の前に座らせ後ろから腕を回す熊。
「離せよ!!ばか力!!!」
笑鬼はじたばたと暴れるが、やがてあきらめたのかぐったりとうなだれ、おとなしくなった。
始終感情のない眼で二人を見つめる立香。
「お前も…相変わらずだな」
苦笑を浮かべる熊に対し若干普段より低い声で立香は対応する。
「…そうでもありませんわ。」
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「…つーわけで、力を貸せ!!いや、やっぱいい!!!帰る!!いい加減離しやがれ!!!」
一応一通りのことを雑把に説明し終え、すぐにでも逃げ出したい笑鬼。
「ふむ、また面倒なのに目をつけられたな…」
「だーかーら!!いいって!!帰る!!!」
「いやいや、そう言われるとどうもね、力を貸すのは構わない…が」
ふと考え込む様子で押し黙ってしまう熊。
「何ですの?」
「………調べてみるか。いいよ。一旦町に下りよう、
ただ今日はもう遅いから泊まっていったほうがいいね。」
「よかったですわね、笑鬼」
「もう何でもいいから離せーーーー!!!!」
<ガラッ、ドサッ>という音に三人の眼は一緒に戸のほうに向けられた。
「・・・」
「おう!!!遅せーーーよ!!」
「・・・」
「死んでますわね」
「こいつが法師か。やあ、はじめまして…って聞こえてないね」
到着と同時に力尽きた法師が転がり込んできたが、反応がないためそのまま火のそばに横たえ、放置。
「ったく!!しゃーねーな!!!…俺も寝るぜ!!」
「それがいいですわね。」
ということで、翌日完全に足が棒になった法師を熊がおぶさり、来るときの半分の時間もかからず一行は町へと舞い戻った。