魔術:Ⅰ
【魔術】
アルスマギとも。
神秘の具現。有から有を創り出す、等価交換の術。"詠唱"を以て、宇宙の法則に"結果"として介入する。
どの言葉を紡げば、どんな現象が引き起こせるのか。どの言葉を紡げば、どの概念をカタチとして引き出せるのか。それは視覚できない真理として定まっており、魔術師はそれを模索し繋ぎ合わせ、詠唱として確立する。
何の現象が起こるか、数式、図式、文章で表わされたものを『術式』という。術式とは詠唱を謳うために必要な、謂わばプログラムのようなものであり、人の深層意識に刷り込ませるモノである。詠唱とは、魔力に魔術イメージを付与するものであると同時、術式を起動するトリガーのようなもの。魔術師が魔術を習得する際には、まずこの術式を覚え次に詠唱を覚えなければならない。
詠唱と術式、両方をまとめたものを『魔術詠式』という。
魔術の創造は無数の単語の中から取捨選択し、詩として確立していく作業であり、かつ術式の作成もあるため、膨大な時間と労力を要する作業である。
詠唱による魔術イメージ付与をした状態の魔力を『有彩魔力』という。対して、イメージ付与がなされていない、つまりただのマナやオドを『無彩魔力』という。
詠唱による魔術イメージ付与はつまり、『魔術の設計図』を作製することに等しい。無色の魔力に魔術の設計図という"色"を与えるということだ。
魔術発動のプロセスは以下の図に記す。
【詠唱】
アリア。セカイへ語りかける行為であり、人の深層意識へ語りかける行為。
詠唱という行為は無色の魔力に魔術イメージという『色』を与える行為に等しく、ゆえに詠唱というプロセスは魔術においては必須。この場合の詠唱は魔術名を発音するまでが詠唱に当たる。また、人の深層意識に刷り込まれた術式を起動させるトリガーである。
無詠唱、という技術は存在しないし、使えない。仮に使えるとするならば、それはこの世全ての、森羅万象を識り尽くした者以外あり得ない。
【アリスィア語】
詠唱に用いられる言語。魔力を染色する言葉。アリスィアとは「真実」を意味する。
当初は「神秘の言葉」という認識でしかなかったが、研究が進むにつれ、あらゆる現象、存在、概念には人々の間で付けられた名称とは別に「真なる名前」を持つと考えられ、それこそがアリスィア語なのではないかという考え方が普及した。現在ではこの説が最も有力とされている。
【大小宇宙照応理論】
魔術の根幹にある、この世界独自の理論。
『大宇宙すなわち世界と、小宇宙すなわち人は、本質的には同一のモノ。全は個であり、個は全。上と下に在るモノが互いに照応しあう。この時、主観と客観――世界と自身の間を媒介するモノ、それこそが『言葉』つまりアリスィア語での詠唱である。魔術という超常現象を起こす。その根底には人間の"意志"がある。人間の意志を世界に押しつける手段こそが"詠唱"だ』――というもの。
ヒトの深層心理に魔術イメージを刷り込ませ、詠唱を以て、セカイの法則に結果として介入する。魔術を起こせるのは、ひとえにこの考え方が魔術の根幹にあるからである。
【魔力】
魔術の発動に限らず、現代では魔道具を製成する為にも必要なエネルギーのこと。
世界に存在するありとあらゆるモノに内包されており、また大気中にも普遍的に満ちている。魔力は体内にある『魔力回路』を流れている。
魔力の源泉と本質は、生命力。ゆえに、魔術を行使し続けると魔力枯渇になり、場合によっては死に至る。
魔力には大魔源と小魔源の二種類がある。
前者は大気中に満ちている四元素を指し、後者は生物の体内に内包されているもの。魔術師が魔術に用いれるのは基本的に小魔源である。
【基本九属性】
火・水・風・土・氷・雷・木・光・闇の九属性。すなわち、魔術における『色』である。
《普遍四元》と呼ばれる四大属性が根幹にあり、その四属性同士が合成することで生まれた属性を《派生五属》と呼ぶ。
九属性間において、相反関係あるいは相乗関係といった、"相性"が存在する。
《普遍四元》
火属性 Fegnier
水属性 Wasqua
風属性 Vent
土属性 Erdera
《派生五属》
雷属性 Dondirus
氷属性 Glaeis
木属性 Arbaum
闇属性 Raekel
光属性 Liex
〈相反関係〉
※「↔<⇔とする」
火⇔水
風⇔土
光⇔闇
火↔氷
雷↔土
雷↔水
〈相乗関係〉
火⇔風
水⇔土
水↔氷
火↔木
風↔雷
光↔雷
土↔木
※上記に示された属性関係はあくまで"便宜的"に設定された関係であり、時と場合によっては、属性関係を超える事象も起こり得る。
【魔力枯渇】
魔力がゼロの状態。魔術師は魔術を使えず、また高確率で気絶する。魔術師にとって、非情に危険な状態であり、場合によっては死に至るケースもある。この状態で魔術を行使しようとすると、"生命力"……すなわち命を、魔力へ変換して魔術を使うことになる。尤も、そうなる前に大半の魔術師は気絶する。故に、そうまでして魔術を行使する状況でなければ生命力変換での魔術は滅多に使われない。
【魔力回路】
ヒトの肉体にある神経回路。魔力を魔術へ変えるための路。魔力はこの回路内を流れている。心臓位置を起点とし、血管と同じ要領で全身に張り巡らされている。
【魔核】
正式名称『アステルサイト(Aster-cyte)』
人間の脳部分にある、魔術を発動させるために必要不可欠な神経細胞。その重要度は、魔力回路よりも高く、そもそもこの魔核がないと魔術は使えない。魔核と魔力回路はひとつなぎとなっている。
この魔核は、シーベール人にしか存在しない。他のエウローヴァ人には存在せず、突然変異で生まれたモノとされている。そのため、大昔において魔術師――というより、シーベール人は他国民から迫害を受けていた歴史を持っている。現在ではその迫害風潮は収まっている。基本的に、魔核は遺伝性のモノとされているが、ごく稀に突発的に魔核を持つエウローヴァ人が生まれることがある。
『アリスィア語』を詠唱することにより、発動させたい魔術のイメージが魔力に付与される。そのイメージが付与された魔力が魔力回路を通り、脳内にある『魔核』を通過したとき、魔力が魔術へと変換され、この世界に顕現する。いわば魔核とは、魔力を魔術へ変えるための翻訳器官である。
※『魔核』は絶対的に一つしか存在しない。ゆえに、魔術の同時詠唱ないしは同時発動は不可能である。
これが意味することはつまり、双魔核たるシオン・ミルファクは異常であるということだ。