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6話 街へ帰ってきました。

 依頼を終え帰路につこうとしたらちょうど商人さんの馬車が通ったので乗せてもらいました。


「おーい、もう直ぐ門だから降りてくれ」


「ありがとうございました」


「ん?良いんだよ。お金も払ってくれたし。礼儀正しいしね。それじゃ、街でまたあったら何か買ってってくれよ」


「はい、その時はぜひ」


「はっはは。嬉しいね。それじゃあ来てくれたら少し安くしてあげようかな」


 街では見かけた事のない商人さんなので露店に別の街から来た商人さんでしょうか?それともあまり行かない高級店が立ち並ぶセレブな区の方でしょうか。


 馬車用の検問場から離れて、顔なじみの門番さんの所へ行きます。


「んー通って良し。ようこそ、バリストへ。この街は貴方を歓迎しますよ旅人さん」


「ありがとう」


「楽しんで〜。次ー」


 いつもながら気の抜けた声を出しますね。それで門番を任されるほど観察眼と腕っぷしが良いんですから……。


「んぁー?リクトじゃねーか。出てたのか。依頼はどうだ?達成できたかー?」


 カードを渡します。


「こんにちは。依頼ちゃんと達成しました。これでDランクになります」


「ほ?そっか、もうDかー。年が経つのは早ぇな俺もうおじいちゃんだな。立ってるだけで腰がいてぇよ」


 腰をトントンするジェスチャーをしながら笑いかけてくる門番さん。


「変なこと言ってないで処理してください」


「いーだろー?後ろ誰もいないんだから。それに手は止めてねぇぞー」


 彼のいう通りちゃんと出入り記録に僕の名前を記入して、重犯罪をしてるかしてないかを専用の魔道具でカードから読みとってます。

 魔道具についてはお父さんの専門外だったそうなので、異世界の知識を持ってしてもわからないんだそう。


「んーできたな。重犯罪もなしっと……そんで、なんか失敗でもしたか?顔に出てるぞ。

 なんの依頼だったんだ?」


 ……そこまで顔に出てますか?基本僕無表情って言われるんですけど……。


「とぐろドクロです」


「あーあいつらか。崩しても復活早ぇし群れるし、ルーキーにはちょいと難しい相手だがリクトは魔法も使えるし、何より身の丈にあった堅実なスタイルをするはずだろ?まだレベルが低いとは言え遅れを取るほどの敵か?」


「いえ──」



 かくかくしかじか。



「──なるほどな。ユウイチさんから聞いたことを試したわけか」


「はい」


「あの人の戦い方は独特だからなー。なんだよ魔法物理って。魔法にあんな使い方があったのかって学会が騒いでたからな」


 魔法物理……「魔法で物理攻撃をする。そうすると判定(判定ってなんの判定でしょう)は魔法で攻撃した事になる」というものですね。今日僕がやった事の凄いバージョンです。

 学会っていうのは魔法学研究会のことです。主に新しい魔法を作ろうとしたり、既存の詠唱を短くしたり、日々学者や魔法使いが頑張ってるところです。


「そうなんですか?」


「あーお前さんが産まれる前だからな。まだ俺もガキだった時だ。最速でBランクに上りあげた謎の新人!ってな。さまざまな、だがどれも特異な戦い方で真似できる奴は一人もいない。強さも十分でランクSも夢じゃないって謳われてたっけ。

 ……今じゃ大人しくなったなぁ」


「そうだったんですか」


 お父さんはあまり冒険者時代の時の話をして……くれますね。でもそれは主に魔物のこととか、こういう時どうするかなどの体験談ばかりでした。


「おう。憧れだったんだよ。だがBから上がれなく……いや、わざと昇格試験を受けなくて上がらなくなって、世間からの注目も無くなって万年Bランク。学会も万人に有用な手ではないと知って注目から外したしな」


 なるほど。お父さんの言っていた『面倒』って言うのは貴族からの依頼だけじゃなかったんですね。


「学会の注目……」


「ああ、あいつらスゲーしつこかったみたいでな。『その魔法を開示せよー』とか、『全ての魔法使いのために献身をー』だとかよ。

 国の奴らだって、『その力をわが国のためにー』だとか『騎士に取り上げてやるー』だの。最近はマシになったがまだクソみたいな奴らが蔓延ってた時代だったからな。

 万年Bになったのはアイツらのせいもあると俺は考えてる。

 そう言えばあの人がちょくちょく姿を消す様になったのもその頃だったか?嫌気が差したんだろうよ」


「そうなんですか……」


「ああ、その前からふらっと居なくなってふらっと帰ってくる事はあったが、頻繁に姿を隠すようになったのは国や学会の奴らが出始めてからだ。

 その前から、って方は消えるたびに強くなって帰ってきてたから武者修行に出てたって言われてるが、流石に頻繁に隠れたのはなぁ……。

 あ、すまん。愚痴になっちまったな。まあでも、ランクを上げなかった事でこの門をずっと通ってくれる様になったんだから俺的にはちょっと嬉しかったりするんだがな」


 ハハハ、と軽く笑った門番さんは、僕の後ろに人が来たことで「んじゃ仕事すっか」と言って通してくれました。


 隠れた……あのお父さんが、って感じです。お父さんなら閃きでカバーできるところまではペラペラ喋って、自分の秘匿技術は全く喋らないどころかそれがあると悟らせない、ぐらいは普通にしそうですが。


 その前の武者修行も気になりますね。帰ったら何してたか聞いてみましょう。

 今はそれよりギルドです。早くDに上げてもらいましょう。



 気持ち早足で駆け、ギルドに行くと丁度帰ってきた冒険者達が換金したり、隣の建物の酒場に行ったりして多くの人で賑わっていました。


「次の方ーどうぞー」


「おい!どこも傷ついてねーだろ!もっと高く買い取ってくれよ」


 やっぱりガヤガヤしてうるさいくらいがギルドですね。本当は朝もこれくらいの賑わいなのですが、僕やお父さんはいつも来る時間が遅くてお目にかかれません。


 換金の列に並んで、横入りしてくる冒険者を阻止したりして時間を潰しました。

 あ、あと横入りは地味に印象が悪くなってパーティ組むのを拒否されたりするのでオススメしません。だからいかつい新人さん、並びましょう。


「ぁン?んだぁこのガキ……」


 横入りしようとしている新人さんが僕を睨みつけて舌打ちをした後、明らかに中古の、少し錆びてる剣の柄を握りました。


「横入りはいけません」


「ああ!?ヤンのか!?」


 新人さんの声が思いのほか響いたためギルドが水を打ったように静まりました。

 あ、受付嬢(2)さんが近づいてきました。こんばんは、今日も狐耳がもふもふしてますね。……うずうず。


「……ギルド内での戦闘は禁止行為です。今すぐ武器から手を離してください。

 それとリクト様、視線で丸わかりです」


「ああ?ぁンだこのアマ。ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」


「注意事項、登録時にお教えしましたよね?それと迷惑となる行為の説明も」


「ハァ?ンなもん知るかよ」


「カウント1。注意が1回目ですので罰則はありません。ですが次からは罰則がございますので悪しからず」


「……ハァ?」


 あれ……?もしかしてカウント1の意味がわからないんですか?


「おい……あいつ」


「……しゃーねー、俺が注意してくるわ。

 おーいニュービーこっちこーい」


「あぁ!?テメェもヤンのかよ!?あ!?お、おい!放っ放せ!!うわぁ!?」


 奥の席で駄弁りながら報酬を分けていたパーティの一人が無理やり外に連れ出して行きました。

 ……あんな新人さんまだいたんですね。絶滅したかと思ってました。

 受付嬢(2)さんも頭が痛い様子でカウンターに戻っていきました。


「次の方ー。あ、リクト君おかえり〜」


 僕が絡まれて受付嬢(2)さんが注意している間も列がさばかれていたため、はやくも僕の番が回ってきました。


「受付嬢さん。ただいまです」


「はいただいまありがとう。それで……あー、とぐろドクロの依頼だったわね。頭蓋骨出してー。あ、余剰分もあったら出してね?」


「はい……これですね。それと途中で倒した別の魔物の素材もいいですか?」


「いいよー纏めて換金してあげる。あ、魔石も出す?」


「いえ、魔石は使います」


「ん。じゃあ……魔力のこもった頭蓋骨、9個ね。6個は依頼達成の為で、残りの3個は規定の買取価格で。それでこっちは……シャープバニィのツノ?あ、ナァルワルドッグの方ね。それが4本。これも規定価格でいい?」


「はい。よろしくお願いします」


「はーい。じゃあ、依頼料の銀貨4枚と、余剰分の銀貨1枚と半銀貨2枚。ツノの方は半銀貨8枚で合わせて銀貨6枚。

 あ、銀貨1枚くずす?」


「いえ、そのままでお願いします」


 お金は上から金貨、半金貨、銀貨、半銀貨、銅貨、半銅貨に分けられています。それぞれ上のお金にあげるには10枚必要です。

 一食大体銅貨1〜2枚。リンゴが2個で半銅貨1枚ですね。


 異世界の国の単価だと、いくらになるんでしょうか?こっちのリンゴは異世界より安いって言ってましたね。前にお父さんに聞いた時は「半銅貨100円から150、200円はあるかな?」って言って、100円硬貨を見せてくれました。

 オモテに100と文字、裏には文字と精密な花の模様が浮き彫りで描かれていて、ただ銅貨を半分に割っただけの半銅貨よりこれが安いとはとても思えませんでした。


 と、話が逸れてしまいましたね。


「そっか、じゃあ6枚。」


 そう言って手渡しで銀貨を渡してきます。

 ひぃ、ふぅ、みぃ、よ……たしかに6枚ありますね。


「はい、しっかりと」


「うん。その場で確認してくれるとこっちも助かるわ。じゃあ本題ねー。ギルドカードちょーだい?」


「はい」


「じゃあ、上げてくるね」


 奥に引っ込んでいった受付嬢さんの代わりに別の人がカウンターに座って列をさばき始めます。

 邪魔になるので待ってる間は横にずれておく事を忘れずに。これはギルド内の常識です。やってないと後ろの人と前の受付嬢さんに怒られますし。

 と、カウンターに来たグループに話しかけられました。


「おう、リク坊」


「マーヤさん」


 この人は僕がたまに入れてもらうパーティの後衛、女性魔法使いのマーヤさんです。魔法使いなのに喧嘩の腕も強い酒場の人気者ですね。

 戦闘スタイルは後衛も後衛、仲間に守られながら完全詠唱して魔法を叩き込むスタンダードなスタイルの方。


 依頼の報告をしに来たみたいで、他のパーティの方、リーダーのジーンさんは受付嬢さんと話してますし、もう一人のテスさんはもう酒場に行ったみたいです。


「そう言えばリク坊、今日の依頼、獲物は何だったんだ?」


「とぐろドクロですね」


「あーアイツらか。私は魔法使いだから良いけど、テスが苦手だったな。一人でか?」


「そうですね」


「ははーやるな」


 うりうりと頭を乱暴に撫でて来ます。


「や、やめてください」


「んー?がんばった後輩には褒美を上げないといけないだろ?どうだ、綺麗なおねーさんからの撫で撫でだぞ、嬉しいだろ」


「そ、ソウデスネ」


「はははっはっきりいっていいんだぞリクト。どこに綺麗なおねーさんがいるんだってゴホッ!?」


「ジーン、お前は少し女性への扱い方を学んだ方が良いぞ?リク坊のようにな」


「いきなり殴る事ねーだろ!それに女性なら殴って来ねーよ!」


 会計を終えたジーンさんが助けてくれた代わりに殴られました。何だか少し悪い気がしますね。


「ハハッ違いねぇな!」


 マーヤさん本人も認めるんですか。

 でも、これくらい軽口を言い合える方がパーティとしては長続きするんだそう。


 人数が多くなったので、ひとまず休憩スペースに行き雑談……というよりマーヤさんが僕をいじり、ジーンさんがそれを助け……てはくれずに僕をいじりました。


「……つーん」


「すまんリクト。ちょっと調子乗った」


「……まあ、良いですケド」


「ああ、すまん。面白くて割と調子に乗ってた。重ね重ねすまん」


 ちょっとじゃなく割と調子に乗ってたんですか。

 ……はぁ。


「……許します」


「ありがとう!」


 許した途端に肩を組んできました。まったく、げんきんな人です。


「そういやリクトって、今日何狩ったんだ?」


「一人でとぐろドクロだとよー」


 僕の代わりにポーチからお菓子を出して食べているマーヤさんが答えました。そのお菓子美味しそうですね……あ、手作りなんですか。意外と家庭的なんです……何でもありません。


「あ、美味しい」


「だろ?」


「とぐろドクロかーあれは結構面倒……ん?あれ?」


 ふむふむ。これは、ほうほう。


「結構イケるだろ?」


「……凄くイケてます。ご馳走様でした」

 

「リクト?お前Eだったよな?」


「お、そう言ってくれると嬉しいな。口にあったなら良かったぜ」


「正直、普通にお店で売ってるものと遜色ありませんでした」


「そ、そこまで言ってくれるか?何だか照れちまうな」


「とても美味しかったです。またいつか食べさせてくれますか?」


「お、おう。作ってやるよ。……私を照れさせるとはなかなかだな。この天然年上キラーめ。お前の隠れファンが居るのも納得したわ」


 天然年上キラー?隠れファン?え、何ですかそれ初耳ですよ?そんなこと言われたり居たりするんですか僕。


「ねえ?俺の話聞いてる?」


「詳しく教えてください」


「あーすまねぇな。あいつらには借りがあって話せねぇんだ。それに、借りがなくても面白いから話さねぇがな。あっはっは」


「あっはっはじゃないですよ……」


「ねぇ!?意図的に無視してない!?」


「あー?なんだよジミー」


「ひっど!?俺リーダーやってんのに地味なの気にしてんだからな!?てか俺が地味なんじゃねーよお前ら二人が濃いんだよ!!」


「で?話って?」


「早く進めてくださいジーンさん」


「リクトてめぇ根に持ってやがんな!許したってのは嘘か!……はあ、まあいいや。

 リクト、お前ランクはEだったよな?」


「はい」


「それがどーしたよ?」


「それで、とぐろドクロの依頼を一人で受けて、狩ったんだよな?他の誰かの依頼ってわけでもなく」


「はい、そうですよ」


「だーからそれがどーしたってんだよ?」


「マーヤお前……。

 ま、まあいい。いいか?リクトはEランクだ。そしてとぐろドクロの依頼、これは基本的にDランクの依頼だ。つまり、リクトは昇格依頼を受け達成したって事だ。……あってるよな?」


「はい、そうですね」


「なっマジかリク坊!ついにお前もDか!」


 驚き過ぎですマーヤさん。あっ撫で撫でやめてください本当に痛い痛い痛い!?


「はっははは!いやーめでたいな!おねーさんなでなでしちゃう!いつもより多く撫でてやる!」


「痛い!」


「ちょっマーヤ!ストップストップ!マジで痛がってるから!」


「はっはっはっ」


「あっバカコイツ自分の笑い声で聞こえてねぇ!おい!」


「ははははは!!」



 ▼



 やり過ぎたことを反省して謝ってきたマーヤさんを許し、そろそろテスさんを迎えに行かなければいけない二人と別れてカウンターに戻ってきました。


「あ、話は終わったのね。ちょっと入りづらかったから後にしちゃった。ごめんね?」


 ちろっと舌をだし謝る受付嬢さん。


「いえ、こちらこそ長話してすみません」


「ああ、そこまで謙虚にされると返し辛い!ほんと、リクト君って礼儀正しくて謙虚よね。美徳だけどそれで損しないでね?はい、ギルドカード」


「ありがとうございます」


「うん!ランクアップおめでとう!リクト君!」


 受付嬢さんが大声で言うと周りの冒険者達がおめでとうと言ってきてくれます。


「……ありがとうございます」


「あ、照れてるな〜?」


「照れてません。帰ります」


「気をつけてね!遅れてごめんなさい、次の方ー」


 まだおめでとうと言ってきたりニヤニヤ顔をする冒険者達から逃げるように帰りました。

 もう、ギルド内の雰囲気がいいのはいいんですがああいうのはニガテです……。


 ……でも、たまには悪くありませんね。


 ギルドカードを見ると表面に僕の名前とDの文字が。


「……♪」


 すこし駆け足で帰りました。

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