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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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鏡の如き

「こうりゅう」からボートが出て、「とつか」に接舷した。梯子を上って、甲板に上がったのは3人の女性士官であった。

嫌そうな顔をしながらも甲板におりて、「とつか」艦長の苅谷は3人の士官を出迎えた。

互いに敬礼を交わしたあと、苅谷艦長は艦長室へ士官を案内した。3人の士官を席につかせ、艦長も腰を下ろすとまずこう言い放った。

「元気そうで何よりだ」

「教官様も元気そうで何よりですわ」

3人のうちの1人がそう言い返した。

「ここ数年、何度お前らが同期でなければと思ったことか…。挙句の果てには共同戦線を張ることになるとはなー」

苅谷は頭に痛みを覚えて、軽く首を振りながらそう言った。

「まあ、同期の中でも出世頭の人が何をおっしゃるんですか?教官様のおかげで対水上艦艇訓練では…」

先程とはまた別の1人がそう答えた。

「少しでもこっちに対する尊敬があるなら、まずその呼び方をやめろ」

「教官様がおっしゃるのなら仕方ありませんね」

残りの1人が軽い笑みを浮かべてそう答えた

「…もういい、ビール1ダースやるから帰ってくれ」

投げやりな表情になって苅谷はそう言った。そして、席を立って、部屋の中にあった金庫の鍵を開けると中から作戦書を取り出し、机の上に無造作に放り投げた。

「これは追加だ。中身については、開封時間が書いてあるから、その時に開けるようにということで、自分にもわからん。まあ、気張ってやるようにと伝えてくれということだ。それを持ったらすぐに出て行ってくれ」

そう言って、艦長室のドアを開け、開けた先に立っていた副長に、副長、お客様がお帰りだというと、そのまま苅谷は立ち去ってしまった。怪訝な顔をして、副長の水島は艦長を見送ると、艦長室を覗き込んだ。

「あれ、先輩方こんなとこで何してるんですか?」

そしてこんなことを口走ったのが運の尽きだった。あっという間に、出て行った艦長の代わりにつかまり、世間話のいいダシにされてしまったのである。そのまま、15分にもわたって、水島は拘束され続けた。


同時刻 国防省統合幕僚長室

「それで、藤枝君」

「はい」

藤枝海上幕僚長は、立見統合幕僚長から呼び出しを受けて、この部屋に来ていた。

「例の第8艦隊の件だが…、向こうが態度を硬化させたらしい。とりあえず、兵装を乗せていない民間船なら入港を認めるということになった」

厳しい顔をして、統合幕僚長はそう言った。

「そうですか」

そんなことはわかっていたと言外に匂わせながら、海上幕僚長はこたえた。

「もちろん、国防軍にそんなものの持ち合わせなんかあるわけがない、というわけだ。何か、いい案はないかね、藤枝君?」

回転椅子の背もたれに寄りかかり、背後の壁のほうに向きを変えながら、統合幕僚長はそう言った。

海上幕僚長は、統合幕僚長の執務机の上に置かれた『くさなぎ』の模型をいじくりまわしながらその艦橋をじっと見つめると、深く息をついた。

「そう言われましても…。いっそのこと、救助した兵士ごと、沖縄まで移動させますか?」

その言葉を受けて、統合幕僚長はくるりと向きを変えて、海上幕僚長に向きなおった。

「そんなことができるわけはないだろう。が、いい案を思いついた。感謝する。下がっていいぞ」

まくしたてるように、海上幕僚長に言い立てると、執務室から、海上幕僚長を追い出した。

そして、内線電話を取り上げた。

「清水君、すぐにこっちに来てくれ。…うん、例の件の対処を思いついた。」

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