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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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口頭試問

「で、用件は何なんです?参考人としての呼び出しを途中で抜けたのですから、次は喚問される可能性もありますよ」

国防省に着くなり、黒木陸将補は、恨み言をぶちまけた。

「……国会で、あることあることぶちまけようとしただろ。連絡担当の事務方が腰を抜かしてこっちまで飛んできたぞ」

それに苦言を呈しているのは、立見統合幕僚長だった。

「ああ、あれ、新任の人だったんですか。それは、悪いことしましたね」

「お前は、背広組のことももう少し知っておけ。そろそろ苦情が来るぞ」

「いや、ただの使い走りのように見えたので。それほど気にかけてくれているとは思いもよらなかったものですから」

ここで立見統合幕僚長は、大きく溜息をついた。

「お前が、ろくなことを言いそうになかったから、緊急に呼び戻したんだよ。これ以上、国防軍の立場を悪くさせんでくれ」

黒木陸将補は、大仰に驚いたふりをして言った。

「まさか、統合幕僚長、国会で証言しようとした自分の身柄を抑えにかかったんですか?それは、シビリアンコントロールに違反することに繋がりかねませんよ?」

「……お前はわかってやっているからたちが悪いんだ。悪ふざけは、国防省の中だけでやってくれ。国会でやられたてはたまらん」

「自分はいつでもまじめですよ?」

「…南鳥島の巡航ミサイルの先端にでも載せてもらうことにするか。お前なら、敵さんにも甚大な被害を与えられそうだ」

そこで、黒木陸将補は参ったというように両手を挙げ、応接用のソファーにどかりと座り込んだ。

「わかりました。用件を聞きましょう」

その言葉に、背中を預けていた椅子から身を乗り出して、統合幕僚長は言った。

「国会で連絡は受けただろう。それの追加事項だ。これを読め」

すると、応接用のテーブルの表面に文書が()()された。

「『瓦全』ですか…。なるほどそういうことですね」

机の上には『瓦全』と達筆な文字が映し出されていた。

「意味の上では『玉砕』の真逆の言葉ですな。瓦となりて全くするより、玉となりて砕けよ、とは誰の言葉でしたっけ」

そういって次のページを捲っていくと、その顔つきはだんだん厳しいものになっていった。

そして最後のページまで読み終えると、その顔つきのまま統合幕僚長のほうを向いた。

「…正気ですか統幕長。一人の軍人として私見を述べさせていただきますと、こんな作戦は論外ですよ。軍人であればこんな作戦に喜んで参加するわけはありません。ただ、一個の人間としては、最高の作戦ですね」

統合幕僚長は、黒木陸将補を見つめ返した。

「もしこの作戦が発動された場合、実施は困難を極めるだろう。その場合の指揮を君が引き受けてもらいたい」

「しかし、こんなに無茶苦茶な作戦を立てたのはどこの誰です?」

統合幕僚長は、椅子に背を預けると後ろの壁を向いた。

「君には話せない。作戦部のとある幕僚ということまでにとどめておこうか」

それを聞くと、黒木陸将補は立ち上がった。

「…自分へのお話は以上ですか?」

「…ああ」

「では失礼しました」

そういって、あっさりと黒木陸将補は統合幕僚長室を出て行った。

その直後、しっかりと扉が閉まったのを確認した統合幕僚長は部屋の中にあったクローゼットを開けた。

その中には、明石情報部長がいた。

「これで今日は終わりか、統合幕僚長」

「そうだな」

「しかし、クローゼットとはまた懐かしいものだな。昔はよく中に忍び込んだものだが」

そういって明石情報部長と統合幕僚長はひとしきり笑った。

笑いも収まり、情報部長も真顔に戻ると、統合幕僚長に今回の成果を訪ねた。

「それで、今回の面接はどうなんだ?非常時の最中にやっただけの価値はあるんだろうな?」

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