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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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一炊の夢

漸く落ち着いた、委員会室の参考人席で、黒木陸将補は溜息をついていた。

(なぜ、海軍が率先して実行した作戦の説明を、陸軍所属の私がしなければならないんだ?!海軍の作戦担当者はどこに行ったんだ!?)

傍目で、今参考人として出席している、装備開発局のなんちゃらという人が話しているのを見ながら、自分の不運を呪っていた。只見先生のところに説明に行ったのなら、参考人として似たようなことを言って来いと、立見統合幕僚長から言われたのである。その隣には、三軍の幕僚長、国防事務次官そして、国防長官もいたため、文句を言える雰囲気にもなかったのである。

そんな黒木の思考を置いて、委員会は進んでいた。

「…今回使用された兵器は、装備開発局が株式会社大河内総合研究所に委託して研究を行っていたもので、8年ほど前に、偶然に発見されたものです。当時はまだ、用途の目途も立たず、また、十分な量も確保できなかったことから、詳細な特性が不明でした。3年前に簡便な生産方法が確立され、秘密裏に試験を繰り返し、同年8月24日に特許を申請しております。昨年度より、国防軍に対して納入を開始し、対生体兵器用として、配備されていましたが、今回の実証実験を持って、装備開発局によりNPBと名称が決定し、今日の午前五時に正式に配備されました」

以上です、と締めくくり、吉岡装備開発局局局長は元の席に戻った。

「次に、時田参考人にお願いいたします」

「おはようございます。大河内総研の時田と申します。今回の実験に使用された兵器の開発としての観点から、今回の実験についての意見を述べさせていただきます」

その時に、会議室の扉から背広を着た者が入ってきた。そのまま、参考人席に座っていた黒木陸将補に近づくと黒木陸将補の耳元に口を寄せた。

「陸将補、統幕長から伝言です。『黒木陸将補、本日一二○○を持って第五独立即応旅団に配属する。顧問という立場で、各部への助言を行え。急を要するときは指揮をとってもかまわん。これは次いでだが、くれぐれも国会で口を滑らせるんじゃないぞ、いいな』とのことです」

その伝言に、黒木陸将補は舌打ちをしかけたが、ここが国会であることを思い出し、思いとどまった。そして、少し頭を巡らせると、伝言役の男の耳に口を近づけて言づてを頼んだ。

「統合幕僚長に、分かったと伝えてくれ。ああ、それと、迷惑料はすぐに払ってもらいますと、一言一句丁寧に伝えてくれ」

伝言役の男は少し顔をしかめたものの、わかりましたと言って、会議室を後にした。

(さて、統合幕僚長には警告したから、自由にやらせてもらいますか)

心機一転、そんなことを考えながら、委員会に意識を戻したときに、国防省用の端末に呼び出しが入った。

時田の参考人意見陳述は中断し、全員が自分に注目したように感じられ、黒木は肩が狭くなった。ぎろりと只見委員長代理から睨まれ、さっと挙手をした。

「黒木参考人、現在は、時田参考人の参考人意見陳述の最中です。また、委員会室に入る前に、マナーモードに設定するなどの対策をとるように要請したはずです。以後留意してください。改めて、黒木参考人」

気まずい顔をして、黒木陸将補は立ち上がった。

「国防省からの緊急の呼び出しです。事態急変の可能性があるため、委員会を中座してもよいでしょうか」

その言葉に、只見護は溜息をつきながら言った。。

「委員の諸君、黒木参考人が、本委員会参考人質疑を中座することに御異議ありませんか」

「異議なし」

松田議員の、野太い声がよく通った。

「異議なしと認められましたので、黒木参考人の中座を許可します。では時田参考人、意見陳述を再開してください」

その言葉を聞きながら、黒木陸将補は国防委員会を中座した。

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