秀英の学び舎
翔と勇は、まだ『神雷作戦』が発動されたことを知らなかった。つまり、普段通りに、学校に登校した。
ここ数日のごたごたで2人とも疲れており、それぞれ日課であるニュースの閲覧をする暇もなかったのである。
学校についたとき、アメリカの機動打撃群が小笠原諸島沖で甚大な損害を受けた話でもちきりであった。それがもととなって、校内全体に異様な興奮状態が流れているようだった。
「上原、いったい何が起きたんだ?」
翔は、教室にたどり着くとすぐに上原を捕まえて尋ねた。
「大河内、お前国防軍にいるのに、知らないのか?日本の排他的経済水域内で、アメリカの空母部隊が戦略ミサイル攻撃を受けたらしいぞ。連絡来てないのか?」
連絡は来てないわけではなかった。ただ、見ていなかっただけである。
「それで、どうかしたのか?」
上原の質問には答えず、翔は質問をつづけた。
「国防省がまだその件に関して、対外公表をしていない。アメリカの国防省も状況が把握しきれていないという情報も入ってきている。だから、日本の国防省の説明に注目が集まろうとしている。よりにもよって、今日衆議院の安全保障委員会が開かれる。そこで説明があるのではないかということなんだが…」
そこで上原はお茶を濁した。
「どうした?」
大河内は、そこから先を知っていたが怪訝そうな顔をした。
「本当に知らないのか?どうやら、アメリカ軍を攻撃したのは日本らしい」
そこでさらに翔は考え込む素振りをすることにした。傍目には、記憶を辿っているようにしか見えない。
「何か心当たりでもあるのか?」
興味深そうに上原が聞いてきた。
「いや、今思い出せない。何かあったと思ったんだが…」
「そうか」
「ところで、授業はどのくらい進んだんだ?こっちは、いない時間のほうが長かったからな」
どうせ、今ここでこっちがしゃべったことを、総理に報告するのだろうと心の中で思い、翔は話題転換をした。別に報告されて困ることではないが、防諜の上で、総理にすぐに報告するわけにもいかないのである。どこからか、機密が漏れているらしいというのはかなり前から言われていたが、その出所がつかめずにいるのである。
「そんなに進むものでもないぞ。授業のオリエンテーションが一通り済んだくらいだ」
「ここの学校はいまだ前時代的だからな、新鋭の国立学校が聞いて呆れる。なんで、教師がいまだ教壇の前に立つんだろうな」
現在のほとんどの高校においては、クラスの概念というのは学校行事のために存在しているようなもので、入学時に渡される端末さえ持っていれば校内どこでも授業を受けることが可能である。端末が破損するなどした場合のために、特別教室は残っているが、大抵の教室は、ただの集会場所みたいな感じでしかない。
ところが、国立高等学校は未だに教師が直接、教室で授業を行うというシステムを採用し、通常に比べかなり早い進度で授業が進むという、ちょくちょく休まざるを得ない生徒がいるという実情を無視したような制度であった。まあ、ちょくちょく休むような生徒は、国内屈指の秀才ではあるから、何一つ困ることはないのだけれども。
「まあまあ、それでも全員が、秘密情報に接する資格を持ったキャリア官僚の落ちこぼれみたいなものだからな。なかなか際どいことまで言ってくる」
こんなところに入る必要あったのかと翔は思いながら、文句を言わずに席に着き、朝礼を待った。