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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
70/82

時こそ来たれ

午前0時34分南鳥島北東沖60km

護衛艦「あおぎり」


「甲板上の乗員は艦内に退避、繰り返す、甲板上の乗員は艦内に退避」

ブザーの音が鳴り響くと同時に、「あさぎり」の艦上にそのような音声が流れた。

訓練されいたように乗員は退避し、甲板上に乗組員の姿は見えなくなった。

艦内のCICでは、規定された通りに総てが進行していた。

そして、総ての締めとなる言葉が発せられた。

「『すおう』より通信、『各艦、用意ヨシ。第二段階ヘ移行セヨ』」

その言葉に艦長は頷いた。

「これより、『マルと』の実地運用試験を開始する。目標海域周辺に存在すると思われる船舶へ向けて、再度警告を行う」

通信員が、国際周波数上で警告の言葉を繰り返す。実際には、民間船などいないため、アメリカ艦隊に向けられたものであった。

「警告に対して、応答ありません。目標となる海域に、()()()()()()()()()()と思われます」

ニヤリとしながら通信員が告げた。

アメリカ艦隊はステルス性を持っているため、()()()()()()()には映らない。つまり見えない事になっている。すべて予定通りであった。

艦長は息を深く吸い込むと次の一言を発した。

「よろしい。Aブロック1番より五八式対艦誘導弾発射」



「Aブロック1番より五八式対艦誘導弾……発射」



射撃管制員が復唱し、発射ボタンを押した。

艦体が小さく振動した。

と同時に、レーダーに輝点としてミサイルが表示された。

それは、数分もしないうちに、アメリカ艦隊の近くまで飛んでいくであろうということは、ほとんどの者が予想できた。残りの者は、そうなることがわかっていた。


その頃、只見護衆議院議員は議員会館である政治家と話し合いをしていた。

「松田、私は、こんなことは日本はもうできないと思っていた。大学時代からの賭けだったがな、俺の負けだ。ハハハ」

「天罰だよ、只見。散々俺の言うことを聴かんからだ。あのときの賭けの内容覚えてるか?」

会話も和やかなものである。

「忘れもしないよ。これだろ?」

そこに置かれたのは、焼酎の一升瓶だった。

「よく覚えていたな。俺もあの頃は将来も考えていない悪タレだった。将来政治家になるであろう、お前に嫌がらせをさせたかったわけだ。しかし、自分にもツケが回ってきたな」

その言い振りに、只見も苦笑した。

「そうだな。賭けの内容は、『もし、自分たちが生きている間に日本がアメリカに喧嘩を売れるようになった時はこっちが酒を買って2人で1晩中呑み明かし、そうならなかった時は、お前がこっちの葬式代を払うこと』だったな。明日は委員会確実にあるぞ。それでもやるか?」

その答えに、只見と話していた政治家は目を据わらせた。

「委員会がどうしたと言うんだ?どうせ事後報告しか受けない。意味もなかろう。それなら、パーッと祝杯を上げるほうが合理的だ」

先程から不穏当な発言が目立つ、この政治家は、松田(まつだ)久介(きゅうすけ)という。与党の幹事長で、国防省に深い関わりを持つ政治家である。只見護とは、中学時代からの同級生でもあった。

「祝杯じゃない、これは約束の酒だ」

流石に看過できない発言も含まれていた。只見は少し釘を差しておくことにした。

「ああ、そうだった。約束の酒だったな」

ニヤニヤしながら松田は、一升瓶の栓を抜き、只見のコップに一杯に注いだ。

「それじゃ、お前からだ」

その言葉で、二人の酒宴はスタートした。

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