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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
68/82

終わりの始まり

そのような会話が国防省の建物でかわされた、その日の23時45分

南鳥島北東沖60km


「司令、横須賀から通信です。市ヶ谷からの連絡を回したものだと思います」

「ありがとう」

ヘリコプタ護衛艦2隻を基幹とする、第8艦隊の旗艦「すおう」のCICで、第8艦隊司令高野(たかの)(ひかる)は通信を受けた。

通信担当の乗員から通信を受け取り、その内容に目を通していくうちに、その目は驚きの色に染まっていった。

「この内容は本当なのか!?」

思わずそう問いかけてしまうほどには驚かれる内容だった。

「いえ、本官は、この通信を司令のみに渡せということでしたので、それを遂行したまでです」

そして、通信担当の乗員がそういうのも正論であるような内容だった。

司令は乗員の方を一瞥すると、黙って CICを出ていった。黙って退室することはあまりないため、その場にいた全員が司令の行動を不可解に思った。

司令は、CICを出ると、まっすぐ、司令に割り当てられている部屋に向かった。先程届いた通信は、その部屋の金庫の中にしまわれている、大量の命令書のうちの1つを参照せよという命令だったのである。そのような内容の通信が、平時に送られることはないため、緊急の事態が起きていることは予想できた。

(沖縄周辺に派遣されていないぶん、安全という点ではマシだが、世界最大級の艦隊の前にいるわけなんだよなあ。無茶苦茶な指令でなければいいんだが)

そう思いながら、司令は個室に入り、その金庫を開けた。

(ZA-216Lねぇ…。どこだ?)

古い方のファイルから探していくのだが見つからない。5分もかかって、問題のファイルを見つけ出した。

(前回の出向前に渡された書類じゃないか。つまり、新情勢を加味した作戦なんだろうが…、中身はなんだ?)

パラパラとめくっていくごとに、司令の顔付きは厳しくなっていった。現在の情勢、各艦に積まれている兵器、各可能性のフローチャート、それらのページを一つ一つ見落としがないように覗いていたが、どれもこれも、先行きの怪しい話であった。

そして一番最後のページに書いてあることの衝撃で、司令の顔は真っ青になった。

「OT1を、命令書開封命令の1時間以内に実行せよ」

それが内容であった。

部屋の中にあった水を1杯飲んで、司令は艦内電話を取り上げた。

「CIC、こちら第8艦隊司令の高野だ。只今、OT1を発令する。速やかに艦隊の各員に通達し、第一種警戒態勢に入れ。各艦の艦長に連絡、至急、『すおう』に集合せよ、以上だ」

喉が今にもかすれそうになるのを抑えて、そこまで言い切ると、室内にあった正装に着替えて、高野は部屋の外に出た。


15分後、早くも、艦隊に所属する艦の艦長が全員揃った。

「さて、諸君も知っての通り、OT1が発令されている。発令された時点で確認した行動を各艦が取るように。特に、『あおぎり』には今回の作戦の基幹となる行動をとってもらう。十分に気をつけてほしい。何か意見等はないか」

高野司令の質問に、声を発するものはいなかった。全員がお互いをちらりと見回し、最後に司令の方を向いて小さく頷いた。

「それでは、〇〇三五より、作戦行動に移る。諸君、気を引き締めて行動に当たれ」

そうして、締めの訓示を行い、艦長は各艦に散っていった。

(ZA-216L、最終作成者は立見さんだったな。つまり、これからのことが予定通りに運んだときに待ち受けていることを知っているのは…)

散っていく艦長を見つめながら、高野司令は南方の海上に思いを馳せた。

アメリカの空母打撃群、世界最強だった海軍の一角がそこに存在しているはずであった。

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