霞と八雲立つ
「会うのは初めてだな。上原だ」
「初めまして、只見勇です」
「上原は、第三次世界大戦時の総理、上原明保氏の孫にあたる。祖父の仕事の都合上、昔からの知り合いだ」
ここで、勇は大介を紹介することにした。
「こちらが、谷大介君だ」
「第三次世界大戦時の防衛、国防大臣が谷次郎氏だったがその孫か。よろしく、大河内翔です」
「よくそんなことまで知っているね…。こちらこそ、谷大介です」
丁度、そこに担任が教室に入ってきたため、4人は席に戻った。
あたりさわりもなく、入学後の指導も終わり、4人は、教室の片隅に集まり、話をしていた。
「そういえば、君たちは、省庁選択者なのか?」
大介が質問を発した。
「俺はそうだがお前らもそうか?」
これに高司が答えた。
「ああそうだ。」
これに勇が答える。
「じゃあ、どこを選択したんだい?あ、僕は、国防対生体兵器軍だ」
「俺は、首相官邸付だ。経験者の孫がいると意思を汲みやすいらしい。ハハハ」
この高司の後に、勇が続けて
「こっちは、国防省装備開発局だな。専門がないからなんでもすることになっているが」
「自分は、国防軍統合幕僚監部になっている」
この翔の発言は他の者を驚かせた。軍隊を素人に指揮させることは、ほぼありえないことである。それを実現させたということは、その能力が非常に高いことを示していることに他ならない。
「本当かよ…」
「お前ならありそうな話だ」
「勇、人のことを言う前に、お前は、風紀委員会に勧誘されていたんじゃなかったのか」
ここで、勇は、嫌な予感を覚えた。
「そうだ、用事を思いだした。誰か先輩が来たら適当に言ってくれ」
「おい、只見!」
高司の制止を無視して、勇は荷物を大急ぎで抱えて、教室を出て行った。
2階の教室の窓から。
それと同時に、教室ではドアが開いて、風紀委員長が入ってきた。
「只見勇というやつがここにいなかったか?」
さすがに3人が嘘をつくこともできず、翔が代表して言った。
「今しがた教室を出ていきましたよ」
「嘘をつけ、今まで、ドアを見張っていたが出てきてはいないぞ。どこにいるんだ?正直に答えろ」
「ですから、教室の窓から出ていきました」
「なんだって!!……はぁ、逃げられたか。明日は必ず捕まえてやる……」
間の悪い空気が、教室中に漂ったと感じられた。
心配になった翔が声を発した。
「……あのー」
「なんだ」
不機嫌な声で切り返された。
「自分たちは帰っていいですか。所属官庁への顔出しがあるので」
「ああ、いいぞ。ただし、だ」
翔にも嫌な予感が過った。
「何でしょうか」
「そこの新入生代表は、私と一緒に来い」
「…わかりました」
この時、翔が勇を恨んだかどうかはわからない