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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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南溟の大魚

「分かった。しかし、国防長官を呼んだほうがよいのではなかろうか」

山中官房長官に緊急に面会していた3人に対して、報告を聞き終わった官房長官はそう答えた。

もちろん、実験にアメリカ艦隊を巻き込んでしまえばいいといったことは一言も言っていない。

「いえ、国防軍に知らせてしまった場合、敵に情報が漏れる恐れがあります。国防省は、スパイの巣窟と思ってもらっても差し支えありません」

ここもですがね、と心の中で毒づきながら、秋草課長が反論する。

「しかし、現段階で、アメリカと事を構えるのはまずいだろう。国防省がテスト計画の変更を、何の理由もなしに受け入れると思うか?」

「簡単ですよ、最高指揮単位が行動計画を承認しなければいいのですから」

「実際は、そう簡単に運ぶことはないんだ。そんなことは君だってわかっているだろう」

「こういうことのために、シビリアンコントロールがあると思っているのですが」

「君らもわかっていると思うが、今現在、アメリカと事を構えたくはないんだよ。ただでさえ、東亜共和国が今にも侵略してきそうだからな。はっきり言って、国防軍に二面作戦は展開できん。しかし、このテストを中止にすると、前者の要求は満たせても、後者の影響は無視できなくなるレベルに達してしまう」

「二兎追う物は一兎も得ません。この際どちらかを捨てるべきでは」

「それもまた、総理の決定によらざるを得んのだ。君らには決定権がないから気楽だろうがね」

最後に正論をはいて、官房長官は天井を見上げた。

「今村君、君はどう思う」

そして傍らにいた、今村補佐官に話を振った。

「この際、アメリカ軍に事前に通達する危険範囲を広げ、アメリカがそれを無視した場合、テストは実行するということでよいのでは。短期的には、東亜共和国の矛先も鈍るでしょうし、長期的には、アメリカ太平洋艦隊の力を削ぐことになります」

勇に一高の生徒会長でもある今村の積極的な一面を垣間見た気が沸きあがった。そして、今村の発言は、勇の発言と同じことを示唆していた。

「つまり、巻き込まれるかどうかは、アメリカ軍の出方次第ということにするのかね。まあ悪い話だけではないのだが」

「長官、取り敢えず、この件を国会に通知した後、対策を取られるよう進言します」

これ以上話をややこしい方向に持っていかれると時間がなかったため、大島局長が、官房長官に促した。

「そうだな。夜分ご苦労だった。次はもう少し早めに頼む」

愚痴とともに労いの言葉をかけて官房長官が立ち上がった。

「失礼しました」

その言葉を背に、3人はその場を後にした。


「只見君、君はもう帰れ」

部屋を出るなり、勇は秋草課長からそう言われた。隣で大島局長が難しい顔をしていた。

「どうしてです」

「君も軍部の人間ではあるからな。伝えたくない事項というものはあるんだよ」

「いつ、その事項は自分に伝えられますか」

この質問に秋草課長は虚を突かれた顔をした。そこに局長が助け舟を出した。

「『アキさん』のとこの坊主、これはテストだ。今回の件でお前の能力を見極めさせてもらう。それには不要な内容だ」

「そういうことですか。テストされる内容は?」

「東亜共和国に対する情報評価、行動予測そして、それに対する対処だ」

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