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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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赤紫に水清き

「事態は一刻を争う。情報調査局長の大島さんに連絡を。私は関係書類を集めてくる」

「わかりました」

帰宅時間が大幅に遅れることが頭の片隅に浮かんだがもうどうしようもなかった。


「四課です。大島さんはいらっしゃいますか」

「大島ですね、しばらくお待ちください」

勇の電話に応対に出たのは、秘書の女性だった。

「大島だ。秋草君、何か用かね」

「いえ、四課の只見と申します。用件というのは、まあちょっと言いにくいことでして…」

勇の電話の目の前で、課長が乱雑に積み上げた書類の山を先程から覗いていた。そして電話の内容に聞き耳を立てながら、含み笑いをしていたのだが、どこかでバランスが崩したのかその山を崩してしまっていた。

「ん?今の音は何だ…?まあ、いい。只見君だったかな、つまり回線を通じて言いにくいということか、私に対して言いにくいということか」

「両方です」

それほど重大とも思えなかったが、もったいぶるように勇は言った。

「…今すぐ、こっちに来なさいと言っていたと秋草君に伝えてくれ。君も同席しなさい」

効果は抜群であったようだった。

勇が通話終了ボタンを押して顔をあげたとき、崩れた書類の山から課長が顔をあげたところだった。

いや、顔だけをあげたところだった。

「で、どうだった?」

どうやら、聞き耳を立てていたのは途中までで、書類の山の下に埋もれてからは話を聞いていなかったらしい。

「今時、紙の書類を使っているだけでも珍しいのに、それをまとめていないからこんなことになるのだと思いますが…、今すぐに来いということでした」

「私だけか?」

嫌味をスルーして、課長は勇に尋ねた。

「いえ、自分も呼ばれました」

「だろうな。まあ、君の素性が分かれば何もないだろうね」

意味深な言葉を残し、課長は書類を5枚ほどカバンの中に入れた。

「それは……そういうことですか」

「まあ、電話してしまったものはしょうがない。ホント、命がいくついることやら。いくぞ」

そう言うと、上着を羽織って2人は国防省の建物を後にした。

後で勇が気付いた。

(あ、宿題、四課の部屋の中においてきた。ま、いいか)


40分後、2人がいたのは、官邸の地下1階だった。

その一室に通されたまま、20分以上経過しようとしていたのである。

(課長、これはどういうことですか)

(これくらい当たり前だ、もう少し辛抱しろ。大体、戦争前夜に情報部門のトップが暇そうにしているわけがないだろう)

(しかし、緊急の要件を伝えに来た人を相手に、こんなに待たせることはないでしょう)

(知るか。もう少し待つことだ)

そんなこんなしているうちに、扉が開いて、4人の人が入ってきた。

「済まない、待たせたようだな」

そのうちの1人が声をかけてきた。

「秋草君、隣にいるのは?」

「先日、入省しました只見君です」

「只見ねぇ…。成程、『大先生』と『アキさん』のところか。ならば大丈夫そうだな」

やり取りは、只見にはよくわからなかったが、少なくとも、課長が話している相手がそれなりの立場にあることだけは分かった。

「只見君、只見君」

「え、あ、はい」

ぼんやりとしていた勇は、課長に呼ばれハッとした。

「こちらが、内閣情報調査局大島(おおしま)雄人(ゆうと)局長だ」

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