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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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狭霧たなびく

翔が一時の休憩を甘受している間に、情報部員が中に入ってきて説明を始めた。

知っていることの繰り返しになるので、努めて聞かないようにしていたが、場の空気がだんだん不利になっていることは自覚できた。

「以上より、敵の目標としては、尖閣諸島、先島諸島、沖縄本島、奄美大島、対馬であり、トカラ列島は含まれていません」

「大河内将補、これでもまだ言いますか」

「これだから若輩者は困るんだ」

非常に不利な条件下で、翔は、カードを一枚切らざるを得なかった。

「…現在、日本には台湾、東南アジア連合と話を進めている計画があります」

統幕長及び、情報部の担当者、情報部長は驚いた顔をしたものの、そのほかの人たちは、不得要領な顔を浮かべただけだった。

「それがどうしたというのだ、第一、そんな報告は聞いていないぞ」

この意見に、複数人の幕僚が頷いた。報告が上がっていないというのは事実らしい。先程の表情から察するに、まだ、部内秘のレベルだったととれた。もっとも、それも知っていたことではあったが。

「…統幕長、この件について公表されるのはいつの予定なのですか」

「…公表はされない。永遠にだ。これは、味方にも知らせてはならない事案だ」

「…内容は公表できませんが、トカラ列島には、東亜共和国にとって重要な戦略的意義があります」

翔は統幕長の話をいかにも今聞いたかのように続けた。この話は、形勢を逆転できる話ではあったが、不完全なものになってしまった。

「戦略目標としての価値は認めるとしよう。しかし、兵力という点で懸念が残る。せめて、どこかの部隊から差し引いて配置をしたほうがいいのではないかと思うが」

しかしながら、不完全ながらも効果はあったらしい。知りえない情報までも知りえる立場にあるということは、それなりの武器にはなるということである。それに、統幕長も否定はしなかったことが後押しとなった。少なくとも、矛先が和らいできたことは歓迎すべきことであった。

「北方に対する備えと、アメリカの太平洋艦隊、対馬攻撃の恐れに対応するために、総ての部隊がすでに配置についています。再度申し上げますが、先ほどの会議でも言われました通り、動かせる部隊がないのです」

ここにきて会議室には重苦しい空気が流れた。一部訝しげな顔をし続けている者もいたが、大多数は、配備できる部隊の数の少ないことを憂いているようであった。背に腹は代えられないというが、まさにそのような状況なのである。

「大河内将補、他に言うことはないか」

周りが、納得しだした雰囲気を持ち始めたことを見計らって、立見統合幕僚長が声をかけた。

「これで以上です」

「わかった。清水君、まとめてくれ」

そして、運用部長に話を振った。

「今回の作戦は、東亜共和国が太平洋への橋頭保を確保することを防止するためのものです。つまり、九州南岸部から、与那国島までの防衛ラインを必ず維持することを徹底してください。生体兵器に対しても同じです。その所をよろしくお願いします」

統合幕僚長が、最後に言った。

「そういうわけだ。今回議論された作戦案は、この通りで行うものとする。この事態を乗り切ることは、各員の努力にかかっている。君たちの努力に期待する。以上だ」

そして、最後は、有無を言わせずに作戦案が通された。まあ、最後には賛成に回ると思っていた翔にとってはいいことでもあったが、強硬手段に訴えるとは思ってもみなかった。

ただし反動もあった。一部の幕僚があからさまにこっちを向いて、いやそうな顔をしていたのである。

これからのことを考えると頭が痛くなりそうだった。

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