漣のたちし
時間を今に戻す。
「で、お前は先輩と喧嘩別れしてきたのか」
「そんなところだ」
「無理もないが、少しくらいまずいとは思わないのか……」
翔は、ため息を押し殺した。
「本当にこっちを必要としているなら又来るさ」
勇は、ほとんど気にしていなかった。それよりも気にしなければならないことがあった。
「それよりも、クラス全員の素性調査は、またやったのか?」
「うちの研究機関にわからないことは、誰にもわからないさ」
「それはどちらの意味かな」
「どちらでも。質問の答えはイエスだ」
大河内総研は、国家機密等を多く抱え込んでいるため、常に第三国からマークされており、研究員が死傷、もしくは、情報の流出源となることもあった。そのため、徹底した周辺の洗い出しが、研究員とその家族には行われており、特に、人質となりやすい場合には、その周辺も調べられるのである。そのため、翔の周辺には、特に念入りにチェックされており、翔の入学した中学の生徒は、極秘で、素性調査が行われたのである。それを高校でもしたらしい。
「で、どんな奴がいるんだ?」
「機密情報のオンパレードだ。そんな連中の集まりらしい」
「それは、大変なことになりそうだな……。まあ覚えておこう」
そして、2人は教室に入ったのである。
席に着いた後、勇は、後ろから声をかけられた。
「君の名前は?」
「只見勇です」
いきなりのことだったため、反射的に、畏まった口調になった。
「じゃあ君の席の後ろになるのかな。自分は、谷大介です」
「よろしく」
「こちらこそ」
当たり障りのない会話のあと、2人の話は、噂話にとんだ。勇は、ほとんど聞いているだけだったが。
そのうちの一つが、、
「毎年、8クラスあるクラスのうち、1クラスだけ、いろいろと能力的に、人脈的に恵まれた人が集められるらしい。それがどうやらここらしい」
ということだった。
翔からも聞いていたものの、ここまで知られているとは思わなかった。下手をすると、自分だけが知らなかったのではないかとすら勇には思えてきた。
「新入生代表の大河内はその筆頭で、あいつは、大河内総研の一族らしい。後他にも、元総理の孫とか、企業グループの社長令嬢とか、入学試験の数学が満点だった人もいるらしい」
さすがに、勇は、大介に対して尋ねたいことができた。
「それを君はどうやって知ったんだ?」
「…これは黙っていて欲しいが、実は、僕の祖父が、閣僚経験者で…」
この発言に勇は、ピンとくるものがあった。
「お前、まさか、第三次世界大戦時代の国防省長官が、谷姓だったが、その縁者か」
「くれぐれも誰にも喋らないでくれ。まあその伝手で少し調べた」
「……1人だけなら喋っていいか?」
「誰に?」
「今年の新入生代表」
今度は、大介が驚く番だった。
「君は、あの大河内君と知り合いだったのか!?」
「幼い頃からの友人でね」
丁度、翔がこちらの席に近づいてきたので、紹介することにした。
「大河内、紹介したい奴がいるんだが、いいか?」
「こっちも同じ用件だ。紹介する。上原高司君だ」