正気はこもる
「一応こっちが考えている人選はそんなところだ」
ラーメンをすすりながら、翔が言いきった。
その前で、勇が栄養剤を流し込みながら、端末を広げていた。
「…まあ妥当なところじゃないか。実績的にも申し分はない。あとは、各人の人望だな」
「そこはデータの上には出てこないからな。まあ籤引きをするつもりで選ぶしかないわけだ」
「籤引きか…、お前、初詣の時にくじを引いたろう。運勢はどうだった」
「凶だったな。運勢全般が悪いときた」
「奇遇だね、こっちも凶だったよ。ただしその内容に続きがあってな、4月が一番運が悪いらしい」
「大当たりだな」
ムスッとした顔で翔が言い返してきた。
籤引きの運はお互いに非常に悪かったらしい。
「まあ、運が悪いのはしょうがないしな。それはそれとしてだ、午後の会議で、作戦案が可決されたとしよう。こっちでしなければならないのは、明後日の準備ということでいいな」
「…さっき言った通り、作戦のブリーフィングも兼ねさせるよ。繰り返すが時間がない。こればかりはどうしようもないからな」
「そこなんだがな、午後の会議は、こっちは欠席させてもらう」
「下手するとお前スパイ呼ばわりされるぞ。それでもいいのか」
職務放棄とまではいかないまでも、それに近いことをしようと言い出した勇を翔は止めた。
「何も、欠席するわけじゃないのはわかっているだろう。下調べしなければいけないことができた。それだけだ」
「後に回すことはできないのか」
「こっちも人間だよ。寝る時間ぐらいほしいものだ」
公僕とは思えない発言をして、翔に反論してきた。正確に言うと公僕ではないので別に問題になることもないわけだが。
「…まあいい。その代わり、それなりの結果を期待している」
「お前の期待通りになるかはわからんが努力しよう」
結局、勇が何を調べるのかわからないまま、翔は食事を終えて、会議に向かった。
食事を終えた勇はその足で、装備開発局設計部に割り当てられているフロアに向かった。
第四課と書かれているドアをノックして中に入る。
「失礼します」
中に入ると、机の上に突っ伏して、今どきは珍しい書類の束を枕にして寝ている人が目に入った。
よくみると、パイプ椅子のベッドの上で、新聞紙を被って寝ている人もいた。
それらの後ろを通り過ぎて、課長と書かれた席で居眠りをしていた人を揺すぶった。
「課長、課長」
しかし、どんなに揺らしても起きない。
一計を案じて、内線電話をかけてみることにした。壁にある内線電話を取り、机の上の番号を見ながら、電話をかける。
部屋の中にベルの音が鳴り響いたが、誰も起きる気配がない。もちろん、耳元で電話が鳴っている課長も含めてである。
さすがに頭に来たが、ここに用事があるため帰ることもできず、勇は、この部屋で待つことにした。
そう考えて、待ち続け始めてから2分後に、ある方法を思いついた。
近くにあったスピーカーを手繰り寄せて、自分の端末につなぎ、ある音を鳴らした。
国民保護サイレンである。
効果は覿面だった。部屋の中にいた、職員が全員飛び起きた。
それを確認すると同時に、勇は、課長の席まで歩いて行った。
「課長、少し相談があるのですが」