薙ぎて掃わん
「そういえばそうだったな」
忘れていたような口調で、統合幕僚長が応じた。
「!待て、まさか高校生を戦場に駆り出そうというんじゃないだろうな。そんなことをしたら何と言われるか分かったものじゃないぞ!!」
焦ったような声で、秋沢陸上幕僚長が割り込んできた。
この時代でも、児童労働は問題視されるし、少年兵は論外である。国際的感覚に照らし合わせればそれは正しいといえた。
「高校生が軍務についている時点で、このことは予想されていたと思いますし、出撃は強制ではなくなっています。そもそも、入隊そのものも、本人の意思によるところが大きいので、そのようなことはないと思います」
ただし、翔の言うことにも一理あった。実際第三次世界大戦の爪痕が深く残っていたころにできた制度であるため、国際的にそのころは、ほとんどの国で似たようなことは容認されていたのである。ただし、何れの国、特に先進国と呼ばれた国において、実際に戦闘に参加することはなかった。
「それでもだ。未来ある若者を駆り出すのは、容認できることではないんだよ」
正論という点では陸上幕僚長の言うことは正しい。
「しかし、どこの誰がトカラ列島を守るというんですか」
「海軍はどうにかできんのか」
陸上幕僚長は、海上幕僚長に話を振った。陸軍ではどうしようもないと考えたらしい。
「海軍も航空隊を出せるだけだ。なにもできん。空軍のほうはどうなんだ?」
海軍のほうでもやはり何もできないらしい。さらに空軍に話を振った。
「そうですね。民間の灯台に偽装して、レーダーサイトが設置されているので、その警備という形で、陸上勤務の者を送り込むことは可能です。しかし、重武装したものを送り込むことはできませんから不安が残ります」
空軍も無理であるという結論に終わった。
ここで、立見統合幕僚長が、勇の持っていた書類に気付いた。
「なるほどな、そこまで準備が終わっていたか…。その書類を見せてくれないか」
統合幕僚長に、勇は書類を手渡しながら説明した。
「諏訪之瀬島における、防衛作戦案です」
ぱらぱらと捲りながら書類に目を通していた統合幕僚長は、他の5人にもそれを見せた。
「少しいいか」
声をあげたのは、菅野亮二航空幕僚長だった。
「これに、航空支援案が何一つ書かれていないのはどういうことだ」
「本官の指揮下に、空軍の部隊が2つ入る予定であるのが、現状その見通しが立たないためです。他の部隊からの支援要請も考えましたが、この作戦において、尖閣諸島防衛作戦に穴をあけることを避けるために、このようにしました」
その問いに翔が答えた。さっき勇が作ったメモを見ながらではあったが。
「防衛作戦の主体が諏訪之瀬島に置かれているのは?」
「先ほど航空幕僚長がおっしゃったレーダーサイトが存在すること、緊急用ではあるものの飛行場が存在することから、作戦目標が諏訪之瀬島になると考えたためです」
「敵の上陸部隊の数はどれほどになると考えている?」
「動員されている規模から考えると、6000人程度ではないかと考えます」
「戦闘は、何日継続すると考える?」
「長くて4日になるのではないかと」
「その根拠は?」
「4日持ちこたえられれば、さすがに応援が来ます。それを撃退する能力は東亜共和国にはありません」
「敵の海上からの支援はどの程度行われると予想するか?」
「上陸予定地点に対して、ミサイル攻撃及び、砲撃が行われる可能性があります。しかしながら、上陸以降は、通信中継及び、対空支援が主になると考えます」
ここまでの問答を一通り終えて、陸海空各幕僚長は、統合幕僚長のほうを向いた。
統合幕僚長が、電話で、隣の部屋から人を呼んだからである。