暁寒き山颪
実際、只見家は、超法規的措置が頻繁にとられており、銃声がするのは、当たり前であり、殺人に至ると、1年の間に2,3回起きていたのである。今まで、警察がこの件に介入したことは1度もない。
勇も、そのような中にいたため、小学生以前から、訓練は受けさせられていた。実際に、それらを使う羽目になったのは、中学生になる直前だった。よりによって、入学式直前だったのである。それからの3年間で、撃退したのは、
「10人前後になると思います」
別に隠す必要もないことである。ただし、相手を脅すにも十分だったが。
「……ちょっと所持品検査させてもらってもいいかな?」
「かまいませんが。こちらから持ち物は出しますので」
と言いながら、内ポケットに手を差し込んだ。(この時の服装は、きっちりしたスーツだった)出てきたものは、口径9ミリの自動拳銃、予備弾倉5つ、小型手榴弾3つであった。うち一つは、対車両用である。
「…えっと、これらは、普段の持ち物なのかな……」
「ええ、まあ」
ここに副委員長の児玉が口をはさんだ
「お前、どこにそんなに仕込んでたんだ?訓練はされているんだが全く分からなかったぞ。お前がテロリストだったらと思うとぞっとする。」
「それは同感ね。まあ、これを見る限り、武器の貸与は必要ないわね?」
「武器の貸与といいますと?」
「風紀委員には、特例で、銃器の携帯が認められています。ここ数年、国際情勢が不安定化しているため、ほぼ必須になっています。そのための措置です。」
「何がありますか?」
「少なくとも君のものよりか、威力は弱いですよ。ただし、緊急事態のために、この委員会室には、自衛隊に納入されているものと同じ小銃が十数丁ありますが」
「もちろんだが、緊急事態用だ。違法合法問わず、正当な理由なく、校内で使用した場合は、即退学になる。それは覚えておけ」
「それはいいですが、なぜ、入る前提で話が進んでいるのですか」
「……チッ」
委員長の口から、舌打ちが漏れた。もともとそういう手筈だったらしい。それだけ勇を入れたい理由があるようだった。しかし、勇には、そのような気は全くなかった。
「お話が以上なら、自分はこれで失礼します」
そう言って、もう一度声をかけられる前に部屋を出てきたのである。
これ以上、血腥いことには、関わりたくなかった。