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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
27/82

風前の籌略

そのころ国防省の自分に割り当てられていた部屋で、翔は第5独立即応旅団の編成に必要な書類を作成していた。書類を作っては判子を押し、それを幕僚監部にもっていくということの繰り返しである。

(ったく…、何でこんな時に限って、あいつがいないんだ…)

頭の中でぼやきながら、翔は延々と端末と印刷機に向き合っていた。

その時、端末に、連絡が入ったことを知らせるメッセージが表示された。勇からである。

その内容を見た翔は、いったん作業をやめ、部屋の中の片づけを始めた。


勇が到着した時、部屋の中は、先ほどまで書類が散乱していたとは思えないほど片付いていた。

「すまん。待たせたな」

「約束だからな。ああ、念の為に言うが、まだ書類仕事は終わっていないからな」

「後で手伝えばいいんだろう。わかったわかった」

「……一抹の不安を感じるけどな」

嫌味を気にしないことにして、勇は、本題に入ることにした。

「用件というのは先日連絡した内容のことだ」

「これだろう」

翔はそう言いながら、床に地図を映した。表示しているのは、東シナ海である。

「ああ。現在、東亜共和国と我が国は緊張状態にある。状況としては、対馬侵攻前夜と比べても遜色はない」

「そこはわかる。今回東亜共和国は、東シナ海の海底資源を確保するために、尖閣諸島を攻撃するとみられている。我が国はそれに対して、護衛艦隊と、対生対兵器部隊を送り込んでいる。それは、前回の統合幕僚会議で最終確認がとられた。問題はないだろう」

「問題は、たかがそんなことに戦略兵器を投入するかということだ」

「それに見合うほどの海底資源が眠っているんじゃないか。実際、50年以上前には、石油の埋蔵が確認されているし、希少金属が眠っているともいわれるほどだ」

「それにしたとしても、戦力が大きすぎるとは思わないか。()()()、こっちの県を丸ごと1つ手に入れようとするようだ」

ここまで来て、翔は勇の言いたいことが感付いた気がした。

「まさか、本島に生体兵器を送り込まれる可能性があるのか。いや、それは、例の対生対兵器護衛艦がどうにかする公算が大きいだろう。気にする必要はないんじゃないかな」

しかしそれは外れた

「こっちが言いたいことはそんなことじゃない」

勇が表示されている地図に情報を書き込んでいく。まず表示されているのは、現在日本が防衛用として展開している部隊の現在位置と、東亜共和国が出撃体制を整えていると考えられている部隊の現在位置である。

「今ここに、派遣された部隊がいる」

示した場所は、沖縄本島南部の港だった。

「それに対して、大亜共和国の部隊はここにいる」

示す先を移動して、寧波を指した。その指示棒を尖閣諸島に移動させながら、説明を続けた。

「まともにやりあったら、十中八九こっちの勝ちだ。もし、生体兵器が投入されたとしてもだ」

反論するように翔が言った。

「それは向こうも想像しているだろうが、上陸させてしまえば向こうの勝ちだ」

「実際そうだろう。ただし、こちらにも、対馬の教訓がある。取り返すのはそんなに難しくないし、そもそも、現場指揮官は、上陸を必死になって阻止するだろう」

あっさりと勇は、それを認めたものの、言外に別のことをほのめかした。

「それでも攻勢をかけてくるということは、考え方が2つできる」

「向こうがよほどのバカか、こっちの裏をかくことのできる作戦があるか、か」

さすがにここまでくると勇の言いたいことが翔にも理解できてきた。

「まさか、東亜共和国の狙いは、尖閣諸島ではないということか!」

勇は、その問いに目で答えた。

その答えは、肯定だった。

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