行く手を阻む敵あらば
統合幕僚会議も終わり、帰宅しようとした勇と翔は、立見統合幕僚長に呼び止められた。
「君たちは、明日、いや今日の予定は大丈夫か」
時計を見て統合幕僚長は2人に確認をした。
「自分は大丈夫です」
「すみません。重要な用事が入っています」
上は、翔の答え、下が勇の答えである。
「只見一佐、用件とは何だ」
「家の用事です。詳細は、申し上げられません」
あきらめたような顔をして、統合幕僚長は、翔の方に目を向けた。
「大河内将補、今の会議で分かったように状況が逼迫している。緊急事態に備えるため、背広組のほうが、即応旅団の創設を急げと矢の催促をしている。敵に対応するために、兵力を増強したように見せかけたいらしい。そのために、機動旅団の創設を前倒しして、来週半ばには終わらせてくれ」
翔も今の会議で、このことは予測していたので慌てることはなかったが、同時に焦り始めた。時間がなさ過ぎるのだ。
「第5独立即応旅団というのは、今回、沖縄に出撃することになりますか」
「まだできていない部隊だからな。防衛体制の中にも組み込まれていない。それに、少年兵を使っていると言われる可能性も否定ができん。簡単には動かせんよ」
「ではなぜ、そんなに急いでいるんです?」
「一応、近場の部隊の中でもどこの連隊にも所属していない扱いになっているから、どこの方面軍でも扱いに困っているんだ。有事の際においても、動かしにくい軍隊があるのはおかしいというのが彼らの言い分だ」
心からため息を漏らしながら、翔は言った。
「事態は分かりましたが…2週間程度では終わらないかと思います」
「まあ、無茶を言っているのはこちらも理解している。とにかく急いでくれ」
「…わかりました」
統合幕僚長から解放されて、2人は家路に着いた。
2人は歩いていた。公共交通機関は動いていなかったことに加えて、何より…
「勇、後ろから誰かつけてきているの気付いているか?」
「ああ、慣れてる連中だな。民間じゃない。東亜共和国あたりかな、この動きからすると」
「どうする」
「三十六計逃げるに如かずだ。走ろう」
2人は、ランニングのときのスピードで走り始めた。が、勇が急停止した。
「おい、どうした」
「どうもやばい。囲まれたようだ。後ろよりも前のほうの気配が尋常じゃない」
「毎度のことだね。こっちは何も武器を持ってないよ」
「俺は、拳銃弾が替えを含めて、28発か…できないことはないな」
「使わないことを願うよ、で、前に行くのか、後ろか?、右か、左か?」
「お前の家まで遠いからな…、前だ」
意を決して、進むことにした2人だった。
大河内総研
スパコンの筐体のような、ハードディスクの集合体の中に、10人ほどの人がいた。薄暗い中、筐体の明滅するLEDの光の中で、話し合いが行われていた。
「尖閣諸島は違うのか」
「じゃあ、どこだ」
「わからないです」
「とにかく、早く調べないとまずい。あと一週間だぞ。このままだと日本のどこかが、東亜共和国に占領されることになる!!」
悲痛な叫び声が、部屋に響いた。