九天の雲は垂れ
それから5分後
首相官邸 閣議室
「ではこれで、関係閣僚会議を終わります」
慌ただしく部屋の中から人が出ていき、後には、5人が残された。
内閣総理大臣 蒼井風香
同公設秘書 北川卓
同補佐官 上原高司
内閣官房長官 山中正一
内閣官房副長官補 今村雅充
「さて、どうしたものでしょうか……」
「いずれ起きたことです。細かいことは、また閣議で決まりますから、それまで待つしかありません」
総理のボヤキに、官房長官が答える。
日本初の女性総理で、国民の支持率は高いものの、党内での派閥として、立場が弱く、一部では突き上げを食らっていると言われている。それを支える官房長官は、当たらず触らずで、過ごしてきたような人である。
「もう少し、隣国のことくらい事前にわからないものでしょうか」
「総理、我が国で可能なことは全て行っています。これ以上は、我々にはできません」
危険な方向に走り始めた発言を今村が止める。
高司は、これを見ながら、不謹慎なことを考えていた。
(なんで、こんな人が総理の椅子に座っていられるんだ…官房長官も、もっとましな人選があっただろうに…)
当庁当日に、いきなり、総理に付いて状況把握をしろと言われたときは、無茶なと思ったもののそれに慣れてきていた。ここまで考えるほど、暇もあった。
(しかしま、これからドンパチになるのか…なんでまた今の時期に…はぁ…)
そうこうしているうちに、総理の愚痴も終わったらしい。
「上原、行くぞ」
雅充に促され、我に返った高司は急いで、総理の後を追って、部屋を出て行った。
再び、只見邸に戻る
夕食後、父から呼び出しを受けた勇は、父の部屋に来ていた。
「入学祝いにと思ってな、用意しておいた」
勇の目の前にあったものは、拳銃だった。靖の説明が続く。
「口径は9mm、弾倉内に14発+1発入っている。初速は400m/s、有効射程は70m、最大射程は、3000mといったところだ。反動を小さくするのには苦労したが、いいものには仕上がったと思うぞ」
中学の時にもらってから使い続けてきたものは、反動を抑えて、まだ扱いに慣れていないものでも使いやすいようにできていた。もうそろそろ変えたいと感じ始めていたかとなので、勇にはそれが助かった。
「一応、弾丸は、国防軍のものでも代用できるから、足りなかったらそこから補充しろ。銃の形状も似せてあるから、不法所持を疑われることもないだろう」
勇は、銃を手に取り、慣れた手つきで、一通り動作確認をした。
「ありがとうございます」
「使わないに越したことはないがな」
「ははは…」
父の冗談ともとれる言葉に、勇は空笑いしかできなかった。何せ、使わないといけない理由の一端は、靖の発見によるものもあるからだ。
その時、渡されていた端末に通知が来た。
文面は
「非常呼集。直ちに登庁せよ。 統合幕僚会議」