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リミット・オブ・ペイシェント  作者: 岡由秋重
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上弦の月蒼し

そのころ翔は、今日付で自宅から届けられた報告書を読んでいた。4月から学校の近くに家を借りて1人で住んでいるのである。

(何の進展もないか)

周辺の人物の情報に関するものである。大なり小なり何かしら事情をみな持っているものであるが、1人の例外を除いて、それを残らず調べているのである。

(それにしても何もなさすぎだな)

恐ろしいのは何もおきないということである。ここ数週間国際関係において、緊迫した状況は伝わってこない。恐ろしいのはそこであった。

あえて言うなら、南西諸島周辺で東亜共和国(東アジア人民共和国)に不穏な動きがあるということくらいがある。アフリカ諸国や南アメリカでは、紛争が多発しているものの、異常はない。

(さて国防省のほうの報告書でも読むか)

国防省の情報よりも、家のほうの情報が信頼できるというのは心に押しとどめて、報告書に目を通した。

(こっちも似たようなものだな。日に日にアメさんとの関係も悪くなっているようだが……)

生体兵器が開発された当初、どこの国もそれを破壊する能力を持っていなかった。今のところ唯一日本だけが生体兵器を破壊した国になっているのである。

(その方法はかなりひどかったが、確かあの時は怪獣映画を見すぎた幕僚が……)

翔がそこまで考えたときに、電話が鳴った。一般回線と軍用の秘匿回線の双方から引かれているが、軍用回線のほうにかかってきたのである。何事かと思い、翔は急いで電話をとった。

「はい、大河内です」

「翔か」

電話の主は、勇だった。

「……何だ」

「そんな、怖い声を出さなくたっていいだろう。別に割り込んだわけでもないし」

「…それでわざわざ軍用の回線を使って話す内容は何だ」

「そんなカリカリしなくたっていいだろう。…風紀委員会の勧誘な、了承する」

「……それだけか」

「ああ」

あっさり言い切った。

「職権濫用で捕まれ」

それに対して翔もはっきりこういった。

「まあテストだ、テスト。軍用回線がつながっているかどうかのな」

「…明日じっくり話を聞かせてもらおう。弁護士を呼ぶ権利ぐらいはあるぞ」

「おお怖い。じゃあ明日会おう」

そういって電話は切れた。

(一体何だったんだ…)

別に今に始まったわけではない。利用できるものは徹底的に利用するのが勇の、いや、只見家のやり方である。

(あいつも変わらんな…)

心の中でため息をつきながら翔は思った。

ただひとつ今日はいいことがあった。勇の説得をこれ以上しなくて良いということである。

(生徒会長には顔向けできるな…勇には、大変なことになりそうだが)

翔はそう考えて、夕食の準備に取り掛かることにした。

気がつくと21時になっていた。

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