彩雲たなびく明けの空
そのころ翔は、1人で部屋を片付けていた。1人でいるには広い部屋であったが、もともとが資料室であったようで、大量のファイルと紙にあふれていた。ダンボールがあるわけでもなし、他に容れ物もないので、壁に沿って、大量の紙とファイルが山のように積み上げられていた。
ドアをノックする音がした。
「失礼します。大河内将補はいらっしゃいますか」
翔は慌てて体裁を繕った。
「どうぞ」
「…余所余所しいなあ。声でもうちょっとわからないものか?」
勇だった。
「……お前、声色変えていただろ」
「まあ気にするな。こっちのほうは片付いたから、お前の手伝いをしに来たんだが」
「見ろ、何も片付いていない」
「それより、この紙の山の中身は何なんだ?」
「幕僚会議での議事録とか、年間の決算の資料とかだな。さすがに、作戦の資料などは、一切ないが、他国の内部資料などはふんだんにある」
「…いろいろと不味くないか」
「この部屋で、カメラを使ったら機密漏洩罪でつかまるだろうけどな。情報機器を持ち込んでも同じだろう。幸いそのようなものは、ここに一つもないからな」
「まあ、そうだがな…」
「お前、まさかとは思うが、持ち込んでないよな」
「……確認させろ」
「冗談だ冗談。言い訳できる立場ももらっているんだぞ」
「それもそうだな」
「で、向こうで何かもらってきたのか?」
「守秘義務がないことはないんだけどな…。まあどうせ分かることだしな。これだな」
「生体兵器の新情報か。……………片方は、アメリカ、片方は、東アジア共和国か」
「俺もそう見ている。一応他の人たちにも、意見を募っているらしいが…。意図的に情報が攪乱されているように思える。何せ、同じ生体兵器について同じかどうかすら説明されなかった」
「確かに妙だな。いやな予感がする」
いやな空気が部屋を覆った。
「案外、これは最新情報ではないんじゃないか?」
翔が突然口を開いた。
「何だって!」
「この時期にこんなことをしだすほうが妙だ。いきなり入りたてのやつにさせるような仕事じゃないだろう」
「確かにな…」
「まあどこかのデータベースには引っかかるだろうし適当に情報評価は書いて、接近した時の対策に重点をおいて、まとめたらどうだ?」
「そうだな。その前にまずこの部屋の片づけをするべきなんだけどな」
「…だな」
2人でこの部屋を片付けるのが終わったのは、その1時間後だった。
特にすることもなく2人は家路につくことにした。
「今日は、これからお前はどうするんだ?」
勇は、翔に尋ねた。
「親父に入学式のことをあらまし言わないといけないな。それから祖父にでも挨拶に行くか。お前はどうするんだ?」
「似たようなものだ。こっちの場合は曽祖父にしないといけないのだがな」
「お互い大変だな…」
「そもそも、曽祖父にご機嫌伺いに行く必要さえ疑っているよ…俺は」
「まあどうしようもないからな。如何ともしがたい。……そうだお前、風紀委員会の勧誘忘れるなよ。」
「…親に聞いてみるよ。一応な」
2人はそう言ってそれぞれの家に帰った。