九ノ瀬妹の日常、九ノ瀬兄の非日常
「どうしたんだ?そんな神妙な顔して。」
「え!?そんな顔してた?気の所為だよ!」
いや気の所為なんかじゃない、いつもならゼリーを食べるのに1分もかからないのに、今日は数分かかっている。
これは地球滅亡並みに可笑しい。
「今とんでもなく失礼なこと考えなかった?」
「何言ってんだあやめ、僕がそんなこと考えるわけないだろ?」
とんでもなく失礼ってわけじゃないからセーフだと思った兄であった。
「先輩達が来るまで話聞くけど。」
まあどうせすぐ来るだろうけど、柄にもなくこんな顔してる妹を放っておけるほど非常な兄でもない。
「ホントに何もないから!大丈夫!」
「…そこまで言うなら詮索はあまりしないけど、何かあったらちゃんと言えよ?」
「わ、わかってるって!」
こりゃわかってないな。
妹の嘘の下手さに呆れているとチャイム音が家中に鳴り響いた。
元々学校に行く準備をしていた僕は、今週2日目のサボりをする妹に見送られながら家を出た。
道中朔先輩の妹さんの自慢があったそうだが僕は考え事をしていてあまり聞いていなかった。
高月に相談すべきか考えたが、それもそれで迷惑になりそうであまり気乗りしなかった。
その日を適当に過ごして家に帰ると制服を着てソファに横たわるあやめがいた。
一瞬死んでいるのかとも思ったが、普通に寝返りをうってソファから転げ落ちたので生きていることがわかった。
「痛ったぁ…ちょっと!いたならクッション置いて安全を確保するとか支えるとかしてよ!」
「僕にそんな義務は無い。…結局学校行ったの?休む気満々の格好してたのに、あれはフェイクだったわけ?」
「私にそんな高等技術は無いの知ってるでしょ!?これは無理矢理…っ…!」
なんとなく、妹が詰まらせたセリフでわかった。
こいつは先公に家庭訪問されて無理矢理連れていかれてるんだ。
しかもこの様子じゃ僕と家を出る時も引き返して家に帰ってる可能性もあるな。
週1で休む生徒をわざわざ暇じゃない先公が迎えに来るはずもない。
「無理矢理連れていかれて…それから何されてんの?」
「や…やだなぁ!無理矢理連れていかれるだなんてそんなこと―――」
「嘘吐くの、下手すぎ。」
「嘘なんかじゃないよ!」
「顔面に助けてって書いてあるけど?」
僕や高月と違ってこいつは表情に出やすい。
本当に…そういうところは似てるんだよ、姉ちゃんに。
「……お兄ちゃん…助けて…」
「ん、何があったの。」
泣きじゃくる妹の涙を拭きながら涙声で聞き取りにくい、でも一生懸命に助けを求める声に耳を傾け続けた。