体育祭1ヶ月前の日常
『早く逃げろ!お前はここで死ぬべきじゃない!』
『待って!あなたを置いて逃げるだなんてできないわ!』
「うわぁ…ベタな展開、ここからどうなると思う高月。」
「絶対にマックが瀕死状態になって、リリアンヌがそこに駆けつけて泣いて何かの能力に目覚める。っていう展開になるでしょうね。
最近こんないかにも昔を掘り返してみました、みたいなアニメ多いですよね。
何なんですかね、異世界転生ものが流行ったと思ったらこれですよ、舐めてるんですかね。」
「お前ら、そこは普通に楽しもうぜ。わざわざT〇UTA〇A行った意味無いじゃねぇか。」
「朔先輩、僕達がこんな絵からして面白くなさそうなアニメを片っ端から借りて見てるのは楽しむためじゃないです。
こういうアニメも見て他のアニメと見比べるために見てるんです、全くアニメをなんだと思ってるんですか。」
「こっちのセリフなのに、なんで俺こんなに説得されてるんだろう…。」
「藍先輩!リリアンヌが殺されました!」
「見逃した…高月、巻き戻してくれ。」
「はい。」
「お前ら何なのマジで。」
「いやそれこっちのセリフだから、なんでいつの間にかテレビが設置されてんの。」
急に背後に現れたアキちゃん先生、テレビが設置されたくらいで何を驚いているんだ。
今日ばかりは引きこもりの僕でさえアニメ鑑賞の為に高月と一緒にこのクソ重いテレビを運んだというのに。
「みんなで〇SU〇A〇Aに行った帰りに商店街でくじ引きしたら当たったんですよ、みんな自分の部屋にテレビあるしどうしようかってなったときに沙夜ちゃんがここに置こうって言ったから持って来たんです。」
「沙夜がねぇ…ちなみに当てたの誰。」
「私だよ~。」
そう、当てたのは水橋先輩。
くじ引きの券を大量に持っていたのは僕と夏月先輩。
水橋先輩が言うに「私ってよくリスカするじゃん?大量出血間違いなしって言われる所を切ってもなんでか急所?が外れて血があんまり出ないの。つまりは運が強いみたいなんだよね~。」とのこと。
前に超激レアフィギュアを当てたことがあるらしく、高月がそれをもらう約束をしていた。
あの時の高月のどや顔は忘れない。
「他にも一等の旅行券や加湿器も当てたんですよ、香織ちゃん凄い運です。」
「へぇ旅行券もねぇ…家族で行ってくるのか?」
「なんだってあの人達と行かないと行けないんですか、3人用と4人用当たったからここのみんなで行くつもりだよ~。」
「…え。」
水橋先輩の言葉が僕の頭の中に木霊する。
今この先輩は何て言った?「ここのみんなで行く」?
どうにかしてあやめにこの任を押し付けなくては…。
「おおいいな、それなら俺が車を出してやる。全員の家知ってるし迎えに回ってやるよ。」
「え…。」
なんでどんどん話が進んでるんだろうか。
リリアンヌに続いて自殺したマックなんてどうでもよくなるほどに困惑している僕がいる。
周囲について行けず、困惑している僕の肩をガシッと掴んでくる不良二人。
不良とは思えないほどに爽やかな笑顔だ。気色悪いことこの上ない。
「行くよな、九ノ瀬。」
「妹に押し付けようとか思ってないよな九ノ瀬。」
いつからだ…いつから僕の平穏は消え去った…。
この学校に入学した時から?ここに来始めてから?いや違う、僕が普通じゃなくなってからだ。
「……はい。」
もう平穏を求めるのは止めた方が良いのかもしれない。
その分非日常が僕を追いかけて来てしまう。
「ところでお前ら、来月体育祭があるの。わかってるよな?」
「リリアンヌーーーーーー!!!!!!!!!」
「沙夜、あからさまに現実逃避すんな。あとリリアンヌとっくに死んだろ。」
「何言ってるんですか先生!リリアンヌは常に私の心の中にいるんです!」
「お前こそ何言ってんだ。」
「なあナツ…喧嘩売ってきたけど放置してる奴等いたよな…ちょっと来月絞めようぜ。」
「そうだな…どこから行くよ…。」
「お前らもなんで喧嘩の予定組み始めてんだ。」
「沙夜ちゃん香織ちゃん、来月になったらお泊り会しましょう。1ヶ月間のお泊りですよ!楽しそうじゃないですか?」
「そうですね!楽しみすぎてリスカいっぱいしそうです!」
「リリアンヌが私を呼んでます!」
「お前ら籠城するつもりか!つか呼んでねぇよ!」
頑張って体育祭から目を背ける高月と先輩達。
うん、わからなくもない反応だ。
ちなみに僕は何をするでもなく、ただただ現実逃避をするべく屍の様にアニメを見ていた。
なんか知らないけどリリアンヌが生き返ってきた場面だった。
「なんでお前らは行事の連絡すると毎年こうなるんだ…。
お前らには出る義務がある、だが俺はサボるぞ。」
生徒も生徒なら、先生も先生だ。
もうみんなサボるでいいじゃないか。
ずっとそんなことを思いながら、リリアンヌの生還劇を静止してみていた。