引きこもりの週3で訪れる日常
"引きこもり"、僕は俗に言うそれだ。
何処かのボカロから派出された異能アニメの主人公みたいに2年間ずっと外出していないとか、よくある異世界転生ものの主人公みたいに学校に全然行っていないとかじゃない。
ただ普通に"引きこもり"。学校から帰れば部屋に引きこもって、学校に行かないといけない次の日まで夕飯や風呂やトイレ以外部屋から出ない。
僕はそう認識しているけど、僕の周囲にいる人達は「週3不登校の引きこもり」と口を揃えて言う。
何を失敬な、いいじゃないか1週間に6日ある内の2分の1休むくらい。
そんなことを考えながらひたすらPCを動かしていると今日もやってきたみたいだ。
窓の外から話し声が聞こえる。
「こっこのっせくーん!君は完全に包囲されている!大人しく登校しなさーい!」
普通なら登校って漢字が違うのだけれど、取り敢えず無視しておく。
恐らくこの声は、僕にいつもゲームで負けている不良の朔先輩だ。
この人なら放っておいてもどうってことないだろう。
「今日もシカト決め込まれた…どうするよナツ~、俺心折れそうだわ。」
「あんな陽気に後輩の名前呼ぶ不良の先輩がいたら誰でも一回はシカトしたくなるだろ。」
流石夏月先輩、シカトする理由をよくわかっていらっしゃる。
さあわかったらさっさと帰ってくれ。
「こういう引きこもりを相手する時にはな、強行突破に限るんだよ。この間やったギャルゲー覚えてるだろ?」
「あ~覚えてる、引きこもりの女子も攻略対象だったもんな。」
何だろう…凄く嫌な予感がする。
ギャルゲーから学ぶ引きこもりの対処法ってなんなんだ。どこだそんなろくでもない知識をこの人達に与えたゲーム会社は。
丁度最上階のボス攻略を終えたところで家のチャイム音だと思われる音が家中に響いた。
やばい…今日はあやめがいるんだった…。
あやめってのは僕と同じ引きこもりをしている一個下の妹だ。僕とは頭の出来が違ったみたいで、普通の公立に通っている。
って…説明してる場合じゃない!!どうにか…そうだ鍵!いやこの部屋鍵が無い!!
思い切って隠れるか…それだと夏月先輩にすぐ見つけられる!
今まで実践してきた数々の対処法全てを悉く打ち砕かれた僕はこう考える。
諦める他道は無いと。
「おはよう藍、さあ学校行こうか。」
「ノーパソいつも通り持って行っていいし、コンビニでなんか買ってやるからさ!」
「……今日から始まった一番くじとカフェオレお願いします。すぐ着替えるので出てください。
どうせ高月達いるんでしょう?今日はあやめがなんて言って入れてくれたんですか?」
「『京さん達のお口に合うかわかりませんがロールケーキあるんで食べてってください!沙夜ちゃん今日もよく頑張って来たね!』って言ってたぞ、俺達が部屋に上がることなんてもう日常茶飯事としか思ってないみたいだ。許可無しで最近は上がるようになった。」
兄の部屋に上がろうとする不良高校生よりも高月と先輩達に目が行くって、お前妹としてそれはどうなんだ。
しかも妹が高月を妹の様に愛でている姿を想像するとコミュ障の高月には罪悪感が沸くな…あとで朔先輩に一番くじを高月の分も奢らせよう。
「お待たせしました、行きましょうか。」
「おう、あ、九ノ瀬妹。お前も公立だからってあんま学校休むんじゃないぞ、藍みたいに追い込まれることになるぞ。」
「大丈夫です!私はそこのと違って週1なので!」
おい、コイツ。さり気なく兄を「そこの」呼ばわりしたぞ。
「そうか、偉いな!じゃあコイツ連行するわ!」
「はい!よろしくお願いします!」
僕はあやめをどこで育て間違えたのだろうか。
兄が不良に連行されて「よろしくお願いします」だなんて言う子にどこで育てたのだろうか。
「藍先輩、一番くじ楽しみですね。」
「ああ…そうだな。」
九ノ瀬藍中学3年14歳、こんな年にして"人生諦めが肝心"ということを学ぶ毎日である。