問題児達の至って普通な日常
今日も嫌々ながらやってきた学校。
私はなんだってこんな学校に入ってしまったのか、自分でもわからない。
確か親に勧められたのだったか…まあ今となってはそんなことどうでもいいのだけれど。
真面目に教室に出向く同級生達より少し長い道のりを歩いて今日も"特別教室"のドアを開ける。
そこにはいつも通り学校だというのに自由にして過ごす同室者達が当たり前にいる。
「お、遅かったな。」
「今日は遅刻の日だったのですね、沙夜ちゃん。今日のお菓子はモンテビアンコですよ。」
「紅茶あるよ~」
「桜ティーでお願いします。」
これが日常。学校に来てこの教室に来ると必ず高級菓子があって、様々な種類の紅茶が必ずストックされている。
PCに無表情で向き合う人、ゲームをする人、お菓子を食べる人、寝る人、これがこの教室での"普通"。
かく言う私もその一人なのだ。
「おいナツ、お前どこまで行った?」
「60階、お前は?」
「ふっ聞いて驚け、61階だ!!」
「朔先輩…1階しか勝ってませんよ…」
「そういうお前はどうなんだよ藍、PCと二刀流してるお前に負けたら俺泣くわ。」
「70階です。」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!」
「うるさいですよ。」
男子はいつものようにゲームの進行具合で勝っただ負けただで騒いでいる。
中3の藍先輩は引きこもり歴5年だからか、この教室内の誰にもゲームで負けない。
そのお陰で朔先輩が今日もまた叫んでいるじゃないか。
「うわぁ美味しい!京先輩が持ってきてくれるお菓子ってなんでこんな美味しいんですか!?」
「ふふっ、内緒ですよ。沙夜ちゃんはどうですか?」
「美味しいです、紅茶とも合ってて。」
「これから何する?今腕痛いからそんな派手なこと出来ないけど。」
「今度はいくつ傷つけたんですか?」
「ん~、4つ?」
「何故に把握出来てないんですか…」
高2の香織先輩はリスカ常習犯で、毎日傷が増えていく。
本人曰く、「教室に行ってる時より少なくなった」そう。
「まあまあ、少なくなっただけいいじゃないですか。」
「まあ…そうですね。」
女子は騒がしい男子と違ってお菓子を食べながら何か他愛もない話をするだけ。
中1、高2、高3という組み合わせだからか話題は尽きないのがいいところだと思っている。
「おーおー、お前ら今日も来てたのか、よくもまあ飽きずに学校なんか来るよな。お勤めご苦労さん。」
教師らしからぬ発言をするこの人はこの教室の担当教師、徳田秋。
みんなからはアキちゃんと呼ばれている、この学校の教師で一番変わった人。
「アキちゃん来たのか、それならゲームしようぜ。」
「それはいいけどお前ら、ちゃんとミニ金庫使ってんだな。買った甲斐があるってもんだ。
冷蔵庫も使ってるようでよかった、これ運ぶの大変だったんだぞ。」
ミニ金庫はアキちゃん先生が自腹で買ってくれたもの。
理由は「家で見られたくないもん持って来たはいいけど、隠す場所がないってなったら困るだろ?」とのこと。
冷蔵庫は京先輩が自宅から持ってきたもの。理由は「なんとなくですね」と言っていた。
「まあ、なんだ、今日もよく学校に来たな。」
私達は世間一般で言う問題児、そんな私達が学校に来ても普通の教師なら何も言わないだろう。だってそれが"当たり前"だから。
でもアキちゃん先生は違う、学校に来ると褒めてくれる。
多分みんなそれが嬉しくて学校に来てる、そのことにアキちゃん先生は気づいていない。