九ノ瀬妹の新たな日常
先日、珍しく兄らしい働きをしてくれたお兄ちゃんのお陰で鶴屋は逮捕されて教員免許を剥奪されたらしい。
私はなんとなく学校に行く気になり現在登校中である。
とは言ったものの教室に入れば相変わらずの目で見られる為入りたくない。かと言ってお兄ちゃん達みたいに特別な部屋も無い。考えるのも面倒だし帰ろうかと思っていると後ろから肩を叩かれた。
「おはよう九ノ瀬さん、珍しいね学校に自発的に来るなんて。」
「おはよう徳ちゃん、残念だけど帰ろうか検討中。」
「えーなんでー。」
「ちょっとね。」
この人は徳田真冬先生。保健室の先生で私が唯一心を許す人。
"九ノ瀬さん"なんて言ってるけど普段は"あやめちゃん"と呼ばれている。
なかなかに面白い先生で、割と好きだ。
「それなら保健室来ない?今ならなんと他の先生に無料で言ってあげるよ!」
「今ならって…今じゃなかったらいくらするの?」
「雪大福1個。」
「安いなおい。」
結局そのまま徳ちゃんに着いていくことにした。
先生は宣言通りちゃんと職員室に行って事情を説明して許可を取りに行ってくれた。
この目で確認したから間違いない!
「言ってきたよー……なんでそんな角に隠れてるの?」
「えっ!?な…んとなく?」
「ホント嘘下手だねぇ、ほら行くよー。」
ストーカー紛いに角から見ていたのがすぐバレました。
そんなこんなで取り敢えず保健室に到着。
うん、やっぱり保健室は落ち着く。
「はーい、まずは服脱いでー。」
「…はあ!?」
「あーごめんごめん、傷あるでしょ?手当しなきゃ化膿しちゃうじゃない。」
「…そういう大事な事最初に言ってよ。」
「ごめんって。」
鶴屋に暴力を振るわれて出来た傷。消えかけてるものからまだ新しいものまで様々だ。
「それにしてもよく気付いたね、お兄ちゃんでも気付かなかったのに。」
「ん?んー、僕もそうだったし、兄貴もいじめに遭ってたから隠してる傷とかには気付き易くなったんだよ。」
衝撃のカミングアウトがなんと2つもあった。
「お兄ちゃんいたの!?てか…徳ちゃんもいじめられてたの!?」
「先生をつけなさい。」
「先生徳ちゃん、ちゃんと答えてよ!」
「はぁ…要らん知恵まで…まあいいだろう!話してやろう!」
変なノリで話し始めた徳ちゃんは懐かしむような顔で少し遠くを見ていた。
それは決して笑えるものでもなかったけれど、共感はできた。
「兄貴も教師やっててね、僕はそれを追いかけたって感じかな。」
お兄さんの話をするときは楽しそうで、徳ちゃんが尊敬してるのが見て取れた。
お兄ちゃんももう少し徳ちゃんを見習ってもらいたいものだ、お姉ちゃんをもっと敬え!
…と言っても、お姉ちゃんは早くから海外に単身赴任してるからそうも言えないんだろうけど。
「ねえ徳ちゃん、私もいつか来るかな?徳ちゃんみたいに過去の懐かしい話として話せるときが。」
お姉ちゃんに会いたい気持ちを抑えるために無理矢理聞いてみたこの質問。
私もだけど、沙夜ちゃんも京さんも香織さんも朔先輩も夏月先輩もお兄ちゃんも……みんながバラバラになってもう一度会った時に今の辛い時期を笑い話に出来たら…。もしそれが出来るなら、今が少々辛くても将来今の何倍にも笑える時が来ると信じて進める気がする。
「あやめちゃんが僕の事を"先生"って呼べるようになれば君の思い描く未来も実現可能かもよ?」
少しふてくされたような顔をした徳ちゃん、どうやら私の考えていたことを見透かしていたらしい。
「……宇宙人ですか?」
「ちょっと待ってあやめちゃん!?さっきまでタメだったよね!?なんで急に敬語!?あと宇宙人は心外だな!わかりやすいあやめちゃんが悪いんだ!ああああ!!すみません!!謝る!謝るから椅子を遠ざけるうえにそんな目で見ないでーっ!!」
仲のいい生徒に少し距離を置かれると情緒不安定になって少し面白くなる徳ちゃんだった。