ある女性の過去3
何か布ようなものを被されているようだ。なにも見えない。
車の音が聞こえる。
それに複数の車がすれ違っている音のようだ。
どうやら大通りを走ってるらしい。
「こういう仕事は嫌だけど、給料がいいからやってるんだろ?」
低い声で誰かが喋り始めた。
「俺はそうでもないぜ。というかこういう仕事がしたいからやってるんだよ。給料は二の次だ。」
別の声が返答した。
「まじかよ。そんなやつがいるとは思わなかったぜ。世も末だな。」
「俺一人で世も末なのか?その考えの方がやばいよ。」
二つの声は楽しそうに喋っていた。私はこの会話から自分の状況を理解しようとし、耳を澄ませた。
「そういえば、お前は何年目だっけ。」
「まだ一年目だよ。」
「そうだったのかよ、ならなんで俺に敬語を使わねぇんだよ。」
「別にこの仕事に上下関係もないだろ。」
「なら、お前は何歳だ。」
「25才。」
「年齢すら年下じゃねいか。ま、でも確かに上下関係なんてどうでもいいかもな。次はもう会わないかもしれないし。」
「そんなことより、どうしてこの女を連れ去られる必要があるんだ?」
「俺も知らないな。おい、お前はわかるか?」
「私ですか?私はただの運転手なんで分かりませんよ。」
また別の声が聞こえてきた。これで三人がいることにわかった。
車のすれ違う音が少なくなり、タイヤと道路の摩擦の音がはっきり聞こえるようになった。
「ま、べつに知ったところでやることは変わらないんだから知る必要もないか。」
「なら聞くなよ。」
「そうだったな。あとどれくらいで着くんだ?」
「あと10分ぐらいだろ。」
そう誰かが言ったあと、会話はなくなった。
わかったことは何か理由があって私は連れ去られたということぐらいである。しかしそんな理由があるとはおもえなかった。
その時、母親の顔が浮かんだ。今日は一度もあっていないし、朝からどこかにいってしまっていた。
きっと母親が原因に違いがないだろう。