ある女性の過去2
その日、母親は布団の中に入っていなかった。
いつもなら料理をしている音が響いているはずだが、今日は外からの騒音で満たされていた。
弁当も作られていなかった。お金もおいていなかった。
私は財布の中身を確認し、十分にお金があることに安心した。
近くのコンビニに行きおにぎりを買うと彼氏との待ち合わせの場所に向かった。
いつもより少し早めに来たので待たないといけないと思っていたが、もうそこには彼氏がいた。きっといつもから待ち合わせより早くにきて、私を待っていたのだろう。少しの罪悪感がわいてきた。
「今日は早いね、何か用事でもあるの?」
彼氏は私にそう聞いてきた。こういう細かいところを気にするところが唯一気にくわないことであった。
「別になんもないよ。そんなことよりもさ、、、」
と私はいい始め、朝母親がいなかった愚痴を言い、そこから学校の先生や友達の愚痴を飽くまで話した。
彼氏は笑いながら聞いてくれているが、内心どうでもいいとおもっているのだろう。
そうこうしていると、学校につきクラスが違う彼氏とは別れて教室に入った。
多くの人の言葉が重なりあい、一つの音の固まりとしていつもの通りに私の耳に入ってくるこの感じ。私はとても安心感を覚えた。
席に着くと固まりは分離して意味のある音として聞こえる。
「インフルエンザが流行ってるらしいよ。受験があるから気を付けないとね。」
と近くの人が言った。このまっとうな意見に私は小さく頷いた。
チャイムがなった。しかし、クラスにいる人は圧倒的に少なかった。そして教師が入ってきて一言、
「今日、このクラスの休みの人数が学級閉鎖の基準の数を超えたので、四時間目になったら帰ってもらいます。そして明日は休みです。」
少しざわついた。しかし昨日隣のクラスも学級閉鎖になった。そのためそこまでの驚きはなかった。
そして私達は、昼過ぎに家に帰った。
母親はまだ帰ってきていない。一体どうしたのかを考えながら、コンビニのおにぎりを食べた。そして彼氏からLINEに、学級閉鎖になったらしいな。気を付けろよ、ときた。なので、私は既読にしたまま少し放置した後に、お見舞いに来てね、と返信した。
しかしそれにしても暇である。いきなりの休みとは計画も立てようがないためつまらないものである。
仕方ないので服を着替え、すこしショッピングに行った。別に買うものがなくても見てるだけで楽しいのだ。
そして家に帰ると見知らぬ男性がいた。
私は遠くからいつ帰るかを見張っていた。しかし帰る気配がまったくない。
仕方なく、その男性を無視して家に入ろうとすると、
「飯田 陽子の娘か?」
と聞かれた。私はうなずくと男性はハンカチを私の口と鼻にあてて強く押し付けた。
どうにか逃げようともがいたが、女性の力ではどうしようもなかった。
目の前が真っ暗になった。