第一場 暗夜に生まれて
その者は夜闇の中から生まれた。
いや、発生したとでもいったほうがより近いかもしれない。
いつから、いかにしてこの世界に生まれ落ちたのかまったく知れなかった。
生物は例外なく母親を持つものだ。
だが、そんなものの記憶はなかった。
仔を産むこともない。
眷族もまた自分と同じだった。
ただ一つ、渇きにも似た衝動があった。
それは狂おしいほどの破壊と憎悪の念だった。
生まれながらに、全身を責めさいなむような憎しみの情念を抱きつづけていた。
とりわけ、この憎悪の念はヒトという種族に向けられた。
ヒトを喰らい、破壊する時だけ、ほんのわずかに渇きが癒えた。
それは生物的な捕食行為ではなかった。
憎悪が満たされる、昏い悦びだった。
他の生物が自身や種族の生存を本能的に願い食欲と性欲を抱くのと対照的に、彼には滅びの願望だけがあった。
ヒトを全て喰らい尽くし、この世界を滅ぼし尽くすまで、この衝動は満たされることはないであろう。本能的にそう悟っていた。
だが、一人の少女との出会いが渇望の対象を変えた。
彼は自身が王と呼ばれるのにふさわしい存在ではないと気づいていた。
世界の滅亡を完遂するには、自分などよりはるかに大きな器をもった、闇の王が必要だと分かっていた。
だから、彼は破壊の衝動を満たしながらも、一方で探し求めていた。
頭を垂れ、真に仰ぐべき王の存在を。
そして、見つけ出した。
もはやヒトを滅ぼすだけでは満足できなかった。
彼女を王に迎え、王とともに滅びの時をむかえたその時に、はじめて永劫の渇きはいえるだろう。
乙女の恋心にも似た狂おしいほどの想いで彼は待った。
いまや、機は熟した。彼女はしかるべき力を蓄え、かの地にやってきた。




