表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天城ミコト修行中!  作者: 倉名まさ
第三話 宵闇の祭り
22/38

第一場 暗夜に生まれて

 その者は夜闇の中から生まれた。

 いや、発生したとでもいったほうがより近いかもしれない。

 いつから、いかにしてこの世界に生まれ落ちたのかまったく知れなかった。

 生物は例外なく母親を持つものだ。

 だが、そんなものの記憶はなかった。

 仔を産むこともない。

 眷族もまた自分と同じだった。


 ただ一つ、渇きにも似た衝動があった。

 それは狂おしいほどの破壊と憎悪の念だった。

 生まれながらに、全身を責めさいなむような憎しみの情念を抱きつづけていた。

 とりわけ、この憎悪の念はヒトという種族に向けられた。

 ヒトを喰らい、破壊する時だけ、ほんのわずかに渇きが癒えた。

 それは生物的な捕食行為ではなかった。

 憎悪が満たされる、昏い悦びだった。

 他の生物が自身や種族の生存を本能的に願い食欲と性欲を抱くのと対照的に、彼には滅びの願望だけがあった。

 ヒトを全て喰らい尽くし、この世界を滅ぼし尽くすまで、この衝動は満たされることはないであろう。本能的にそう悟っていた。


 だが、一人の少女との出会いが渇望の対象を変えた。

 彼は自身が王と呼ばれるのにふさわしい存在ではないと気づいていた。

 世界の滅亡を完遂するには、自分などよりはるかに大きな器をもった、闇の王が必要だと分かっていた。

 だから、彼は破壊の衝動を満たしながらも、一方で探し求めていた。

 頭を垂れ、真に仰ぐべき王の存在を。

 そして、見つけ出した。


 もはやヒトを滅ぼすだけでは満足できなかった。

 彼女を王に迎え、王とともに滅びの時をむかえたその時に、はじめて永劫の渇きはいえるだろう。

 乙女の恋心にも似た狂おしいほどの想いで彼は待った。

 いまや、機は熟した。彼女はしかるべき力を蓄え、かの地にやってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ