序章終 「ラストショット」
廊下奥、ひときわ大きな扉の前に経って深呼吸をする。
この奥に、今回の取材の目的である”白装束集団の実態”が存在するのだ。
扉に耳をあて澄ましてみるが、やはり向こうから音は聞こえない。
中に入ってみる他に確かめる術はない。
「だ、大丈夫だ、だいじょーぶ。毅然として振るまえ、俺氏。」
独り言を呟きながら、ドアノブに手を伸ばす。
扉をゆっくりと押しながら中を伺うとーーーーーーーーー中は真っ暗。
扉をそっと閉じ、中に入ってみる。
部屋には窓がなく明かりが入ってこない。そのため、距離感が掴めず、部屋の広さがどれほどなのか分からない。
足を踏みいれると、地面の感触が先程までと違うことに気づく。
廊下はコンクリートでできていたが、ここでは靴がすこし沈む感じがある。
どうやら、粘土質の地面であるらしい。
(うっ…なんだこの匂い…)
腐葉土のような、なにかが腐った匂い。
嗅いでいるだけで気分が悪くなる、危機感すら感じる匂いが室内に充満していた。
周りからは相変わらず物音1つせず、人がいるかどうかの判断もつかない。
(ドアを開けたとき注意が向かないということは….誰もいない…?)
少なくとも、ドアを開けたときに廊下の光が室内に漏れ込んだ筈である。
しかし、室内からはそれに反応する様子が微塵も感じられなかった。
(止まっていても仕方がない。とにかく、前に出てみるしか...)
覚悟を決めたナギトは、及び腰になりながら前へと進む。
両手を前に出しながら、慎重に歩みを進めて、7、8歩進んだ時。
ぐにゃぁーーーーーーーと。
ナギトの足に、土とは別の”何か"感触が伝わる。
「ーーーーーーーーーーー!?」
咄嗟に声が出そうになるのを必死に堪え、態勢を低くして後ずさる。
なにかを踏んづけたような、そんな感触。土よりももっと柔らかい、しかし固形物であるらしい何かを。
(死ぬかと思った!!声を上げなかったのは我ながら素晴らしい判断だ..。)
すこし間を取ってから、踏んづけた物体から反応がないことを確認し、安堵する。こんな真っ暗闇の中で生き物を踏みつけたとしたら、大騒ぎになること間違いなしだ。
(明かりは…つけて大丈夫だろ、うん。)
人の気配はしない。そう判断したナギトはポケットからスマホを取り出し、地面に向かってライトを照らす。すると、やはり地面は土であることがわかった。真っ赤な
(真っ赤な……..土?)
違和感を感じながら、ゆっくりと、ライトを2歩先へと向けてみる。
先ほど踏みつけた正体。それは、生き物では無く
かつて“生き物だった”もの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー死体。
ーーーーーーーーーーーーーーバラバラになった、人の。残骸。
「ヒッ…..うぁあああああああああああああああああああああああ
アァァァァァァァッ」
どれほどの人間が、生涯のうちに変死体を見つける経験をするだろうか。
警察や消防に努める人間でも、凄惨な死体に出会う経験をする者は少ないだろう。
裂傷し、引き裂かれ、捻れ、破られ、潰され、砕かれ、粉々になり、焼かれ
破壊の限りを尽くされた、肉の塊。
しかも1つではなく、部屋中が死体で溢れていることにようやく気づく。
それは、正常な人間の思考を狂わせるには十分すぎる代物であった。
「何だコレッ…..何だよコレええええエェェェェ!?」
身体をよろめかせながら、一目散に入ってきたドアへとダッシュする。
ドアノブに手をかけ扉を引こうとするが、どんなに力を入れてもビクともしない。
身体を揺らす度に、胃液が逆流してくるのがわかる。
「なんでだよぉぉぉ!?何でだよおおおおお開けよクソがぁぁぁぁ」
鍵がかかっている云々ではなく、元々あった壁にドアノブが後付けされたような。部屋に入ってきた時とはまるで別物、ドアの向こうなど存在しないと感じさせるほど、絶対的な断絶。
( やばい、ヤばい、ヤバい、ヤバイ)
焦りと恐怖が、朝霞ナギトの身体を支配する。
その時。
急に、部屋の奥に"何か"がいるらしいと気配を感じ取る。
重々しい、闇よりももっと深く暗い....「死」を予感させるモノ。
途端、ナギトの身体が硬直する。
焦りも恐怖も消え失せ、自分でも驚くほどに冷静になっていることを理解する。
ゆっくりと、ゆっくりと振り返る。
あらゆる感情が消滅し、あと何秒生きることができるのだろう?と諦観する始末。
「ハハッ.....ハハはは...」
こういう時、どうやら人間は自然と笑えてしまうものらしい。
"そういうもの"ということが世に広まらないのは、死に行くものにそれを伝える手段がないからであろう。
そして、なにより笑えるのは。
人生最後の瞬間に絞り出した行動がーーーーーーー
カメラを手に持ち、ファインダーを覗き。シャッターを切るという行為だったこと。
ほんと、笑っちゃうよ。
「ldjfu kdu 残wqま⊿ loiね」
ーーーーー部屋の奥から、音が聞こえた。
いや、聞こえたという表現は正しいのかどうか。
秒速340m/s の波がナギトの鼓膜に届くか届かないかのうちに
朝霞ナギトの身体は砕け、蒸発し
痛みも苦しみも無いままにーーーーーーーーーーー
あっけなく、絶命した。
はい、いよいよ次章から異世界に参りますー!
長い...長い序章だったZE.....