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異世界選挙とジャーナリズム  作者: ぼんじり子
4/5

序章3 「ジャーナリスト魂」

「いやいやいやいや、なんですかコレ。超魔界村にでも来たんですか私は...」

白装束が出入りする建物を、高台にある雑木林の中から観察する。


広場のようなひらけた場所の中心に、タジン鍋のような形状の建物がぽつんと立っている。

建物を中心に半径200mほどの地面は真っ白、粉のようなものを撒いているらしい。

すっかり陽は落ちているが、建物を囲むように四方から照明が焚かれており

その不気味な白色の光は、山奥に突如現れたこの異様な光景に拍車をかけている。


外に出ている人間は、ざっと見た感じで10人前後。

身に付けている白装束は色こそ同じものの、形まで統一している訳では無いらしい。

頭巾の形が丸かったり、角ばっていたり。胸元にポケットが付いていたり、いなかったりと様々だ。


建物の中からは微かに念仏のような音が聞こえる。

その微かな音が周りの山々に反響し、低く不気味なうめき声のようになってナギトの鼓膜を揺らす。


「…猛獣とか化け物の類より、狂人のほうがよっぽど怖いわチクショウ。」

1人ぼやきながら、ファインダーを覗き込んでシャッターを切る。


こんな感じで40分ほど経つが変化はなく、特に面白い絵が撮れる訳でもない。

こうなると流石にフラストレーションが溜まってくる。

イライラを募らせたゴシップ記者が、ついに痺れを切らした。


「だぁぁぁぁぁ。しゃあねえええ、動くっきゃないですかっ!」


こういう時、ナギトは思い切った行動を起こすタイプである。

カメラを持って現場に入ると、仕事スイッチが入るというか、思考パターンが変わる人間なのだ。

(張り込みができないというのは、記者として致命的な欠点であるのだが....)


リュックサックを地面に下ろし、ガサゴソと中からあるものを取り出す。

この時のために用意した秘密兵器の登場である。


「ジャーナリスト魂、見せつけてやりますかっ!」




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「おつかれさまでーす。おつかれさまでーーす。」

白装束の男が1人、ペコペコと頭を下げながら歩いていく。


ーーーー朝霞なぎと、24歳。

ただいま、白装束の集会に単独潜入取材中、である。


秘密兵器とは、お手製の白装束のこと (総製作時間 3時間)

ネットの画像を頼りにして、独学で作ったものである。

近くでみると継ぎ目の部分など作りの粗い部分があるが、

日が落ちた後の暗さであれば、それほどの違和感は感じない。


アルミでできたカメラケースは、白いビニールテープを貼り付けて真っ白に。

どこから見ても完璧な潜入コスチュームである (ナギト談)


「潜入するときは、堂々と声をかけていくのさ。隠そうとするからバレるんだ」


どこかのスパイ映画で言っていた言葉を鵜呑みにし、ナギトは堂々と真っ向から潜入することにした。


その妙策(?)が的中し、見事に建物の中に侵入することに成功した。

...と、言うのも。こちらから挨拶はかけるのだが、相手から返事が一切返ってこない。

もちろん、白装束の覆面で顔を隠しているため相手の顔は確認できないのだが


(この人たち….変な感じだ…?)


人間、活動していれば何かしらのエネルギーを発生させるものである。

たとえ顔を隠していたとしても、佇まいなどからその人間の印象を受け取るもの。

しかし、ここにいる者からはその”人間”としての印象を全く受け取ることができない。

糸の切れた人形のようにーーーぐったりとしている。


「変なクスリとかやってないよなぁ…? 恐ろしさが尋常じゃないんですが…!?」


不審に思いつつも、ナギトは歩みを進めていく。


建物自体はさほど大きくなく、サーカステントの様になっていた。

通路を挟んでいくつかの部屋に分かれており、倉庫や食事室など目的別に振り分けられている。


驚くことに、建物の中は”真っ白”では無かった。

いや、真っ白で無いどころか、壁などには様々な色で幾何学的な模様が描かれている。


魔術で使用されそうな謎の物体から、大量の蔵書、いかにも呪われてそうな人形から、猛獣を閉じ込めるための檻まで。さらにはマンガに出てきそうな西欧風の刀剣がずらーっと並んでいた。


「武装勢力...ってわけでもないか。っていうかこの集団、統一感が無さすぎるのでは….??」


外は真っ白、中は極彩色。

そんなチグハグの建物内を散策するうちに、ナギトは3つのことに気づく。



まず、建物内で殆ど白装束の人間とすれ違わないこと。


いくつかの部屋があるものの、それぞれの中は空っぽで人気がない。

廊下の奥に一際大きなトビラがあり、恐らくはその向こうに集合しているのだろう。

おかげで、ナギトは気を配りながらも建物内を比較的自由に観察することができた。



2つ目は、本や武器に刻まれている文字が今までに見たことの無いものということ。


「楔形でもないし、ヒエラティックでもない。こんな文字も存在するのか...」


ナギトの大学での専攻は言語学。ゆえに文字の成り立ちや、言語体系などについてはそれなりの自信があったが、この場所においては役に立たなかった。所詮は学士レベルの知識である。


ナギトには、その文字群が足掻き苦しむミミズの群れにしか見えず、なんとも言えない気持ちになった。

見るだけで人をこんなに不愉快にさせる文字があるとは。気持ち悪い...。



3つ目。それは"ナギトが建物に入った直後から音が消えた"ということ。


侵入してから20分ほど経っているが、その間に音は一切聞こえてこない。

随分と長いこと、無音状態が続いている。

建物に入る時は通路奥の大きな扉の向こうから、念仏の様な音が聞こえていたのだが。


(もしかして、侵入したのバレてる...?)


一瞬そんな考えが頭をよぎるが、すぐに取り消す。

まず自分は白装束に扮しているし、そもそも誰とも”会話”をしていない。

疑われる要素は1つも無いと言い聞かせ、己を鼓舞する。



とはいえ、ここに長居するのは精神衛生上あまりよろしく無い。

サクッと撮るモノを撮って、撤退するとしよう。

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