序章2 「ネタを求めて」
ーーいやね、そもそも。自分がなにかの事件に巻き込まれる心配なんて
真っ当に生きている人間はしないでしょう!?
交通事故に遭うとか、強盗にあうとか、そんな日常的な危機ですら
”自分には関係ない”なんて、思うわけですよ普通。
まぁ、今回の場合はね?確かに普通のケースじゃなかったかも知れないよ。
白装束?だかなんだかの、怪しいやつらの集会を取材をしようってんだから。
いやね!?それでもだよ!
この法治国家である日本でだよ!?
たかがゴシップ記者がですよ。そんな大事件に巻き込まれるなんて想像しないでしょう!?
ネタ1つ取るために、どれだけのリスクヘッジをしろと。
それに今回に関しては、どれだけ準備しても抗えなかったと思うんだが!?
….まぁ。
それができないから三流記者止まりなのかもしれない。
人生とは常に、あらぬ方向から槍が飛んでくるものである、と。
もっと早く理解をしていたなら、経験をすることができたなら、別の人生があったのかも知れないと。
そう思わずにはいられない。
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高崎駅についてから、レンタカーを借りた。
白装束が集まるのは、車で40分ほど走った山の中にある
小さな集落。
そこに遺跡のようなものを作り、
( 遺跡って昔から存在してこその呼び名だよね。この場合は新跡?)
夜な夜な集まって、呪文のような何かを響かせているらしい。
「ったく、これで何のネタも取れなかったらどうしてくれようか。
編集長に言いつけて、2ch禁止令の鉄槌を食らわせてやる」
時刻はすでに午後6時。太陽が山にかくれる寸前、空には黒とオレンジを混ぜて潰したような気味の悪い雲が漂っている。
舗装路はとうに終わっており、悪路を進む小さな軽自動車は前に進むたびガタガタと朝霞ナギトを揺らす。
「痛い痛い痛い!なんだよこの道!
群馬は何に予算使ってんだっ、道をつくれよ、道を!」
誰へとわからぬ罵声を飛ばしながら、ナギトはアクセルを踏み続ける。
すると、向こうの駐車場に白いワンボックスカーを見つけた。
ーーーワンボックスカーと言っても、ただのものではない。
幾何学的な模様のステッカーをびっしりと車体に貼り付けた、特別仕様車である。
見ているだけで全身に鳥肌がたつような、人を不安定にさせるだけの違和感を
その車は放っていた。
「うわぁ...きもちわりぃ…。
でも、2chのソースもあながち間違いじゃないってことか….。」
心の中で少しだけ佐藤に詫びを入れつつ、駐車場に車を止める。
止まっているのは白いワンボックスカーが10台ほどと、自分が乗っている赤い小さなレンタカーが1台。
こうも整列して10台のワンボックスカーが並んでいると、
1台だけ赤色のレンタカーこそが異端児に見えてくる。
(まぁこの場所においては、白装束を着ていない私の方が異端児なのか….)
車のトランクを開け、アルミで出来たカメラケースを取り出す。
中にはカメラのボディが2つと、レンズが4本入っている。
ボディの1つはデジタルカメラで、F社のフラッグシップモデル「FD1」
最高シャッタースピード、マルチフォーカス機能、ISO感度。
どれを取っても他のカメラを凌ぐ最高性能を誇っている。
もう1つは、フィルムカメラ。少し古めの機種であるが、丁寧に整備されている。
「今日は…やっぱりコッチかなぁー」
フィルムカメラを手に取る。このカメラは、ナギトの父親の形見である。
高校3年生の時に父親は他界した。その直前に、父親から受け取ったものだ。
それ以来、どこへ行くにもこのカメラを持ち歩くようになり、今では仕事の相棒になっている。
上司からは「なんでそんな古臭いモノ...」なんて言われたりするが、
そこはナギトのこだわりの部分。
"カメラの性能が、記者の決定的戦力の差では無い…!!”と自分に言い聞かせている。
実際、デジタルカメラは余計な機能が多すぎるのだ…、とナギトは考えている。
時代が進めば技術は進化するから、適応しないナギトの方に問題があるのは間違いないのだが、重さやグリップなどのフィット感や、愛着といったものもカメラには必要なのである。
70-400mのレンズを装着し、カメラを肩から掛ける。
さて、仕事に取りかかるとしよう。