序章1 「ーーーの残骸」
ときどきーーー思うことがある。
自分が使命と感じているものは、他人からみればただのエゴで
自分が思う「善意」そのものが、世界を歪めてしまっているのかもしれない、と。
それはつまりーーーー
自分という存在は、消えてしまった方が良いのかも知れないーーーーーと
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「てめぇ!こんなボンクラネタしか取って来れねえんだったらぁ!!
仕事やめちまえよ!給料泥棒が!!!!」
上司の佐藤がツバを振りまきながら、いつもの如く罵声を浴びせてくる。
白髪混じり、ボサボサの髪。ヤニがこびり付いた黄色い歯。
絵にかいた様なゴシップライター、正にそのものである。
こいつは何かと大げさな物言いで、私のことを罵るのが好きだ。
積極的にネタを取りに行くわけでもなく、いつもデスクに座ってタバコを吸いながら
2chをみているクズ。(決して言葉にはできない)
「あのなぁ、2chって場所はネタの宝庫なんだよぉ。
俺はいつも必死にネタをさがしているわけ。歩数だけ稼いで何の成果も出さないオマエとは効率がチガウの。」
嘘をつけ。
お前がいつも見ている「ちょっとHな風俗スレ」から何の情報が得られるというのだ。私は知っているんだぞこの野郎!!
ーーーと言えるだけの度胸があれば。
そもそも私はこんなところにいないだろうか。
私の名前は、朝霞なぎと。
世の真実を追求する正義のジャーナリストーーーーーの残骸だ。
東京は阿佐ヶ谷にある出版社「東明社」で写真週刊誌に携わる、いわゆるゴシップ記者だ。
社会人2年目、月給18万7000円、彼女なし。
社会的なスペックは低めだとしても、いまは仕事に熱中している時期だから大丈夫ーーーーという訳でもない。
上記のとおりロクにネタを取ってこれず、それが原因で上司との関係もいびつな感じに…。
正直、きつい。
生活、人間関係、自分の不甲斐なさ。
さらに、仕事から充実感が得られないことへの不満。なんとなく毎日を、、ダラダラと過ごしているこの感じが、とても嫌だ。
そして何より、
嫌だ嫌だと言いながら、どうにもできない自分が一番嫌だった。
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「えっ、群馬ですか。なんでそんな突然…?」
「面白そうなネタを仕入れたんだよぉ。オレ独自のルートでな。
オマエが自分の考えで動いても何の役にも立たないから、
優しい先輩がネタ提供してあげようっての。現地行って何か取ってこい!」
(佐藤の野郎、いつかぶん殴ってやる。
いっそ2chにスレ立てて社会的に抹殺してやろうか…..)
湘南新宿ラインの車内、コンビニのおにぎり(海老マヨ)を食べながら
脳内で罵詈雑言の限りをつくす。直接言わないのはまぁ、、世渡り上手ってやつだ。
仕事柄、こういう突発的な出張はよくあるものだ。
2年目の私に拒否権などもあるはずもなく、こうして渋々と群馬に向かっている。
取材の目的はーーーーーーー白装束の集団。
数年前にワイドショーを騒がせた集団で、その実態は宗教法人らしい。
電波で人を操ろうとしているとか、宇宙人と大規模交信をしているだとか、
その活動は推測の域を出なかった。
5年ほど前から活動は下火になっていて、メディアに取り上げられることも
少なくなった。それこそ、取り上げたりするのは「月刊◯ー」くらいで
一部のオカルトファンの話題程度になった程度だ。
それが、最近になって活動が活発になってきたらしい。
佐藤のことだから、ソースは「オカルト超常現象@2ch」くらいのものなんだろうが、火の無いところに煙は立たないと言うし。
とにかく、上長の命令に従うしかない私なのである。
「ひもかわうどんでも食べて帰るかなーーー」
なんて、気楽に構えていたもんである。この時の私は。




