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ダクバ!  作者: 魔王
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平凡とは?

俺はなんでここにいるんだろう。机に肘をついて窓の外をぼーっと眺めててそんなことを思う。俺は一体何のためにこの高校という施設に入ったのだろうか。ここにきてからずっと疑問に思う。俺は小学校を途中で退学しそれから中学校にもいってない。のに、なんで高校にはきてるんだろうか。わからない、こんなところは俺にとってはデメリットしかないというのに。

「はぁ…」

何回目のため息だろうか、もう数えるのも嫌になってきた。教卓の前では俗に先生と呼ばれる人間が黒板にチョークで何かを書きながら喋っているが何も聞こえない。頭に入ってこない。ここにいるだけ時間の無駄なのは確かだ。だが、それでも俺はここにいる。なにかに縛られるように、なにかに誘われるように。俺がずっと窓の外に目を向けていると肩を先っぽの尖ってるなにかにつつかれた。俺はつつかれた方に振り向く。そこには委員長と周りから呼ばれている人間の女がいた。お決まりの眼鏡は掛けてないが美人だ。髪は地毛なのだろうか茶髪だがその長い髪を後ろに三つ編みにして前髪はりんごのヘアピンで留めてある。そのおかげでおでこが丸見えで美形ともいえる整った顔が全部見える。体型もどちらかというと男性が望む理想の体型だろう。

「あまり外ばっかりじゃなくて授業もちゃんと見なきゃ」

俺があまりにも授業を聞いていなかったのでそれで注意してきたのだろう。それが委員長としての仕事なのだろう。だが、俺はそれを無視して寝ることにする。隣の委員長は「もぅ」とため息をつくのだった。委員長に注意されたのも数えるのが嫌になるぐらいに注意されてきた。そのどれも俺は無視してきたが。俺は意識を半分だけ覚醒させたまま目を閉じて眠るのだった。だが、それを許さない奴はもう一人いる。

「こらー伊坂、授業中に寝るな」

誰かが注意されてるようだが俺の知ったことではない。無視し続けていると不意に何かで頭を叩かれた。

「おい、伊坂来弥いさからいや、おまえのことだぞ」

「…すみません」

忘れていた、今の俺は伊坂来弥だったんだっけ。叩かられて、気がづいた。俺はそれから大人しくめんどくさく授業を受けるのだった。その姿に委員長はなぜか満足そうにして授業に戻った。


時は過ぎて無駄な時間がやっと終わった。俺はすぐに帰ろうと準備をするがそれを邪魔する奴がいた。

「ねぇ、伊坂くんはこのあと暇かな?」

委員長だ。正直に言うとうざい。こいつは自分を全然理解出来てないんだろう。この委員長こと明峰咲あけみねさきはこの学校じゃ片手に入る美少女なんだと。そのせいで注目を浴びるハメになる。つまり、今こいつが俺に声をかけてきた時点でここの男子生徒の注目が全部こっちに来る。しかも、どれも殺意とまではいかないが憎しみや妬みを持ってこちらを睨む奴はたくさんいた。こいつは、明峰咲はそんなことになってるとは知らずにただ無邪気に俺に話しかけてきた。だからこそ、余計にタチが悪い。

「…別に」

「それなら、どこか一緒に遊びに行けないかな?」

「…」

俺は無視して教室を出ようとする。が、それを女子の群れが阻む。その群れの一番先頭にいるのは明峰咲の自称友人、粟生緋香里あわなひかり

「ちょっと!なに無視してんのよ!」

粟生の後ろにいた女子が言う。

「そうよ!委員長が誘ってあげてんのよ?断るにしても無視とかひどいんじゃないの!?」

そして、粟生もそれに乗っかる。そうして周りの女子もその二人につられて言いたい放題言ってくる。俺はそれを一言で終わらす。

「どけ」

「な…」

目の前にいた粟生ともう一人の女は絶句していた。後ろいたうるさい奴らはブチ切れてバーサーカーみたくなってるが俺は全部スルーして教室を出る。それから、追いかけてこようとするものはいたがどいつも途中で諦めて帰っていった。そうして、下駄箱から靴を取り出して正門までいくと…。ご丁寧に女子みたく、男子が群がって待っていた。どいつもこいつもスポーツの部活に入っていて女子からも人気のあるイケメンやガタイのイイヤツばっかりだった。どうしてこうもこいつらは群れるのかわけがわからん。俺が素通りしようとすると柔道服を着込んだこの中で一番体つきがなってるやつに肩を掴まれた。

「おいてめぇ、何無視してやがんだ?」

それを合図に男子達が俺を中心に囲む。完全に集団リンチにしか見えんだろう。しかし、来弥は怯むことなく掴まれた手を振りほどく。

「てめぇの態度は転向してきた時からずっと気に入らねぇんだよ、それに咲に誘ってもらっておいてあれか?あぁ?」

今度は野球部のキャプテンを務める奴が前に来た。咲とか呼び捨てにしてるけど別にこの野球部のキャプテンと明峰咲が仲がいいという訳では無い。むしろ、話したとこなんて見たことがない。一方的にこいつが喋ってるようにしか俺には見えなかった。むしろ、相手をしていた明峰は迷惑そうにしていたがな…。

「おいなに無視してんだってきいてんだろうが!なんかいえや!」

こんなガタイのいい男子に囲まれてこんな事言われれば腰抜かすやつはさぞ多いことだろう。あるいは喧嘩上等なやつも少なからずいるだろう。だが、俺が向けている感情は怯えでもなければ怒りでもない、ましてや呆れなんてものでもない。俺が向けている感情は…。

「どけ」

なにもないのだから。興味することさえない。それにこいつらは値しない。興味どころかやりあうのに不必要なヤツらとしか認識してない。通行の邪魔、障害物、壁、それと同等の認識しかない。もはや、生き物として捉えることなどなかった。

「あぁ!?やっぱり痛い目見ねぇとわかんねぇようだなぁ!おい、やれ」

おそらくこいつらを仕切ってるであろうサッカー部のキャプテンが全員に指示を出す。総勢五十七人がそれぞれに武器を持ってじわじわと詰め寄ってくる。誰も俺が最初に殴りにいくってやつは誰もいなかった。それはそうだ、なにせここは学校なのだから。しかもいまやっていることは集団リンチそのもの、いじめなのだから。そんな腰抜けの男子達を見下して目の前にいた野球部のキャプテンが後ろにいた同じく野球部の男子からバットを奪い取った。

「こんな野郎とっとと病院送りにしてやればいいんだ!」

その奪い取ったバットを思い切り振りかぶり全力で俺に向けてフルスイングする。いままでも、なんどかこういうちょっかいをかけるようなことはあったがここまで数を揃えて、しかも、こんな積極的に攻撃してきたのは初めてだ。それでも来弥は冷めた目で周りの男子を見るだけだった。そうして、目の前の野球部のキャプテンがバットをフルスイングをしたのを見て、

「死ねやぁぁぁあ!」

狙いは完全に頭だった。殺す、とまではいかないだろうがそれでも洒落にならない一撃だろう。俺はその一撃を頭で受け止めることは無かった。何故なら目の前でバットが止まったからだ。否、止めたのだ。片手で。野球部のキャプテンの全力フルスイングを。

「なっ!」

これには周りの男子も驚いた、野球部のキャプテンのフルスイングと言ったら必ずホームランが打てる力でそのヒット力と振るう力はプロ野球選手のほとんどが賞賛するレベルだった。それを、ただの片手で掴んで止めたのだ。痛がることもなく。音もさせず。俺は無言で片手で掴んでいた木製のバットをへし折った。

「はぁ!?」

これにはさっきよりも驚愕せざるえなかった。空手などでへし折るようの少し柔らかい素材でできた木製バットなどがあるがこれは普通に公式戦で使われるほどの硬い木でできた木製のバットだ。たかが高校二年生が、否、高校生が片手でへし折れるような代物じゃない。来弥はそんなことやって見せたにも関わらず無言だ。何も喋らない。

「な、なんだてめぇ、どんな怪力してやがんだよ!」

今ので怖気付いたのか野球部のキャプテンはたじろぐ。それをみて周りにじわじわと詰め寄っていた男子達も離れていく。俺はできた隙間を歩くように無視して帰ろうとするが、それだけじゃ済まなかった。後ろから雄叫び声を上げて突進してくる障害物がいた。

「うぉぉぉぉお!」

柔道部なガタイのよかったやつだ。というかこいつもキャプテンだ。俺をなぎ倒そうとその巨体で迫ってくる。俺は振り返りもせず後ろ蹴りを顔面にいれる。あまりの衝撃に何が起こったのかわからず柔道部のキャプテンは倒れる。顔にはくっきりと俺の履いていた靴の跡がついていた。それをみてさらに、というか俺の通る道を男子達は自然とどいていった。俺は気にすることもなく、目をくれてやることもなく正門出るのだった。その後ろ姿をサッカー部のキャプテンは唇を噛み締めて見るのだった。



そんな一難どころか二難もあった厄介事を特といって気にすることなく帰路につく。だが、まっすぐに家に帰ることはしなかった。なぜなら…。

「なんでいつもついてくる」

流石にこれは振り返らざるえなかった。簡単に言うと尾行してたやつがいたから。ヘタしたらストーカーもんだ。そうしてついてきた明峰咲はにっこりとはにかんだ。

「だめ?」

そんなことを可愛らしくちょこんと首をかしげて聞くのだった。俺は別に何もなく、ただ淡々と見るだけだった。普通だったら萌えるんだろうがあいにくそんな感情は持ち合わせてはいないし萌える要素がいまのどこにあったのかさえわからない。それに、そんなものは必要ないのだから。

「お前はもう少し自分を知れ」

今回だけじゃない、俺が転校してきてからずっとこの委員長は俺のあとをつけてくる。隠すことなく、な。むしろ、自分を主張するように俺に近づいてくる。わけがわからん女だ。いつも無視するが今回だけは忠告してやる。

「私はちゃんと自分の事をわきまえてるつもりだよ?」

わかっていない。わきまえていない。しらない。こいつは馬鹿、いや、一般的に知らなくて当然なのだろう。殺気なんてものは。教室の中にはいなかったが、正門まで囲んできた男子達、あの中にいた。一人だけだが、薄くだが殺気を放つやつが。それを知らないからこいつはあんなことがいえる。こういう行動が取れる。だから、これが最初で最後の通告だ。

「知ってるなら近づくな」

それだけ言って再度、俺は帰路につく。

「いやだよ…」

そんな彼女の声が来弥に届く事は無かった。


翌日、あれから明峰咲は俺の追跡を諦めて帰っていった。そうして俺も本当...に帰った。そうして、朝、学校に来て下駄箱を開けたら一通の手紙が入っていた。色はシンプルに白だ。無地無色。俺は手紙を開け内容を確認する。

『池袋の廃工場にこい、でなければ明峰咲を殺す』

内容は至ってシンプル。ただこれだけ、名前もなにもないただの殺人予告。俺はその紙を迷わず捨てるのだった。そうして上履きに履き替え自分のクラスに向かう。普通は動揺するのだろうが来弥には残念ながらそんなことでは動揺しない。むしろ動揺させるものがない。彼には動揺させるほどの守りたいものなど何一つとしてないのだから。だから、今回の明峰咲の殺人予告を知ろうが知らなかろうが、デマだろうがホントだろうが、嘘だろうが本気だろうが関係ない。殺したければ殺せばいい、死にたければ死ねばいい。それを俺に知らせてどうする?ただそれだけだ。後味の悪い行為?人として最悪?だから?たかが人、一人死のうが変わらんだろ、この世界は。何人死のうがいつも通りだろ。少しざわつく、それだけ。俺は席について窓の外を眺める。また今日もこの無駄な時間が過ぎていく。それだけだ。しばらくして、先生が教室に入ってきて出欠席を取り始める。

「明峰咲、明峰咲はおらんのか?」

「まだ来てません」

俺とは逆の反対側に座っていた女子がカバンがないのを確認して答える。

「ふむ、珍しいな」

といいつつも先生はチェックをつける。そうして朝の出欠席が終わり一時間目が始めるのだった。

そうして、昼休憩。それは騒ぎになった。学校の掲示板のど真ん中にそれは張り出されていた。それは、俺が朝、捨てた一通の手紙だった。それを見て、中には悲鳴を上げる人もいた。さすがの騒ぎに先生達もパニック状態だった。そんなことがあろうと俺はコンビニで買ってきていたメロンパンを貪っていた。そこへ、昨日、俺の前に立ちはだかった女子の一人、粟生緋香里がやってきた。

「これ、何か知ってるんじゃないの?」

そうして、俺の机に叩きつけたのは掲示板に張り出されていた手紙だった。教室の外からではあるが複数の男女がこちらを見ているのがわかった、中には先生も混じっていた。みんな遠巻きにこちらを見ている。そんな緊迫状態の中、俺は無視して昼飯であるメロンパンを貪り続けるのだった。

「ちょっと答えなさいよ!」

その態度にブチ切れた粟生緋香里あわなひかりが俺が食べていたメロンパンをはじき飛ばす。メロンパンは地面に落ちて潰れる。俺はそれさえも無視して一緒に買っていた缶コーヒーを飲む。

「あんたふざけんての!?今何が起こってるのか知らないわけじゃないでしょ!?」

とうとう堪忍袋の緒が切れた粟生はその握り拳を俺に振るおうとする。

「知ってようが知らなかろうが俺に何の関係がある?」

そこでようやく口を開いた来弥に粟生はゆっくりその拳をおろすのだった。

「これ、あんたが下駄箱でこれを見てるのを見たって子がいたんだけど、あんたのじゃないの?」

「そうだとして俺に関係があるか?」

「あんた!」

言葉よりも先に手が出ていた。粟生は下ろしかけていた拳を開いて思いっきりビンタしたのだ。来弥はそれを後ろに体をそらして避けたが。

「なんで避けるのよ…、なんで!なんで何も感じないのよ!?」

ついには泣き出した。ビンタをかわされて怒りのやりどころを失った粟生は泣き崩れだした。その後継に粟生の彼氏である岩ケ崎仙太いわがさきせんだいが我慢しきれずに教室に入ってきた。

「てめぇ!よくも緋香里を泣かしやがったなぁ!」

岩ケ崎は両手を拳にして殴りかかってきたが俺は中にまだ残っていたコーヒー目に向けてぶちまける。

「ぐぁぁぁ!!」

見事に目にヒットして男は目を抑えて呻く。よほど痛かったのだろう机や椅子にぶつかりまくる。そうしてこの場は沈黙が支配した。その沈黙を来弥が破る。

「場所は書いてある、おまえらがいけばいい」

俺はそうしてコーヒーのなくなった缶をゴミ箱に投げ捨てて教室を出る。誰も何も言えなかった。最悪、悲惨、無情、冷徹。「人でなし!」と誰かが叫んだが来弥は気にすることなくその場から消えるのだった。来弥がいなくなった後、なんとも気まずい空気が流れた。誰一人としてその場所に行こうという者はおらず、むしろ、みんなどこか一線引いている気がする。そこに、やっと立ち直った粟生が涙で目元を赤くしているのにも関わらず、一人で、何も言わず、池袋の廃工場へと向かったのだった。途中、先生たちが止めに入ったがそれさえも粟生は振り切って学校を出るのだった。それを、俺は屋上から見ていた。空気が悪い、今日は一段と。俺は鉛色の雲を見上げて一言だけ吐く。

「こんな場所に何があるっていうんだ?」



(なによなによなによなによなによなによ!なんなのよあいつは!何であんなことが言えるわけ!?あいつには人としての情はないの!?)

私は、粟生緋香里あわなひかりは電車に揺られながらあの伊坂来弥の文句ばかり吐いていた。わけがわからなかった、あんな人間がいること自体理解が不能だった。一体どういう育て方をされたらあんなふうになるわけ!?あの伊坂来弥の親の顔が本気で見たかった。仮にも隣の席の女の子が、あいつをよく思ってる一人の子が大変な目にあってるかもしれないっていうのに、なにあの態度!?あいつは王様ぶってるつもりなの?そう思うと余計に腹が立った。そもそもああいう行為が取れること自体に意味不明としか言いようがない。昨日のことだってまるで邪魔者を見るような目で私たちのことを見ていた。何言ったってあいつには響かない。絶対に。粟生緋香里は確信していた。伊坂来弥という人間は人間のゴミだと。生きてる価値なんて存在しないほどに。だからもし、この事件がなんかのデマで明峰咲、咲ちゃんが無事だったら言うつもりだ、あいつとは絶対に関わるなと。関わったらろくな目にあわないと。あいつには人としての心情なんてこれぽっちも感じられない。そんなやつは必ずなにかやらかす。そういうやつに限ってなにか大事件を起こすのだから。私は覚悟を決めていつの間にかたどり着いていた池袋の廃工場の重い扉を開ける。中は昼間だというのに暗く、うっすらとしか周りが見えない。

「咲ー!どこにいるの!いるなら返事をしてー!」

私は大声で咲を呼ぶが返事は帰ってこなかった。ただ、私の声がこだまするだけだった。

「もぅ、どこにいるのよ!咲ー!出てきてよー!」

私はこれはなにかのイタズラで本当の事件だなんて思っていなかった。だから、一人で来て探すことにしたのだ。しかし、突如なにか硬いもので後頭部を叩かれて意識を失った。


「ん、ぅ〜ん」

なんだろう、ひどく頭が痛い。ズキズキと鈍い痛みが後頭部に走る。その痛みに起こされながら私はここがどこなのかを把握する。そうして、徐々に覚醒し始めた脳で思い出した。

「咲!?」

目の前には目隠しをされ口にはタオルを巻かれて声を出させないようされたあげく、椅子に縛り付けられた友人の姿があった。そして、その隣には…。

「なにをしてるの、凰我崎君」

そこには剣道部主席の凰我崎淳也おうがさきあつやの姿があった。手には竹刀ではなく鉄パイプが握られていた。

「いやいや、それはこっちのセリフだ。こんなところでなにやってるんだ?粟生緋香里」

「あんたこそ、咲をどうしようっていうの」

「あぁ?この女は俺のもんだ、俺がどうしようが勝手だろうが」

「っ!」

あまりの衝撃的言葉に言葉が詰まった。凰我崎淳也は、剣道部主席で誰に対しても明るく接してくれる理想のイケメンとして女子からの好感度は高かった。女子だけじゃない、男子ともの付き合いもよく成績も優秀で先生達からも一目置かれていた人だ。それがこんな、こんな…。あまりの現実に言葉を失った。

「まぁいい、本当はあいつが来た後、こいつでボコボコにしてそこに跪かせるつもりだったんだが」

そう言って右手に持っていた鉄パイプをあげる。

「まぁいいか、それにもう俺が我慢出来ねぇし」

凰我崎は鉄パイプを隣に置くと咲の元まで行く。

「ちょっと!咲に何するつもりよ!」

私は止めに行こうとするが手には手錠を鉄棒を挟むようにしてかけられ、足には足枷をされていた。そのせいでまともに動くことができない。

「ホントはボコボコにしたあいつの目の前でやりたかったがしゃーねぇよな?」

凰我崎はそう私を睨んだ後、思いっきり咲の服をビリビリ!と豪快に音を立てて破り割いた。破り割かれた服の下から咲の下着と咲の綺麗な肌が露になった。

「へへ、こいつはそそるなぁ」

「やめなさい!その汚らしい手で咲に触らないで!」

「そいつは聞けねぇな、こっちはずっと我慢してたんだからな」

凰我崎はもはや獣だった。ただの獣。その光景に粟生は恐怖して脚がすくむ。声が出ない。怖い怖い怖い怖い!ただただその感情だけで頭がいっぱいになり何も出来なくなってしまった。

(嫌だ!このまま友人が目の前で穢されるのなんて見たくない!とめなきゃ、とめなきゃいけないの!どうして!?体がいうことをきかないよぉ…)

目からとめどなく涙か溢れる。さっきここに来る前に泣いたばっかりなのに。

(もう嫌だ!なんで!?私が何をしたっていうの!?もう、いやだ…)

もう何もかもに絶望仕掛けた時、カランっと乾いた音が響いた。その音に獣と化していた凰我崎は敏感に反応する。

「誰だ!?」

すぐに横に置いてあった鉄パイプを握りしめる。明峰咲は服はほぼほぼ破られ下着も乱れた姿になっていた、もう下着だけしか彼女の身につけるものはなかった。あと一歩というところで音がなってくれたのは奇跡としか思えなかった。しかし、それは自然現象なんかではなく意図的なものだった。ゆっくりとコーヒーの缶がこっちに転がってきた。凰我崎がそれを拾い上げる。

「誰だぁ?」

「俺だ!」

奇跡だろう、奇跡としか言いようがないだろう。そこには粟生の彼氏である岩ケ崎仙太いわがさきせんだいがたっていたのだから。

「仙太!」

思わず私は彼氏の名を叫んだ。奇跡だ、まだ神様は私たちを見放さなかった。そう思って仙太に助けを求める。

「待ってろ!すぐに開放してやるからな!」

だが、それは妄言でしかなかった。

「少し黙れや」

「ぐぁ!?」

相手は剣道部主席、そんなやつが鉄パイプを持って攻撃してきたら防御する術なんて何一つとしてない。腕で防御したが鉄パイプだ、そんなの無意味。叩かれた場所は骨が折れたんじゃないかと思うぐらい激痛が走る。その場所は赤を通り越して紫色に腫れ上がってる。一方的だ。ヒーロー見たく格好よく登場したが所詮それだけだ。そんなものは夢物語でしかない。現実は悲惨だ。これが現状だ。一方的に嬲られる彼氏の痛々しい惨状を見て、粟生は目を瞑った。目を瞑っても仙太の悲鳴は聞こえる。地獄だ、目の前で彼氏は一方的に殴られ、その後に友人は穢される。見てられない。見たくない。想像したくない!そうして、現実逃避してる間に仙太は悲鳴を上げるもなくピクリともしなくなった。頭からは血が流れている。それを見まいと粟生はより一層強く瞼を閉じる。

「はぁ、やっとくたばったか屑が。よーし、これでやっと邪魔者も消えたし楽しめるな」

死んだんじゃないかと思えるほどに岩ケ崎ピクリとも動かなかった。凰我崎は一仕事終わったような顔をして明峰咲を犯しに行く。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、吐きそうだ。こんなの現実じゃない、夢だ。夢なんだ。悪夢だ、最低最悪の悪夢なんだ。もう…ダメだ…、正常でいられそうにない。そう、粟生が堕ちかけた時。

「満足か?」

「あぁ!?」

突如空から声がした。否、空ではなく工場の上の階から。そこには私たちを見下ろすようにしてあの男がたっていた。

「伊坂来弥ぁぁ」

そう、私が一生大嫌いだと言えるクラスメイトが。



惨状は最悪。一人は死んでるんじゃないだろうか、現に地面に倒れたまま動かない。もう一人は、委員長の明峰咲はあられもない格好にさせられていた、服は破かれ下着もはだけて綺麗な肌が惜しみなく晒されていた。かろうじて秘部はまだ守られているようだが。そして、最後の一人の女は手足を拘束されその顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた。これをやったであろう鉄パイプを握りしめた男は俺の名前を呼ぶと同時に一気に薄っぺらい殺意を俺に向けてくる。反吐が出る。だが、これがやつのやりたいことだったんだろう。だから俺は問うた。なにもかも壊したんだ。自分の今まで築き上げた地位も信用もなにもかも、そうして失った後は他のやつのなにかを壊してきたんだ。体を心を、そして自由を。だから聞いた、満足か?と。

「伊坂ぁぁぁあ!降りてこいやぁぁ!」

どうやら自分で上がってくるという選択肢はないみたいだ。さすがだ、その考え方には賞賛にさえ値する。だから、降りてやろう。俺は十メートル以上もある高さから飛び降りて着地する。

「それで、お前は満足か?」

二度聞いてやった。だが、答えは帰ってこなかった。

「死ねやぁぁぁあ!伊坂ぁぁぁ!!」

代わりの答えは帰ってきたが…。剣道部主席なだけあってその動きとステップは軽やかで重い。凰我崎はとち狂ったように荒ぶってはいるが技は本物だった。ほんの数歩で伊坂来弥との距離を詰め、殺すために両手に握りしめた鉄パイプを振りかぶった。そして…。

「かはっ!?」

凰我崎の胴に正拳突きがはいった。剣道部主席とはいえ所詮は学生、その隙は大きすぎる。むしろ疑問に思った、これで剣道部主席なのか?いまの格闘技は基準が甘いんだな、と。いきなりの衝撃で腹を抑える。あまりの痛みに武器である鉄パイプを落とす。というより、崩れ落ちる。息ができないのだろう。なにせ、一瞬で肺を圧迫させて空気を全て強制的にださせたからな。

「はっ、はっ!っ〜!」

息するのでさえきついだろう。それほどの一撃をあの一瞬で放ったのだ。たかが正拳突きとはいえこれほど苦しむということは威力はもちろん半端なかったというのは容易に想像がつく。それに加えて当たった場所も悪かった。もちろん、伊坂来弥は狙って打った一撃だが…。

「所詮その程度の破壊か…」

失望した。あれだけの地位と名誉を捨ててまで自分を壊して周りをどれだけ壊すのかと思ったら、たった、それもこんなしょーもないことだけだとはな。やっぱり、こいつは自分中心のただの自己中野郎だ。殺気も薄い、実力もない、洞察力もない。俺からしてみればよくそんなんでいままでうまくやってこれたな、だ。慈悲なんてない、優しさはない。思いやりもない。俺は苦しんでいる凰我崎の腹に一撃、重たい蹴りをいれた。凰我崎は工場の壁にまで吹っ飛ばされ動かなくなった。

「あ、あんた、なんで…」

女が話しかけてきた。いや、女じゃなくて委員長の自称友人の粟生緋香里だったか?

「お前に関係あるか?」

その返答にイラッと来たのだろうが今はぐっとこらえてるみたいだ。

「そ、それよりも、助けなさいよ」

粟生は自分の手と足を顎でさして外すように言ってくる。

「じゃ、手と足を切断するか?」

「ちょ!?何怖い事言ってんのよ!」

俺は慌てふためく粟生の元に寄る。粟生は涙目でイヤイヤする。

「や、やめて!こないで!」

助けろと言ったり来るなと言ったりこいつは馬鹿か。俺は粟生につけられていた手錠と足枷を蹴りで壊す。

「きゃ!」

粟生が可愛らしく悲鳴を上げる。

「ほら、働け」

開放して第一声がこれ。

「あ、あんたケリであれ壊すって…」

粟生はただの蹴りであの頑丈そうな手錠と足枷が壊されたことにびっくりしていた。そんな粟生の気持ちも知らずに伊坂来弥は後ろで倒れている男に指を指す。そして、粟生に命令する。

「邪魔だ、持って帰れ」

「なっ!じゃ、邪魔ってなによ!?」

また、粟生はブチ切れたが今度は俺がど素人でもわかるほどの殺気を出して黙らす。

「消えろ」

「ぅ、な、なによ、さ、咲はどうするつもりよ」

「知るか、いいから五秒以内に消えろ」

粟生は苦い顔もするがもろにさっきを浴びて腰が引いている。危害は加えないと判断して粟生は岩ケ崎をなんとかおぶって廃工場の外に出ていった。

「残りはこいつだけか…」

俺はいろいろ無惨な姿になった委員長、明峰咲あけみねさきを見下ろす。耳栓もされていてさっきまでの会話も声も何一つとして聞き取れていないだろう。俺はその耳栓を外してタオルも外す。そして言う。

「言ったはずだ、俺に付きまとうなと」

「……」

タオルはとったから喋れるはずなんだが、明峰咲はしゃべらない。

「これでわかったか?自分の愚かさが」

沈黙、わかったのだろう、自分の危険性を。それを考えているのだろう。俺は明峰咲の拘束具を解く。



明峰咲は目が覚めたら真っ暗だった。ここはどこ?わからない、目の前が真っ暗で。目が覚めたらなにかアイマスクてきなものをつけられて全然前がみえないのだ。その上、口もタオルを噛まされてまともに声が出ない。それに、耳にも耳栓をされて音が聞こえない。怖い、なにもわからない。そうして、無限の暗闇の中にいると、唐突に服を引っ張りあげられるような感覚が走った…。これは、(服を破られてる!?)

感覚でわかった、誰かが私の肌に触れる。嫌だ、気持ち悪い。けど、手も足もなにかに縛り付けられてて自由に動かせない。抵抗むなしく、私は舐め回されるようにお腹を触られる。足を、太ももを。ゾクゾクとする感覚とともに嫌悪感が膨れ上がる。誰に触られてるのかもわからない。しばらくして、触られてる感触はなくなった。そうして、次に来た感触はまず耳栓を取られた、同じようにして口に噛まされていたタオルも取られた。そうして聞こえた声が、私のあの人の、私の一目惚れしたあの人の声だった。今まであった嫌悪感や不安がすべて飛んでいく。なぜか、安心しきってしまう。

「これでわかったか?自分の愚かさが」

だいたい把握してきた。私は誘拐されたのだ。そうして、なぜだかわからないけど彼が、伊坂君が助けに来てくれた。それだけは確実にわかる。アイマスクはまだとってもらえてないが手足の拘束が解かれた。そして、自分でアイマスクをとった。そこには私の大好きな人がそこにたっていた。だから、私は笑顔で言った。


「助けてくれてありがとう伊坂くん、その、私と付き合ってください!」



いきなり告られた。開放するやいなやこの女は俺に告白したのだ。俺が今まで言ってきたことを全部無視して。なんだこの女は、一体何がしたいのか検討がつかない。わかるのは、馬鹿ということだけだ。俺は明峰咲を冷めた目で見下す。見下されている彼女は表情を変えることなくニッコリとしていた。わけがわからん。この女は意味不明だ。普通とは思えない。俺が対応に困っていると後ろから嫌な気を感じて即効でその根源に近づき踏み付ける。そこにはどこからか凰我崎が銃を取り出していた。俺はそれを使わせる前に手を踏みつけて落とさせる。

「うぐぁ!」

凰我崎が呻くが容赦なくひねりながら踏みつぶす。そうして、凰我崎が落とした銃、ハンドガンM9を拾う。そして、グリップのエンブレムを見て目を見開く。そのグリップの真ん中の模様には数字の八を横にした記号、無限インフィニティ∞の紋章があったからだ。

「∞(インフィニティ)」

俺はこの中の紋様見て過去の記憶が蘇る。体が冷える、冷たく感じる。次第に体が麻痺していく。ついには立ってられないくらいに、そこで倒れた、はずなのだが、顔が何か柔らかいものに包まれている感覚がする。

「大丈夫?伊坂くん」

そこには明峰咲がいた。明峰咲がそのでかい胸で俺の頭を受け止めたのだ。でかいといっても所詮まだ高校生、爆乳とまではいかないが。それでも、良質なクッションよりも柔らかかった。俺は数秒で感覚を取り戻して明峰咲から離れる。

「お前は…」

「わかってるよ」

お前はわかってないと言おうとしたら遮られた。

「わかってるよ、だから、その、私を助けてくれないかな?」

そうして、はにかみながらもそんなことを言ってくる。こいつは精神が図太いのか馬鹿なのかよくわからん、やはり、人はわからん。だがこれだけはいえる。

「無理だ」

助けるということは守るという事だ。それは俺がとっくの昔に捨てた物だ。今の俺には守るものなんてない。だから破壊するのだ。みんなそれぞれ守るものを持って生きてる。家族であったりプライドであったり金であったりと、いろいろなものを守って生きてる、ようは守護者として生きてる。この女もそうだ。だが、じゃあ守るものをすべて失った者は?簡単だ守護の反対は破壊だ。破壊者だ。守護者は人だ、やるべき事が守るべきものがある。なら、破壊者は?人じゃない存在だ、人が守るべきものを壊すのが生きがいだからな。俺は今更何かを守る気にはならない、守るつもりもない。壊すだけだ。人のものを。それだけが、今の俺の生き方だ。そして、また一つ出来てしまった。絶対に壊さなければいけないものが。

「お前にかまってる時間なんてない、消えろ」

「嫌だ、私はあなたから離れないよ」

言葉だけ聞くと呪いの言葉みたいに聞こえるが、明峰咲は強い瞳でまっすぐとこちらを見ていた。俺はその瞳を見つめ返した。やはり、こいつはわからん。だが、もう会うことはないだろう。これから学校に戻るつもりは無いからな。俺は学校のブレザーを脱いであられもない姿をしている女、明峰咲に被せる。そうして一瞬、死角をつくり明峰咲の前から消える。


私は急に伊坂くんからブレザーを頭から被らされてびっくりする。伊坂くんはとても酷いことを言う、けれど、それにはなにか理由があるんじゃないかと思う。私はそれを知る必要がある。だって、好きになってしまったんだもん。伊坂くんのことが。ずっと、彼のそばにいたい、そう思った。一目惚れでここまで来るのは変?恋は盲目?それはいまさらなことだよ。恋は盲目、それは目の前の魅了に騙されるから起こる事象だ、一目惚れとは正しくそのことだろうね。けどね、必要なのはそれがどこまで本気かということだよ。私は好き、伊坂くんのことが本気で好き。私は伊坂くんを愛せれる、同時に彼から愛されたい。恋は歪で曲がったもの、それなら、この恋は完璧な恋なんじゃないかな?



池袋の廃工場、殺人事件は伊坂来弥の喜劇により幕を閉じた。凰我崎は少年院へ行くことになり、岩ケ崎は全治五ヶ月だと。明峰咲はあられもない姿、といっても男性用のブレザーを羽織っていたが、それでもあられもない格好なのに変わりはないためすぐに警察が保護した。そして、粟生緋香里は心的ストレス障害(PDST)の検査を受けた。多少、脳に異常が見られたが生活に支障はないようだ。あれから数日が経ったが、あの事件以来、伊坂来弥が学校に来ることは無かった。明峰咲は休みが増えた。それぞれがそれぞれ動きだした。高校生二年とは青春時代真っ盛りな時期であろうこの時は、それぞれ、少年と少女は歪んだ思想と恋を求めて動きだした。結末は最悪の喜劇か、最高の悲劇か、はたまた死地の狂劇なのか、ハッピーエンドか、バッドエンドか、はたまた、デッドエンドか、この結末を知るものは現時点で誰もいない。未来をしれないからだ。だからこそ、みんな自分の信じる道を突き進む、守り壊す、ただそれだけのために。



東京タワーの天辺の鉄骨に座り夜の東京を眺める。光のイルミネーションとでもいえばいいか、眩しい。綺麗?いや、汚い。どの光も汚れている。綺麗な光を見つける方が苦労する。俺も昔は綺麗だったんだろう。でも、早い段階で俺の光はなくなった。俺は俺の光を亡くした奴らを許さない。∞(インフィニティ)。必ず俺の手で屠る。全てを。

「安心しろ、すぐに全てを壊しに行ってやる」

伊坂来弥はできつつあった人の革を迷うことなくこの闇の中に放り捨てた。

読んでくださってる皆様方、ありがとうございます!最弱剣士のあとがきを見てきてくださってきた方はもうほんとに感謝感激です、我涙が出るぞ?それでここから最弱剣士に飛んでくれた方もありがとうございます!流れはこんな感じでまだ序章にしかすぎませんが頑張って書くから応援してくれる方ありがとうございます、ではまた人間ども!いつになるかわからないがまたな!

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