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インキュバスと神父 4

推敲したくないよ~

なんで俺の文章はこんなに読みにくいんだよ~


あれか! ラジオ聞きながら書いてるのがいけないのか!

 時は、拓巳が宿を抜け出した頃にさかのぼる。


「ワタユキ、拓巳がどこに行ったか知らないか?」

「いえ? ……隣の部屋にいなかったんですか?」


 宿の一室。

 ワタユキが部屋の中で就寝の支度をしていると、部屋の中に困り顔のエリスが入ってきた。さきほど「ちょっと気になることがある」と言って拓巳の部屋へと向かったはずなのだが、どうやらとんぼ返りしてきたらしい。


「さっきノックしたんだが、返事がなくてな。一応確認を取って部屋の中に入ったんだが、姿が見当たらないんだ」

「………もしかして、娼館に?」


 こんな時間に出歩く用事などそれくらいしか思いつかない。バイコーンの件もあるし、童貞を気にしていた拓巳が娼館に行っているというのは十分あり得る話だ。


「これだから男の人は……」


 すっと目を細めて冷たい表情になるワタユキだったが、ワタユキの推測はエリスが心配していることとは違ったようで、エリスは苦笑いを浮かべる。


「娼館か……それならまだいい。わたしが心配しているのは別のことだ」

「別のこと?」

「さっきの夕飯のとき。わたしが拓巳にしていた話を覚えているか?」

「いえ。食べるのに夢中だったのでさっぱり」


 ワタユキがきょとんとした顔で答えると、エリスは呆れたような表情を見せた。しかしツッコんでも益がない判断したのだろう、ワタユキの発言をスルーして話し始める。


「……まあいい。わたしはあのとき、拓巳にルーシア教のことについて教えていたんだが…その時の拓巳の様子が変だったんだ。話せば話すほど顔が真剣になって、時折考え込むような仕草をしていて…なにか悩んでいるようだった。もしかしたら、依頼のことで何かに気付いたのかもしれない」


 そこでエリスはいったん言葉を止めると、小さくため息をついて話をつづけた。


「……もし拓巳がインキュバスについて何か手がかりを得たとしても、あいつは一人で抱え込もうとするだろう。拓巳は勝手にわたしたちに負い目を感じているんだ。おおかた『パーティの中で一番弱い自分が一番頑張らないと』などと考えているのだろうな」

「あー……確かにそんな感じはありますね」


 どこか他人事のように同意するワタユキ。エリスはそんなワタユキをジト目で見ながら言う。


「…お前が拓巳を役立たずだのなんだのと煽るのも、あいつのあの性格の原因のひとつになっているんだぞ? 気付いているのか?」

「拓巳さんは、黙ってたら罪悪感をため込むタイプの人ですよ。こういうのは適度にからかって発散させてあげたほうがいいんです」


 エリスの責めるような視線を飄々と受け流したワタユキは、なにやらごそごそと荷物を漁り始めた。取り出したのは外出用の着物。着ている寝間着を脱いで着物に着替えながら、ワタユキは言う。


「要は、エリスさんは拓巳さんが独断専行してないか心配なんでしょう?」

「ああ」

「なら悩んでないで、探しに行きましょうよ」


 幸い、行き先の目星は教会くらいしかないんですから。

 ワタユキはそう言って、自信ありげに笑った。




「ここが教会ですか?」

「そのはずだ。……わたしも来たことがないから自信はないが」


 宿を出たエリスとワタユキは、拓巳がいるであろう教会へとやってきていた。扉を開けて、聖堂の中へと足を踏み入れる二人。聖堂の中はろうそくのぼんやりとした灯りに照らされてはいたが、薄暗く不気味な雰囲気だ。

 誰かいないのかとあたりを見回す二人だったが、教会の中に人の姿はない。

 と、思ったのだが、奥の方に一人だけ。ろうそくの明かりも届かないような場所に、うっすらと小さな人影が見えた。


「ええええエリスさん! あれ! あれ見てくださいよ、絶対幽霊ですって!」

「なんでそんなに怖がってるんだ、わたしたちも似たようなものだろうに。……ってワタユキ、わたしにくっつくな。寒いだろうが」


 怯えたように縋り付いてくるワタユキを鬱陶しそうにエリスが引きはがす。

 そんな風に騒ぎ立てる二人の声に向こうも気が付いたのだろう、ゆっくりとろうそくの明かりの下へと人影がやって来る。

 人影は、幼い少女だった。足はついているから、少なくとも幽霊ではないだろう。エリスとワタユキの姿を見るや否やびくっと怯え、長椅子の陰に隠れたかと思うと、時折顔をのぞかせてこちらをちらちらと観察している。


「あの子、どうしたんでしょう?」

「おそらく、拓巳が昼間言っていた孤児院の子だろうな」


 拓巳から、この教会に孤児院があることを聞いていたエリスは、少女の正体に検討を付ける。


「私たちは怪しいものじゃない! この教会に知り合いを探しに来たんだ! 君はここの孤児院の子か?」


 エリスが少女に聞こえるようにそう叫ぶと、少女はおっかなびっくりな様子で姿を現し、エリス達の方へと近寄ってきた。


「私はエリス。こっちはワタユキと言う。君は―――」

「ミナ」

「そうか。ミナと言うのか」


 エリスはかすかに笑うと、優し気に少女の頭をなでる。髪の毛をわしゃわしゃとされて戸惑った様子のミナだったが、しばらく撫でられていると安心したのかくすぐったそうにはにかんだ。


「神父様はおられるか? ここに私たちの知り合いが来ているか聞きたいんだ」


 エリスに尋ねられたミナは悲し気な顔をして俯く。


「…? どうしたんだ?」

「神父さまがいないの」

「神父が……?」

「うん。喉がかわいちゃったから、神父さまにお水をもらおうとおもったんだけど、神父さまのお部屋にいったら変な黒い服の人がでてきて………こわかったけど、お部屋のなかに神父さまがいなかったから、神父さまがいなくなっちゃうのはいやだっただから、頑張って黒い服の人をおいかけてきたんだよ」

「ッ! ……そうか。怖かったのに偉いな」


 幼い少女にとって、夜中の教会というのは酷く恐ろしいものだろう。

 エリスがミナを褒めながら再び頭をなでると、ミナは嬉しそうに笑った。エリスはミナの頭をなでながら真剣な顔をワタユキに向ける。


「……ワタユキ」

「はい。その黒い服の人というのはおそらく……」


 ―――インキュバス。

 ミナの手前、口には出さなかったが、エリスとワタユキはほぼ確信したように頷き合う。このタイミングでこの教会にいる怪しい奴と言えば、インキュバス以外に心当たりはない。

 目当ての拓巳は見つからなかったが、代わりにもっと大物を見つけた。インキュバスを捕まえてしまえば、そもそも拓巳を心配する理由がなくなるのだから、エリスとしては万々歳だ。


「でもなんでミナちゃんは神父さんがいなくなっちゃうって思ったんですか? 黒い服の人は、別に神父さんを連れ去ったわけでもないんでしょう?」


 ワタユキが尋ねると、ミナがぶんぶんと首を横に振る。


「ううん。違うの。あの人、神父さまを連れて行っちゃったの」

「…? どういうことです?」

「だって、大きな袋を抱えていたもの」


 ミナが言うことには、黒い服の男は大人一人がすっぽり入るほどの大きな麻袋を肩に担いでいたらしい。ミナはその麻袋に神父が入れられていると思ったのだという。


「ミナ、そいつがどこに行ったか分かるか?」

「…あっち」


 そう言ってミナが指さしたのは聖堂の右奥。懺悔室だった。

 懺悔室とは、教徒が神に自らの罪を懺悔するための部屋だ。中は密室になっていて、教徒が罪を告白しやすいよう、入った人間が一人きりになれる場所として設計されている。出入り口は扉一つだけなので、もしその黒い服の不審者があの部屋に入ったのだとすれば、そいつは今も部屋の中にいるはずである。


 懺悔室の扉の前で、エリスはごくりと生唾を飲み込む。

 もしかしたら、この先にインキュバスがいるかもしれない。しかもミナの話が本当であれば、神父がそのインキュバスに連れ去られているのだ。

 ワタユキと視線を交わし、了承を得たエリスは緊張しながら懺悔室の扉を開く。


 扉を開けると、そこには何の変哲もない普通の懺悔室があった。

 怪しい黒服の影はない。

 懺悔室は元来何もない部屋なので、隠れられるような場所もないだろう。


「あれ……? 誰もいませんね……?」


 ミナを守るようにして立っていたワタユキも、懺悔室をのぞき込みながらほっとしたようにため息をつく。


「ミナちゃん、その怪しい奴は本当にここに入っていたんですか? 何かの見間違いだったんじゃ?」

「そんなことないもん! ホントに見たんだもん!」


 涙目で必死に訴えるミナは、嘘を付いているようには見えなかった。

 と、そこで部屋の中に入って何やら調べてたらしいエリスが、何かに気付いたように足元を見る。


「………この床。何か変だ」

「床、ですか?」

「ああ。正確にはこの一枚のタイルの下だ。ここだけ、下が空洞になっている」


 とんとんと足元を踏み鳴らしながら、エリスが言う。

 普通なら気が付かないほどにうまく偽装がなされている。しかし、エリスはデュラハンだ。デュラハンは視覚とは別に、独特の超感覚を持っている。その感覚が、エリスにかすかな違和感を伝えていた。


「……やはり確定だな。この下に隠し扉があるぞ。 ………くそ、開かないな」


 エリスはしゃがみこんでどうにか床を外そうと力を込めてみる。しかしタイルは一向に動きそうになかった。おそらくこの扉を開けるためのスイッチか何かがあるのだろう。


「エリスさんの力でも開かないとなると、何か仕掛けがあるんでしょうね」

「そうだな。もう少しこの部屋を調べて―――ッ!」


 そこで突然、ワタユキと話していたエリスの顔色が変わった。ばっと床に伏せ、床に耳を当てて下の音を聞こうと耳を澄ます。

 エリスの雰囲気が変わったことに驚いたワタユキが尋ねると、エリスは真剣な顔で答えた。


「ど、どうしたんですか?」

「拓巳の声だ。下から聞こえる」

「――ッ! 拓巳さんの!?」


 聞いたワタユキも驚きで目を丸くする。


「どうして拓巳さんが!?」

「そんなこと今はどうでもいい。どうやらこの下は少し不味い状況らしいな」


 刹那、考えるようなそぶりをしたエリスは納得したように小さくうなずくと、背中から大剣を引き抜いた。そして確かめるように足元をとんとんと踏み鳴らす。


「よし、この厚さならいけるな。二人とも離れてろ」

「え、ちょ、エリスさ―――」


 エリスが何をしようとしているのか気付いたワタユキは、慌ててエリスを止めようとした。しかしワタユキの制止もむなしく、エリスの振り上げた大剣の腹が、勢いよく床に打ちつけられた。


 響く爆発音と舞う土埃。


「エリスさんのばかぁ!!」


 無防備なミナをかばいながら、ワタユキが叫ぶ。瞬時に氷で盾を作ったおかげで無事だったが、そうでなければ飛んできた瓦礫で、ワタユキはともかくミナは大怪我を負っていたことだろう。


「もうちょっと周りの迷惑ってものを考えてくださいッ!」

「すまない。でもほら」


 エリスの指し示す先には、地下へと続く階段があった。普段は床下に隠されているのであろうが、今はその床の中心に巨大な穴が開け放たれている。

 エリスは床を強引に大剣でぶち抜いたのだ。


「行くぞワタユキ」

「え、ちょっと待ってくださいよ!」


 唖然とするワタユキをよそに、エリスは地下への階段を駆け下りていく。

 ワタユキはミナに「ここに居て。絶対降りてきちゃダメですよ」と言い含めたあと、慌ててエリスのあとを追った。


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