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デュラハンは鎧にうるさい 1

初めまして。あれくすと申します。

小説のしの字も知らない人間が勢いに任せて書く駄文ですが、もし楽しんでいただけたなら感謝感激雨霰です。

「うわああああああああ、誰か助けてくれええええええええええ」



 叫び声を上げながら、少年は走っていた。


 森の中の道なき道を、地面に張った根に足を取られないように、それでいて全速力で。

 服装は森の中には似合わない学生服。学ランの第一ボタンをはずしているせいか、隙間からは黄色のTシャツがはみ出してしまっている。

 中肉中背で黒髪、どこにでもいるようなその少年は、走りながらもしきりに後ろを気にしていた。


「ぶるるるるっ!」


 彼の視線を追ってみると、そこには額から二本の角が生えた栗毛の馬が。木々にぶつかりながら少年を追いかけてきている。

 その目は馬本来の草食動物としての穏和な目ではなく、完全に捕食者の持つ目であった。少年を食らうべく、目をぎらつかせて森の中を風のように駆けている。


「なんなんだよ、ここは一体どこなんだよっ! つーか、角が二本生えた馬ってなんなんだよ! 俺は日本にいたはずだぞ!」

 

 馬から逃げながら叫ぶこの少年は、名を園田拓巳という。


 本人の言う通り、つい先ほどまで拓巳は日本にいた。日本でごくふつうの高校生だった拓巳は、今日もきっちりと授業をこなして帰宅するために電車に乗った。

 そこまではよくある普通の日常だった。

 しかしそこで、前日に夜遅くまでゲームをしていたせいか、急激な眠気に襲われた拓巳は電車の中でつい居眠りをしてしまう。


 しばらくして拓巳が目を覚ますと、そこは見たこともない森の中だった。訳も分からずあたりを彷徨っていた拓巳だったが、そこで二本の角が生えた馬に遭遇する。

 二本の角が生えた馬など、日本中、いや世界中探したとしても存在するはずがない。少なくとも拓巳は見たことも聞いたことも無かった。

 明らかに普通ではないその状況に拓巳が困惑していると、その珍妙な馬は拓巳に気付いたようでスッと拓巳の方へと目を向ける。


 そして驚いたことに、その馬はまるで肉食動物のように雄たけびを上げて拓巳に襲い掛かってきたのだ。


 慌てて踵を返す拓巳。馬に背を向けて一生懸命に走るが、その馬はなおもしつこく拓巳を追ってきた。結局逃げ切ることも出来ずに、拓巳はそのまま追われる形となってしまった。


 そうして現在に至るというわけなのだが………


「訳わかんねぇ! 寝て起きたら見知らぬ森の中! しかも角生えた馬に襲われるとか訳わかんねぇ!」


 拓巳は叫びながら、木々が障害物になるように調整しつつ馬から逃げる。しかし、いくら木を障害物にしても、人間と馬では走る速度が違いすぎる。馬の圧倒的なスピードから、一介の高校生が逃げ切れるわけもなく。


「もうダメだぁああああ」


 馬との距離は残り3メートルもなくなっていた。これはもう駄目だろうか、と半ばあきらめかけた拓巳だったが、ふとそのとき、木々の隙間に白銀に光る鎧らしきものを視認する。


 鎧を着た人物も拓巳の方に気がついたのか、こちらに近づいてくる。その人物の全貌を見た拓巳は驚きで目を丸くする。


 それは白銀の騎士だった。白く輝く鎧を全身にまとい、身長ほどもありそうな両手剣を構えて拓巳の方へ走り寄ってくる。


「伏せろ!」


 意外にも女性的なその声に従って拓巳はその場に伏せる。するとその頭上ギリギリを両手剣が通り抜け、拓巳の背後にいた二角の馬を斬りとばす。


 吹き飛ばされた二角の馬は木に激突し、そのまま動かなくなってしまった。あの勢いで木にぶつかったのだ、おそらく死んだのであろう。


「大丈夫か?」


 未だ伏せたままでいる拓巳に、騎士が心配したように問いかける。


「ありがとうございます、助かりました…」


震える足で立ち上がりながら、拓巳は騎士にお礼を言った。


「その……災難だったな、バイコーンに襲われるとは」


 騎士がフルフェイスを外しながら、拓巳に言葉をかける。しかし拓巳の耳にその言葉は届かなかった。フルフェイスの下の騎士の素顔に、拓巳の意識がすべて持っていかれたからだ。

 

 零れ落ちる絹糸のような美しい金髪。大きな青い目に、整った顔立ち。シミひとつない真っ白な肌。年は16歳の拓巳と同い年ほどに見える。フルフェイスの中から出てきたのは、拓巳が今まで見たことがないような美少女だった。


 しばらく惚けていた拓巳だったが、騎士の少女の頬が心なしか紅潮しているのに気づいて、あわてて意識を引き戻す。

 そういえば何の話をしてたかな、と考え拓巳は少女があの二角の馬をバイコーンと呼んでいたことを思い出す。


「バイコーン…?」

「バイコーンを知らないのか?」


 そこで何と無く違和感を感じる拓巳。目の前の少女の顔がまだ赤い。さっきは見つめ過ぎたせいで頬を赤らめているとおもっていたが、どうやらこのバイコーンの話の方に彼女が頬を赤らめる原因があるようだ。

 疑問顔の拓巳を見て察したのだろう、騎士の少女は目を逸らしながら理由を話し出す。


「バイコーンはだな……その…経験がない男性を好んで襲うから、な」

「経験? 戦闘経験がないのが襲われた原因だったんですか?」

「そうじゃなくてだな…バイコーンは、その…性行為の経験がない男性を襲うのだ」


 そこまで言って、騎士の少女の顔がりんごのように真っ赤になる。


「? ……っ!?」


 言葉の意味を理解した拓巳も少女と同じように顔を赤くして俯く。

 つまり、バイコーンに襲われるというのは、童貞を公言していることになるらしい。童貞を好んで襲うとはどこの痴女だ、と拓巳は叫びたくなるが、目の前の少女のことも考えてぐっとその思いを飲み込む。


 しかし、これで少女が顔を赤くしていた理由が分かった。確かに初対面の人間、それも異性と童貞非童貞の話をするのは恥ずかしいに違いない。

 拓巳としても理解はできる。しかし自分の性行為の経験が暴露されるのには納得がいかなかった。


 初対面の人、しかも美少女に童貞がばれたのだ。拓巳は恥ずかしさで全身が火にあぶられたように熱くなるのを感じる。


「ま、まあ、経験がないというのは恥じることではないと思う。むしろ好印象だよ、うん」


 騎士の少女が必死でフォローをするが、拓巳にとっては逆効果だ。さらに頬を赤くさせて顔を伏せる。穴があったら入りたい、とはまさに今の拓巳の心境そのものだろう。

 騎士の少女の方もどうしたらいいのか分からないようで、手をわたわたとさせて慌てる。


 そのとき、


「あっ」 ボトッ


 慌てるような少女の声に続いて、何か重いものが落ちたような音が聞こえた。気になった拓巳は背けていた顔を少女の方へ戻す―――




 するとそこには、さっきまであったはずの少女の頭、首から上がなくなっていた。




「ヒッ!」



 先ほどまで話していた人の頭が気付いたらなくなっていた。普通の高校生たる拓巳にそんなホラーな体験をしたことがあるはずもなく、思わず叫び声を上げそうになる。

 そんな拓巳に、不意に下から声がかかる。


「おーい、こっちだこっち」


 イッタイ ダレノ コエダ ?

 心なしか、さっきまで話していた少女の声に酷似しているんだが。


 頭の中で膨らんでいく恐怖を必死に押し殺し。

 錆びたロボットのような動きでギギギっと拓巳が下を向くと、そこには





 少女の生首が地面に転がっていた。





「ぎゃああああああああああああああああああああ」




 耐えきれなくなった拓巳は悲鳴をあげ、気絶しながら仰向けに倒れてしまうのだった。



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