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麻雀小説――その一打(オーラス)――

作者: 酒呑みの僕

14.12.05 推敲

 『おっさん』は、もうフィルターまで焦げそうになってる煙草をもう一回吸い込んで、あくび混じりにはーっと吐き出しながら

「リーチ。」そう言って、五筒を曲げた。

 僕は雀荘に満ちる煙草の煙だけじゃない熱気と馬鹿げた威勢に酔っぱらったみたいになっていた。おっさんは僕の対面で西家だ。


「うーむ……」北家の『メガネ』が、ツモった牌を握って長考している。その間に、僕はぐらぐらと煮詰まっているオーラスでリーチをかけたおっさんの捨て牌を確認した。


(西家のおっさんの捨て牌)

三筒 (五萬 南家の『猪首』がポン) 六萬 八筒 一萬 九萬 九索 東 五萬 五筒(リーチ牌)


メガネ(北家)の捨て牌。


西 二筒 九筒 一萬 一萬 九萬 九索 東 


 南家の猪首は、鼻息もあらく場を見つめている。その捨て牌と鳴牌は、


北 一萬 (ポン) 九萬 九索 東 九索 二筒 (白僕がポン) 白

(晒している手牌 五萬 五萬 五萬)


 僕(東家)の捨て牌は、

發 中 六筒 一筒 八萬 西 西 二筒 九筒 (白ポン)一萬

(晒している牌 白 白 白)


であった。猪首が鳴いた『五萬』はドラである。


 状況は、南四局。ゼロ本場。僕が31000点で僅差のトップである。その次にメガネが2200点差で二位、そのあとは9000点差で猪首が三位、12800点差でおっさんがラスであった。


 おっさんの手は暗刻か対子か。出ていない字牌や、出やすいヤオチュウ牌が危ないか。あとは筋引っかけか。

 

 このリーチ棒を巡ってそれぞれの思惑が交差する。メガネは2600点以上を出上がるか、2000点以上ツモればトップだ。猪首はタンヤオドラ三を上がればトップ。ロンでもツモでもいい。他からの出上がりでも二位だ。プラス五のウマの分プラスになる。トップのウマはプラス十五だ。


 問題はおっさんだ。僕以外からのロン上がりなら、マンガンをあがっても三位。僕からマンガン直ロンしたら二位にはなるが、全員が原点(30000点)未満になるから西入してしまう。跳マンロンかツモでやっとトップになれるが、やっぱり西入になってしまう。そうか。それが狙いか。おっさんのリーチは、2600点以上をツモるか、1300点以上をロン上がりしての西入を狙っているのだ。


 おっさんは、僕以外のロン牌は見逃すつもりだろう。狙いは西入だ。そして、メガネは何を悩んでいるのか。恐らく南家のドラ三であろう。猪首は僕に白を鳴かせてから、ずっとツモ切りだ。手出しの二筒のそばが怪しい。または筒子の五八の筋か。いまメガネの手にあるのは三筒、四筒あたりか。もちろん、その牌はおっさんにも危なくはある。


「!!」気合を込めてメガネが切った、『三筒』を猪首が

「ポン!!」と、晒して安牌の『六萬』を切った。


 これで、猪首の晒した牌は、

(五萬 五萬 五萬)(三筒 三筒 三筒)となった。

 

待ちはおそらくシャンポン待ちであろう。七萬、八萬が本命として、対抗として役牌の待ちもあり得る。もしトイトイが出来ていて、タンヤオか役牌で上がれば跳ねてしまう。そうなれば、猪首の逆転トップだ。これはなんとしても避けなければならない。


 その時の僕の手牌は、

三萬 四萬 五萬 六萬 八萬 一索 二索 三索 九筒 九筒 九筒 (白 白 白)


であった。そこへ持ってきた僕のツモ牌は、『八萬』である。ノータイムで『九筒』切り。喧嘩する義理はない。打ち合いを待つ一手だ。


 猪首はツモった牌を手の中へいれて、打『六筒』。おっさんがツモる。

「うーん。やっぱりなぁ……」唸った。そして『五筒』を力なくツモ切りしたのを見て、


「「ロン。」」猪首とメガネが手を開いた。

 

メガネの手。

六筒 七筒 一索 一索 一索 三索 四索 五索 七索 七索 南 南 南 


猪首の手。

(五萬 五萬 五萬)(三筒 三筒 三筒) 二萬 二萬 五筒 五筒 七筒 七筒 七筒 


 おっさんは、メガネに1800点、猪首に12500点を支払い、ラスのままその局を終わった。猪首が逆転トップとなり、僕はプラス6の二位になってしまった。


 その時、おっさんは、手を崩してしまったが、恐らく

……五筒 五筒 六筒……役牌 役牌 などの形からの『五筒』切りリーチだっただろう。字牌は南以外いずれも場に一枚以上入れていた。無難な決断ではあったが、結果は裏目に出てしまった。


 リーチの際に、おっさんがなにがしかの勘を信じて『六筒』を切っていたなら、その後ツモ上がりして西入していた。その後の展開は分からないが、少なくともまだ足掻けた。

 もちろん、たらればを語る愚かさは承知の上だが、何かそこにおっさんの生き方が凝縮しているような哀しみを感じてしまった。


 麻雀をしていると、このような場面に少なからず出会う。そこの流れに上手く乗るもの、乗り損なうもの。悲喜こもごもの選択こそが、このゲームの醍醐味であろうか。そして、人生もまた。



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