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Dear.

作者: レイ


お久しぶりですね。




私達があの白い校舎を卒業してから10年経ちましたね。ついこないだまであの紺色の制服を着ていた気がします。

でも確かに時は進んでいて私たちは25歳になりました。

あの白い校舎は今はもうなく、あと地にはマンションが建っているそうです。 あの体育館の後ろに書いた落書きも集まってボードゲームをして遊んだ部室も何も残ってないのはやっぱり少し寂しいです。まだみんなで埋めたタイムカプセルはうまっているでしょうか…どうでしょうかね。

そういえば、あやちゃんの子供は5歳になったそうです。あやちゃんのこと覚えていますか?ミドリのことだから忘れているかもしれません……右ほほにえくぼができる子ですよ。ちょっとおっちょこちょいで料理のうまい彼女です。家庭的な子でしたからきっといいお母さんになのでしょうね。子供もふりふりのスカートを着てあやちゃんに似てかわいかったですよ。でも、そのスカートにつまずいてすってんころりんしてました。なんか昔を思い出して笑っちゃいました。

あと、下田君は、素敵なお嫁さんを見つけました。

明るくてよく笑う人でした。下田君には、いい家庭を築いてほしいものです






私もシルバーアクセサリーのデザイナーとして、やっとスタート地点に立てた気がします。母と子の2人家族なのでしっかりしないと、


ミドリの方はどうですか?


楽しくやっていますか?不安です。




そういえば私がミドリを心配することなんてありませんでしたね。いつも私がされる方でしたから。社会にでて初めてのときはいろいろ手を借りたりみんなにお世話になったりうろうろしていたけど





でも、


もう大丈夫です。





心配しないでください。




あなたがいなくなって、


少しさびしいですけど今は、一歳になるこのおなかを痛めて生んだ子…ケンタがいて、幸せです。






今思うと本当にみんなから心配されてばっかりです。なんかずるいです。…でも心配って心が痛いんですよね。

私も、あの時は‘どうしようと’不安になりました



あの時?あなたも覚えているでしょう。

3年生になって最後の学園祭のことです。

クラスで劇をすることになり ハムレットをやったときです。


私は小道具つくり。紫のネックレス、水色のブレスレット、真っ黒いブーツ、たくさんの道具、夏の暑い日毎日みんな学校に来てつくりましたね。

しかし、本番前日、ハプニングが起きてしまいました。

相川君が金色の王様の冠をふんで壊してしまったのです。

おとなしくて優しい相川君がわざと そんな事をするはずがありません。でも、冠は悪い叔父の誇り、劇になくてはならないものです。相川君の注意力がなかったのもあるかもしれませんが、そんな大切なものを床に置いた人のせいでもあったし、それを気付かずに放っておいた私達のせいでもあります。

それでもみんな相川君を責めずにはいられませんでした。私も今と変わらずうろうろしていました。苦いです。



冠は大きく歪んで元の神々しさもなくなってしまいました。




『アンタのせいでしょ。責任とりなさいよ』



みんな前日で気が建っていたのです。

その一言であっという間にその嫌な空気が教室にじわっと広がりました。でも、あなたはその空気の中で相川君を責めずに一人歪んでしまった王様の冠を持ち、落ちているビーズを集めて一生懸命、直していました。

人に比べて、小さい手で不器用にしているあなたの後ろ姿を後ろから見ていました。





『ほら、直ったよ』




あなたがそう言って相川君に渡した王様の冠は少し歪んでいたけれども、


それでも、ドヤ顔…っていうんですよね?どうだ、と渡すかんむりが私には前よりも輝いて見えました。きれいに見えました。


みんなもミドリの姿に直ってよかったのか、ばからしくなったのか、みんなも笑いましたね。少しぎくしゃくが残りましたけど、もともと仲が良いクラスです。そのうちまた元通りに。



あ、私がそれにあこがれてアクセサリーデザイナーになったということは,はじめていうことでしたっけ?



ミドリはハムレットの恋人、オフィーリアでした。とても嫌がっていましたけど、かわいかったですよ




『Show me the steep and thorny way to heaven』




舞台袖からスポットライトに当たって力つよくいうあなたはまぶしかったです。


クラスの一番のハンサム男の井伊木君とのキスシーンはみてられませんでしたけども・・・。

クラスのみんなもキャーとかいって、見ていられなかったとも思いますけど………。ホントはやってないんですよね…?

あなたが親友でほこらしいなと思ったときでもあります。







懐かしいですね

この前初めての同窓会がありました。

ハンサム男の井伊木君はお仕事がいそがしいのでしょうかきませんでしたよ。

でも、彼のことだからテレビで俳優として見れると思います。


相変わらずかっこいいです。



私は…みんなの懐かしい声や顔で泣いてしまいました。

本当についこないだまで、あの白い校舎で遊んでいたはずなのに………

どうしてかな。





とても、とても遠いです。






みんな優しいんですよね。あ、ごめんなさい涙がこぼれてしまいました。

遠い、遠く感じる理由なんて、本当はわかっているんですよ。


たった一つだけ、たった1つだけ、あの時と違うからです。










“ミドリが死んでしまったから”










どうしてですか?



どうしてですか?



どうしてあなたが?





学園祭の後、男の子としてのあなたが好きになって、告白して、結婚して、私が妊娠して

うれしくて、うれしかったのに


あなたもとても喜んでいたはずなのに。




どうしてですか。




雨の日、トラック、ブレーキがきかず歩道に、

子供の誕生にいそぐあなた、





トラックの正面、一瞬の間…………………………。



子供の誕生日にお通夜って何の冗談ですか。


あなたは。







男の子ならいっしょにキャッチボールをするんだって笑顔っていっていたじゃないですか


女の子はならいっしょに料理を作ってみたいと夢をかたっていたじゃないですか。



3人で川の字に寝たいって言っていたじゃないですか



どうして…

どうしてあなたが…






視界がかすむ。



目から雫が落ちて 石の上にシミとなる

じわっとあついこの夏の日差しはすぐに蒸発させるだろう。



目の前にたっている墓石をみる。この中で随分とちっちゃくなったあなたを見る。立川ミドリと深い文字でくっきりとかかれた名前のあるその墓石の中を。

あぁ、やっぱりもうあなたが帰ってくることはないんだな。何度見ても何年たってもつい忘れてしまうその事実。



まだまだ駄目ですね、私も。蒼く明るい昼が終わり赤い夜が…日暮らしがカナカナと鳴きはじめる。







お線香をたき、ろうそくに火をともす。こんな暑い日ではすぐに火は消えて蝋は溶けて曲がる。それでも…。







「次はケンタもつれてきますよ」







私たちの子………ケンタには幸せになってほしい。

彼を応援してあげてくださいねと手を合わせる。




お線香の煙がふわっとよこにゆれた。








                終わり



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