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“花嫁”
それは、なんて甘美な響きだろうか。
彼のモノ達の花嫁となれば、世の娘達は挙って己が身を差し出した。
それを憫笑している者の存在を知らないまま。
しかし、彼等の花嫁となるには稀有にも紡ぎ重なった運命が必要だった。
その運命を持って生まれて初めて、彼等は自身の花嫁に寵を注ぐのだ。
だが、本来それは人の世の者が持つものではなく、また彼等を欺くことは万一にも出来はしない。
何故ならば、選ばれた者には所有を主張する様に、胸元に痣が現れるからである。
それは一般的に“聖痕”と呼ばれ、世界に二つと無い唯一無二の徴。
聖痕は彼等にとって、想いの結晶だ。
人間を伴侶に選ぶ場合、まだ母の胎にいる胎児を見初め、その存在に誓約を捧げることで両者の婚約が成立する。
彼等はとても愛情深く、一途な生き物。
胎児であった人間が十八の成人の日を迎え、聖痕がその真価を発揮するとき、彼等は生涯で唯一の伴侶に頭を垂れる。
そして、彼等は十八年ごしの片恋を終えるのだ。
彼等は“竜”
このアポカリプス大陸を守護せし、気高き守り神。
彼等は望む。尊き、己だけの花嫁を。