プラトニックの終わり
「どうして、今まで思いつかなかったのかしら」
夢見るように笑う。
そんな零を、普段の和斗なら眩しいくらい愛おしく感じただろう。
零が笑っているだけで、和斗も笑うことができる。二人して笑い合っていられる時間が、和斗にとってはなによりの宝物だ。
なのに今は、満面の笑みを浮かべた零に迫られ「悪夢のようだ」と感じている。
プペから手に入れたTSパッチを使った零に、押し倒されているからだ。
「女同士も悪くないけど、こっちの方が和斗は気持ちいいわよね?」
「俺の意見を聞く気があるなら今すぐやめてほしんだけど…」
特に行動を制限されてはいないが、零にはめっぽう弱い和斗だ。下手に暴れて痛い思いをさせたら…と、考えるだけで自分の体一つ自由にできない。
大人しく押し倒された和斗の上で、押し倒した零は喜色満面。
「藤が、こういう時の『いや』は『もっと』と同じ意味だって」
(あの若作りほんとろくなこと言わないな…)
和斗は今日ほど藤の弐に同情したことがない。
「プペも応援してくれたから、私、頑張るわ」
「あの人はドォルのやることならなんだっていいんだよ…」
「大丈夫」
零の顔にはその自信ほどがよく表れていた。
「和斗が本当に嫌なら、私、わかるわ」
それは和斗の「嫌」が零に対する「嫌い」に達した時の話。
愛を喰らう《ナンバーズ》だからこそ、所有者から向けられる拒絶には聡い。
零に対する好意が処女膜を破られたくらいでどうにかなるほど薄っぺらくもない時点で、和斗は詰んでいる。
和斗に愛されているという自負が、零に行為を躊躇わせない。
「だから私に愛させて」
そんな風に言われ、降ってくる唇を拒める道理もなかった。
「零…」
一度受け入れてしまえば、あとはもう、されるがまま。
後戻りができるはずもない。
「ちゃんと、気持ち良くしてあげる」
零にとっては和斗の「快楽」さえ「食事」足りうるのだと、和斗が思い出すのは零との行為の真最中。
娘ながらにその時ほど、プペの業の深さを恨めしく思ったことはなかった。
(プラトニックの終わり/Kと零。しー)




