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Sky  作者: まいかぜ
2010年
5/6

とばっちりの興味



 叶が襲われた。

 怪我をした。

 さっさとID取りに来い!


 そんなメッセージが届いたのが夕時。

 うわちゃぁ…と、和斗(やまと)は思わず顔をしかめた。


「まじか」


 了解。

 すぐいく。

 何かいる?


 返信はそんな具合。

 返信の返信はなかった。


「どうかした?」


 鳥篭の中から見上げてくる零に「それがな…」と、話して聞かせるのも憂鬱な話だ。


「姉さん怪我したって」

「…どっちの?」

「大きい方」


 ちなむとプペ一家は長女藤より次女叶の方が大きい。物理的に。ありとあらゆるものが。

 何故かって、藤は俗に言うロリババァというやつだ。普通に末っ子の和斗よりも小さい。

 叶も叶でしょっちゅう生まれなおすから、タイミングによっては誰より小さいが。成長が止まるのはだいたい二十三かそこらなので、永遠の八歳だか十歳だかの藤より大きいことの方が多い。

 まぁ、そんなことはどうでもいいが。

 とりあえず、身内に共通の認識として「小さい方の姉」といえば藤のことで、「大きい方の姉」といえば叶のことだった。

 もちろん、和斗の「身内」には零も含まれる。


「叶が?」


 すると、参からのメッセージを受け取った時の和斗同様、零の小奇麗な顔も悩ましげに歪んだ。

 これが藤なら、怪我をさせた相手の心配をするところ。

 姉ではないが兄ではある。春日なら、ざまぁと笑って終わり。

 どちらにしろ《ナンバーズ》がつきっきりなのだ。構うことない。

 ただ、叶の場合はそうもいかない。


「そう。叶姉さんが」

「それは…」

「うん」

「参が大変そうね」

「いろんな意味でね」


 叶の(ドォル)は病んでいる。

 叶も姉妹内では相当歪んでいる方だが、さすがに周期的に恋人を犯して死なせるような自動人形(ドォル)ほどではない。

 あぁどうしよう。

 顔を見せたら絶対八つ当たりされる。

 嘆く和斗は――零から鳥篭越しに励まされながら――重い足を引きずって、叶の《安全地帯(ホーム)》を目指した。

 本当は行きたくない。

 これも仕事と割り切って、叶の持ちビルへと足を踏み入れる。

 お客様用の入り口から入ると案の定、不機嫌全開の参に迎えられ。即座に回れ右して帰りたくなった。

 不機嫌な上に男。

 そして血塗れ。

 中で何が行われているかなど、一目瞭然の有様だ。

 怪我には魔力を与えるのが手っ取り早い。

 つまり、そういうこと。


「まいど」


 無言で差し出されたIDを受け取り、察しのいい和斗はすぐさま予定にない二枚目が叶を襲った相手のものだと気付く。

 《赤札》だ。

 ピンキリとはいえ、叶が手傷を負わされたのも頷ける。


「換金して報酬と振り込んどく」


 それじゃ、とそそくさ。用だけ済ませた和斗は叶のねぐらを引き上げた。

 参は話さないのだから、会話が成立するはずもない。

 そもそも快く招かれてさえいない。


「ぎゃー…」


 こんなことになるなら急ぎの仕事なんて渡すんじゃなかった。

 ビルを出てからしばらく歩いたところで些か棒読み気味に呻き、和斗は来た道を振り返ってみる。

 何か手配するよう言われればそれくらいの雑用はこなすつもりでいるが、正直そんなのは御免だった。

 なにあれこわい。


「見た? あの目つき」

「私だって、和斗が傷付けられたら怒るわ。和斗は違うの?」

「違わないけど、参は怒りの矛先が無差別だからなぁ…。まぁ、叶に向かないだけいいんだろうけど。それだってたまに爆発するし」

「…羨ましいの?」


 かわいい(ドォル)が発したてんで見当違いの言葉に和斗は目を剥いた。

 羨ましいの?

 まさか。冗談じゃない。


「零。あなたは今の話の流れでどうしたらそういう結論に至れるのかな」

「私もプペにお薬もらおうかしら」

「やめてくれ…」


 かわいい零。

 小さい零。

 たまに大きくなったりもする零。

 参がしょっちゅうTSパッチなんてえげつないもの使っているのを見ているせいか、男に化けた零の姿は全く想像に難くない。服を着ていたら、正直パッと見たくらいではわからないくらいの変化しかないのだ。所詮、目的が目的の代物だけに。

 要は必要な部分だけ変えてしまえばいいという趣旨。

 自分より少しだけ背の高い、銀髪の、青い目をした、そこらの女よりよっぽど美しく線の細い男。見た目が大して変わらないどころか中身はそっくりそのままだから、和斗はそんな零に腰を抱かれ至近距離から見つめ合う場面まで生々しく想像できてしまう。なにせ、くどいようだが普段の零とさほど変わるところはないのだ。違和感なんてあるはずもない。

 脱いでびっくり。そして和斗はなんだかんだ、零の押しには弱い。

 姉妹揃って自分のドォルに押し倒されるってどうなんだろう。

 もう二人は押し倒してるから二対二でバランスは取れるのか。いやまてそんなばかな。

 ちらりと鳥籠へ目をやり、見上げてくる零とうっかり視線を絡ませてしまった和斗は直感的に確信した。

 やばい。


「だいたいあなた、アーキタイプとの取引でそういうことできないでしょう」


 なんとか絞り出した言い逃れはさすがに苦しい。

 和斗がそう思うくらいなのだから、零とてそうだろう。

 気にした風もなくのたまった。


「別に破ったとしても、イヴリースは怒らないわよ」


 でしょうね。






(とばっちりの興味/Kと零。やまと)

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