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Scene.90「彼らを待っていたのです……」

 ぶつぶつと何かを呟きながら近づいてくる駿を見て、暁は眉を顰める。

 光葉がいなくなり、そしてその捜索に出た駿。

 光葉の姿を確認しない限り、人の話に耳も傾けずに暴走し続けているであろう彼を、どのような手段でここに連れてきたのか気になったのだ。


「……お前ら、こいつになんて言ったんだ?」


 特段返事を期待せずに問いかけたら、あっさりと答えが返ってきた。


「私たちは光葉さんの居場所を知っている……とお教えしたら、存外大人しくついてきてくれたんですよ」


 メアリーは柔らかく微笑みながら、駿の方を見やる。


「本当に彼は……光葉さんを愛していらっしゃるのですね」

「………」


 メアリーは奇妙な眼差しで駿を見る。

 まるで……神そのものを見つめるような眼差しで。


「神と神は惹かれあうのでしょうね……。素晴らしい、やはり世界は、彼らを待っていたのです……」

「神?」


 メアリーの言葉を聞き咎め、暁は首を傾げた。


「前にもそんなこと言ってたな……。どういうことだ?」

「……いい機会です、貴方にも、お教えしておきましょう……」


 暁にある程度近づいた駿が、ピタリと足を止める。

 メアリーは、ゆっくりと自らが信ずる教義を口にした。


「異能とは……神が賜りし、神の卵である。強き異能を宿すほど、その者は神へと近づいてゆく……」


 ゆらゆらと、陽炎のように揺らめく駿の炎が、残り火のように消えていく。


「第一世代と、第二世代。この違いは、そのために生まれるものです。第二世代は、神に選ばれなかったもの。そして……」


 メアリーは、ゆっくりと駿を示す。


「第一世代は……神に選ばれし神の子なのです」

「……そういや、かのイエス・キリストも、研三のおっさんに言わせると異能者だった可能性が高いんだったか」


 二千年以上前に、処女の母親から生まれ、多くの奇跡を起こし、そして謂れなき罪で処刑された三日後復活してみせた奇跡の聖人、イエス・キリスト。

 異世研三は、彼のような偉業を持つ者たちを、第一世代の異能者であったと仮定している。

 つまり、彼らが起こした奇跡は異能が起こした事実であるという仮説だ。

 異能という現実が存在する今、オカルトとして葬られていた数々の奇跡が、再検証されているのだ。それらは、異能が引き起こした事実なのではないか、と。


「ええ、その通り……。であれば、おのずとこの世界は誰のものなのか……わかりますね?」

「……ああ、そう言うことか」


 なんとなく、メアリーの話の行きつく先を察し、暁は顔をしかめる。


「つまりお前さんらは、第一世代を集めて世界を支配したい、と」

「違います。世界はあるべき正当な所有者の元に奉じられるべきなのです」


 暁の言葉をやんわりと否定するが、声には有無を言わせぬ圧力が伴っていた。


「この世界は、神が作りたもうた大いなる世界……。であれば、神が選ばれた子らによって、管理統制されるべきなのです」

「ふーん……」


 興味なさそうに呟きながら、暁は耳の穴を小指で掻く。


「なら、アメリカのフランコスや中国の龍兄妹、それから英国のクソアマもといフレイヤなんかも視野に入れてんのか?」

「もちろんです……と言いたいですが、彼らはそれぞれの母国に囚われている状態です。一朝一夕にはいかないでしょう」


 暁が上げた名前は、全て第一世代の異能者であり、全員が何らかの形で国の組織に所属している。

 だが、そんな彼らもメアリーに言わせれば国に囚われているということになるらしい。


「故に、まずは日本におられる異世駿さん、そして光葉さんを先にお助けすることとなったのです」

「まあ、正式に国に所属してるわけじゃねぇからな、こいつら」


 異世研三は、国所有の研究機関でもあるタカアマノハラの所属であるが、その子供である駿と光葉はあくまで異界学園の生徒である。国営の学校であるため厳密には国の所属ともいえるが、日本は彼らに対する直接的な命令権を持っているわけではない。あくまで、彼らは学生なのだ。

 だからこそ、今回のように世界の表から裏から、彼らを自らのものにしようというものが絶えないわけなのだが。


「……だからっつって、まともに言うこと聞いてくれる人種じゃねぇがな」

「フフフ、大丈夫です。そこは対策済みですよ」


 そう言いながら、メアリーはニヤリと笑った。


「……すでに光葉さんは、あの子たちの協力で私たちの元で捕えられています。こうすれば、駿さんも我々の――」


 メアリーがそう口にした時。


「……みつは?」


 駿が、微かに動く。

 ゆらりと顔を上げ、光葉の名を口にしたメアリーの方を見る。


「……しっているのか?」


 瞳の中に光はなく、ただ幽鬼のような揺らめきを漂わせているのみ。

 声に意志を感じられず、ただまっすぐにメアリーを見つめている。


「ッ……」


 駿の瞳を覗きこんでしまったメアリーが、気圧されたように一歩下がる。

 彼の瞳の中に見えたのは、どこまでも深い、狂気の色。

 だが、すぐに首を振って気を取り直し、メアリーは笑って駿へと告げた。


「……駿さん。光葉さんの事が心配なのですね? でしたら、簡単です」


 そこまで言って暁を指差し、こう言った。


「彼と戦ってください。戦い、そして勝てれば、彼女に会えるでしょう」

「………」


 駿は黙って聞いている。

 暁は、つまらなさそうにあくびをしている。

 メアリーはそんな暁たちの様子に構わず、言葉を続けた。


「暁さん。聞いての通りです。光葉さんの身の安全が大事なら、私達のいうとおりに……」

「下手こいたな、メアリー」


 軽く頭を掻きながら、暁はそんなことを言い出した。

 メアリーは微かに煩わしそうに暁を見るが、かまわず駿へと言葉を続けようとする。

 そんな彼女に、暁は言う。


「そもそもな、メアリー――」

「さあ、駿さん。選択肢は、ないはずでしょう? 光葉さんに会いたければ……」


 メアリーはゆっくりと手を差し伸べる。

 次の、瞬間。


「 み つ は 」


 紅蓮が爆ぜる。

 ショウタロウがやって見せた爆発など、比較にもならないほど、大きな爆発が起きる。

 そして。


「!?!?!?!?」


 その中心にいた人間……メアリーは、突然の出来事に為すすべなく倒れる。

 全身を焼かれ、灰へと還ってしまった彼女の骸を眺めながら、暁は言葉を続けた。


「――駿の奴を正気の人間と同列に扱おうとした時点で間違ってんのさ」


 先ほどまで鳴りを潜めていた紅蓮の炎が、いやに高く燃え上がる。

 彼らを囲っていた黒づくめの男たちがどよめき、声を上げる。


「クッ!? どうする!?」

「メアリー様が……!」

「わ、我々に退路はない!」


 メアリーが灰に還されたところを見ても、気丈に任務を遂行しようとするものもいた。

 だが、大半は駿の……おそらく彼らにとっては……想定外の行動を見て、委縮してしまっているものがほとんどだ。

 そんな彼らを睥睨しながら、暁は続ける。


「確かに普段のヤバさは光葉の方がやべぇがな。本気でやべぇのは駿の方さ。光葉の身に何かあれば……本気で世界を滅ぼしにかかるからな、こいつは」


 ゆっくりと駿が動く。

 瞬間、周囲を取り囲んでいた黒づくめたちの一角で紅蓮の炎が真っ赤に咲く。

 駿は無言のまま、ゆらりと動き始めた。


「光葉のいない世界に、この男は興味がない……いや、耐えられない。世界ごと、自分自身も灰になるまで焼き尽くしちまうのさ」


 駿の異能が、また暴発する。

 再び、黒づくめの男たちの一角が灰へと還ってしまった。

 すでに彼らの恐慌はピークへと達しかけていた。

 何人かは逃げようと暴れ、周りの仲間たちに抑え込まれている。

 すでに引き金に指をかけているものもいる。いつ銃が暴発するかわからないだろう。

 もっとも、今の駿に銃など通用しないだろう。撃ったところで、カグツチで灰に還されるのがオチだ。

 暁は左腕を握り、サイコキネシスを集中する。


「んんっ……!!」


 サイコキネシスの収束により光り輝き始めた左腕を振り上げ、勢いよく空間を叩く。

 左側に存在していた倉庫の壁が、何名かの黒づくめの男たちを巻き込みながら、大きく崩壊する。


「おい! 生きてる連中に言っておいてやる!!」


 暁はその場にいる全員に言い聞かせるように、大きな声を張り上げた。


「死にたくねぇ奴はとっととそこから出ていきな! 俺ぁ、待ってはやらねぇぞ!!」

「………!」


 黒づくめの男たちに動揺が走る。

 まさか、暁にそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。

 同時に、駿が暁へと顔を向けた。


「―――」


 ズルリ、と音がしそうな動作だ。

 瞳の中に渦巻く狂気はより濃さを増し、まっすぐに暁を見据えている。

 意識があるかどうかも怪しい動作で、ゆっくりと暁の方へと歩み始める。

 瞬間、黒づくめの男の一人が燃え上がった。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!??」


 男が灰へ還るのに、時間はかからなかった。

 黒づくめの男たちは、それを見て悲鳴を上げて駆け出してゆく。

 暁へと意識が向いているはずだというのに、余波でさえこれなのだ。

 もしそのままここに留まっていれば……どうなるかはそれこそ火を見るより明らかである。

 軽く屈伸運動を繰り返し、体を伸ばす暁を見て、黒づくめの男の一人が声をかける。


「な……なぜ我々を助ける!?」

「なんだ、死にたかったのか?」

「い、いや」


 暁は駿から視線を外さないまま、暁は男に答えた。


「理由は単純だ。あの馬鹿を止めたいなら、こっちに意識を向かせるのが一番いい」

「なに? それは、どういう――」


 また一歩、駿が暁へと近づく。

 駿に声をかけていた男は、その瞬間起こった暴発に巻き込まれて、灰へと還った。


「オガァッ!?」

「……フン。早く逃げてりゃ、死なずに済んだのにな」


 男に対する僅かな憐れみを見せながら、暁はバキリと骨を鳴らした。


「さて。もう何度目になるかはわからねぇが――」


 駿は、また一歩暁へと歩み寄る。

 暁が飛びのくのと同時に、彼が立っていた場所が燃え上がった。


「――おっぱじめるとするかぁ!?」


 暁はニヤリと笑う。

 駿が、また一歩暁へと近づく。

 凶悪な異能者同士の戦いの気配に、黒づくめの男たちは怯え戸惑い、大急ぎで逃げ出す。

 瞬間、カグツチの炎が燃え上がった。




 始まる暁と駿の戦い!

 一方その頃、啓太たちはどうしているのか?

 以下次回!

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