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Scene.86「僕と、リリィなら」

 圧縮された空気が、衝撃波すら伴って二人に向かって解き放たれる。

 地面が抉れ、捲れ上がり、粉塵が舞い散る。

 啓太は空いた手でトランプを撒き、異能を放つ。


切られた札(ワイルドカード)!!」


 二重になって壁となったトランプが、圧縮空気を受け止める。


「く……!」


 啓太の腕に、電流が走ったかのような痺れが現れる。

 傷ついた肉体が、過度な異能行使に耐えられなくなってきているのだ。

 それに気が付き、リリィが声を上げる。


「ケイタさん!」

「大丈夫って、強がりたいけど……」


 啓太はリリィの声に苦笑を漏らした。


「あまり無理もできないみたいだ……。たぶん、やれて一撃が限界かな……」

「……はい!」


 啓太の言葉に、リリィは一瞬不安そうな顔になるが、すぐに力強く頷いた。

 やがて、啓太のサイコキネシスの壁がクーガの一撃に押し負けそうになる。

 それを見て、リリィは素早く傘を開く。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)!!」


 開いた傘の布は割け、穴も開いていたが力場を展開するには十分だったようだ。

 啓太の展開した力場を突破し、力の弱っていた圧縮空気を弾き飛ばす。


「なら、確実に決めましょう!」

「……うん!」


 力強く返してくれるリリィの言葉に、啓太は深く頷いた。

 彼女の言葉に力をもらったように、啓太はグッと両足に力を入れた。


「しゃらくせぇんだよぉ!!」


 自らの一撃を防ぎきられたことで、さらに激昂したクーガは、両手に空気を集める。

 そして圧縮した空気を、再び二人に向けて解き放った。


圧縮空気砲(エアァァカノォォン)!!!」


 一度に二発の圧縮空気砲(エアカノン)

 一撃目で啓太の、二撃目でリリィの力場を突破する算段だろう。

 それに対し、啓太は再びトランプを取り出す。


切られた札(ワイルドカード)!!」


 宙を舞うトランプ。

 今度は打ち破る自信があるのか、クーガは啓太の姿を見てにやりと笑みをこぼした。

 だが、啓太が叫んだすぐ後、即座にリリィが傘を閉じた。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)!!」

「は?」


 傘を閉じると、円錐形の力場が展開される。

 馬上用の突撃槍(ランス)を思わせるそれは、防御に向くような力場ではない。

 土壇場のやけくそだろう。そう考えたクーガの笑みは、嘲笑のそれに代わる。

 そして、二人の元にクーガの必殺の一撃が迫る。

 ……だが。


「シャッフル!!」


 啓太の操るトランプは宙を舞い、リリィの展開した力場の周りを回転し始める。


「ドロー・カード……!」


 そして啓太のトランプがリリィの力場に張り付いてゆき、それを大きく増幅していく。

 巨大に膨れ上がったそれは、啓太とリリィの体を覆い隠すのに十分な大きさへと変貌していった。


「レッツ……ショォォダウンン!!!!」

「なん……!」


 啓太が増幅し、リリィが展開した巨大な突撃する傘槍(チャージ・パラソル)は、間近まで迫っていたクーガの圧縮空気をあっさり吹き散らしてしまった。


「なんだそりゃぁ!?」


 目の前の状況を見て、クーガは思わず悲鳴を上げる。

 そんな彼をまっすぐに見つめながら、啓太は静かに口を開いた。


「……異能の特性の一つに、“近似異能は互いを増幅し合う”というものがあるんだ。つまり、同じ異能同士であれば、お互いの力を増幅し合い、より強い力にすることができる!」

「ざっけんなぁ! テメェらが、そんな訓練受けてるなんて聞いたことがねぇぞ!? 学校やってねぇ間に、こっそり訓練でもしてたってかぁ!?」


 地団太を踏み、叫ぶクーガ。

 そんな彼に同意するように、驚いたように目を見開いていたリリィはこっそり啓太に耳打ちをした。


「……やってほしいと言われましたけど、私もできるとは思いませんでしたよ……?」

「できるよ。僕と、リリィなら」


 啓太はリリィに微笑みを返し、それから毅然とした様子でクーガを睨みつける。


「君の言うとおり、一朝一夕にはできないさ。けれど、僕たちにはそれができる」

「どういうことだテメェ……!」


 ギリッと歯を食いしばり、啓太を睨みつけるクーガ。

 そんな彼に対して、啓太はニヤリと笑い返してみせた。


「テキサス・ホールデムというポーカーがあるのは知ってるかい?」

「あ?」


 突然の啓太の言葉に面食らったような顔つきになるクーガ。

 それに構わず、啓太は続けた。


「場に展開された五枚と、手札として配られる二枚を組み合わせて競い合わせるポーカーのルールだけれど、僕の異能の名前は、ここから考えたんだ」

「……何が言いてぇんだテメェ」


 クーガは啓太の言葉の心意を訝しみ、顔をしかめる。


「僕の異能……切られた札(ワイルドカード)は、すでに場に出た五枚の(・・・・・・・・・・)カードの事さ(・・・・・・)

「は? 一体どういう――」


 意味か。

 そう問いかけかけたクーガは、気が付く。

 場に出た五枚のカードが、啓太の異能であるというのであれば。


「まさか……テメェの異能……!?」

「……そうさ」


 啓太は、傘を支えるリリィの手に、自らの手を添える。


「僕の異能、その本当の能力は……」


 重ねた手から、異能の力を注ぐ。


サイコキネシスによる(・・・・・・・・・・)サイコキネシス力場の(・・・・・・・・・・)増幅さ(・・・)……!」


 同時に、リリィの突撃する傘槍(チャージ・パラソル)が一気に増幅される。

 唸りを上げ、力場を広げ、龍の咢か竜巻かと言わんばかりにねじれ、辺りを破壊する。

 とてもではないが、先ほどまで展開されていた力場と同様の異能とは思えないほど凶悪に……リリィの異能が強化されていた。

 自らの異能が強化された様を見て、リリィが感嘆の声を上げる。


「すごい……!」

「幾重にも重ねた紙は銃弾でさえ止めてしまうように、僕のサイコキネシスは、他の人のサイコキネシスに重ねることで、その力をより強くすることができるんだ!」


 バチバチと稲光さえ発し始めた力場を前に、クーガが気圧されたように一歩下がる。


「ふ、ざけんなよ……! こんなの、第二世代の力じゃ……!」

「あいにく、ただの第二世代さ! ……でも、これだけの力が出せるのは、リリィが相手だからかな?」

「ケイタさん……」


 小さく、そして照れくさそうに呟かれた啓太の言葉に、リリィは一瞬驚き。


「――ええ! そうですね!」


 啓太の言葉に応えるように力強く頷く。

 そして自らの傘を握り直し、クーガを一心に睨み付けた。


「さあ! もう後がありませんよ!」

「うるせぇ!! そもそも、今使ってんのはテメェの力じゃねぇだろうが!!」


 クーガは狼狽えながらも、はっきりとそう口にした。


「はい、その通りです!!」


 リリィは頷いた。

 これは、自らの力ではないと、はっきりと認めた。


「これは……私たち、二人の力です!!」


 そして、言葉にした。

 今、ここにあるのは、二人の異能の力であると。

 二人が展開した、巨大な突撃する傘槍(チャージ・パラソル)の唸り声が、強くなる。


「リリィ! 合わせて!」

「はい、ケイタさん! 貴方にお任せします!!」

「くそ、がぁ!! こんなもんに負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 今にも牙を剥きそうな突撃する傘槍(チャージ・パラソル)を前に、クーガは自らに喝を入れる。

 そして、周辺の空気を一気に圧縮し、自身の前に集める。


「最大出力だ!! テメェらのくだらねぇ異能、俺の力で押しつぶしてやらぁ!!」


 圧縮に圧縮を重ねた空気が空間を歪め、向こう側に見える景色がひどく歪んで見える。

 一体どれほどの空気を圧縮したのだろうか。

 その空気がどれほどの破壊力を生むのだろうか。

 啓太たちの脳裏に、一瞬そんな考えが浮かぶ。

 だが。


「やれるものならやってみなさい!!」


 二人の心に。


「そんなものに……僕たちは負けない!!」


 不安はなかった。


「ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 暴走寸前限界まで圧縮された空気が、一気に解放される。


「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


 練りに練られた力場が、まっすぐに解き放たれる。

 縛り付けられた空気の大瀑布と、研磨された鋭い念動力場。

 二つの力が、正面からぶつかり合う。

 瞬間響いた咆哮は、誰のものか。

 啓太か。リリィか。あるいはクーガか。

 誰のものかも定かではない気高き咆哮が、その場にいた者たちの耳に届いたのは、一瞬の事。

 その一瞬で、全ての決着はついた。






「………派手にやってしまいましたね」

「………うん、そうだね」


 その場に力なくへたり込み、そばにあった大きなコンクリート片に背中を預け、互いの肩に寄りかかりながら。

 啓太とリリィはぼうっとした様子で傾く夕日を眺めていた。

 彼らのいる場所は、元ビル倉庫。

 もはや、倉庫としても景観用のビルとしても役に立たず、中にあった物資はそこらじゅうに散乱し、破壊尽くされたその場所は、さながら爆心地のようにも見えた。

 それもこれも、二人の念動力場とクーガの力がぶつかり合った、その余波による破壊跡であった。

 お互いのサイコキネシスで、お互いを防御していた啓太とリリィは、さほど怪我を負わずに済んだ。

 いや、クーガに負わされた怪我が治っているわけではないので、それ以上に傷つかずに済んだというべきだろう。

 対するクーガの行方は、わからなくなっていた。

 あの一瞬で、どこかに弾き飛ばされたか、あるいは余波をもろに喰らいこの世から消滅したか……。

 血が飛散したような様子がないので、できれば前者であってほしいと二人は願っていた。


「これ、どうしましょうか?」

「正直、考えたくないかなぁ」


 当たりの破壊跡を示し、問いかけるリリィ。

 啓太は彼女の問いから目を逸らすようにそう言いながら、苦笑した。


「どう頑張っても、僕らじゃどうにもならないし」

「……そうですねー」


 啓太の言葉に、リリィは頷き脱力する。

 と、その時。

 カタンと音を立ててリリィが持っていた傘が地面に倒れる。


「……リリィ、それ」


 啓太はそれを見て、痛ましげに顔を歪めた。


「もう、使えないね……」


 啓太の視線の先にあるそれは、もはや傘とも呼べない何か。

 傘布は完全に剥がれ、骨はあらぬ方向に曲がってしまい、修理も不可能な、傘であったものであった。

 リリィは、啓太の言葉を聞いて、そのことに気が付き。


「そう、ですね……」


 悲しそうな表情で、呟く。

 だが、すぐに何かを振り切るように首を振った。


「けど……よかったです」


 そして、啓太を見て、笑う。


「傘はだめになってしまいましたけれど……代わりに、啓太さんを守れたんですから!」

「リリィ……」


 啓太は彼女の言葉に、わずかに迷い。

 そして、笑った。


「……ありがとう、リリィ」

「はい! こちらこそ、ありがとうございます!」

「どういたしまして」

「……えへへ」


 お互いに礼を言い、二人はそのまま静かに寄り添うあう。

 夕日が完全に隠れるまでの間、二人の影はぴったりとくっついたままであった。




 完全勝利!! クーガの消息? まあ、海にでも落ちたんじゃない?(適当)

 さて、その一方で、時間を巻き戻し、暁は?

 以下次回!

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