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Scene.83「力の強弱が、全てじゃないよ」

 連続する爆発音の中、啓太は何とか体勢を立て直す。


「くっ……! リリィ、無事!?」

「な、なんとか!」


 リリィも手に傘を握りしめ、何とか立ち上がって攻撃を続けている少年の方へと視線を向ける。

 少年は笑い声を上げながら、何度もこちらへ向けて何かを投げつけるように腕を振り回していた。


「ハハハァ!! 近づいてみろぉ!!」

「生意気な! そんなに言うなら……!」

「リリィ、待って!」


 傘を構えて突撃しようとしたリリィを制止する啓太。

 次の瞬間、二人の目の前で何かが爆発する。


「きゃっ!」

「相手の異能の性質がわからない! こういう時は、慎重にならないと駄目だ!」

「でも、攻めなければやられちゃいますし、周りだってどんどん壊れてますよ!?」


 冷静な啓太の言葉に、リリィは半ば怒鳴り返す。

 彼女の言うとおり、少年の攻撃によって、周辺の倉庫ビルには罅が入り、地面のアスファルトはめくれあがっている。

 少年が使っている異能がどのようなものかは分からないが、相当強力な異能だろう。

 再び、二人の近くで爆発が起きる。


「うっ……! これだけの威力を持つ異能を相手に、むやみにつっこんじゃだめだ!」

「じゃあ、どうするんですか!?」

「まずはけん制する!」


 今にも傘を構えて突撃しそうなリリィを宥めながら、啓太はトランプを一枚取り出す。


切られた札(ワイルドカード)……」


 啓太の意思が、トランプに通る。

 淡く発光し、力を得たトランプは啓太の手を離れ、ゆっくりと浮かび上がる。


「……いけぇ!!」


 啓太が腕を一閃すると。トランプはまっすぐに飛翔していく。

 狙い違わず、トランプは少年の元へと飛んでいくが。


「っと、あぶねぇ!」


 少年が手をかざした瞬間、何かの壁に阻まれたようにトランプの動きが止まる。

 いや、壁に阻まれる、というより壁に埋もれるというべきだろうか。


「っ……!」


 啓太の異能、切られた札(ワイルドカード)はトランプにサイコキネシスの力を込めて飛ばす異能。

 飛んで行ったトランプはラジコンのように啓太の意思を受けて飛び回り、何かにぶつかればサイコキネシスの力場を周囲に展開し、ぶつかったものを吹き飛ばす。これが、基本的な使い方だ。

 力場を展開した後のトランプに力は残らず、そのまま落ちるはずだ。

 だが、トランプはいまだ宙に浮かび、静止している。少年の異能がサイコキネシスであれば、力場に阻まれた時点でこちらの力場を展開し、トランプは落ちるはずだ。


「あいつの異能は、サイコキネシスじゃ、ない……?」


 今起きた出来事を冷静にそう分析する啓太。

 だが、そんな彼の隣からリリィが飛び出していった。


「今が好機ですね!」

「あ、リリィ!?」


 傘を水平に構え、その正面に力場を展開。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)!」


 さながら、中世の騎士の突撃(チャージ)のごとく、一直線に駆け抜けるリリィ。

 少年はそんな彼女を見て、にやりと笑った。


「おっと! 近づかれちゃかなわねぇ!」


 そう言って、かざした手に添えるように、もう一方の手も伸ばす。


「いっけぇ!!」


 少年が気合を入れた瞬間、何かが破裂するような音と共に、リリィに向けて凄まじい爆風が吹き荒れた。


「っきゃぁ!?」


 思わずたたらを踏むリリィ。

 彼女を煽った風は、啓太の元まで届き、彼の髪の毛を揺らす。


「風だ……。やっぱり、サイコキネシスの力場じゃない」


 頬に受ける風の感触に、啓太は確信を深める。

 サイコキネシスの力場は、自然風とは当然異なる。

 どのような感触なのか、と問われた場合、最も多い例えは「冷たくない水のようだ」というものだ。

 鉄砲水に代表されるように、大量の水は硬い岩石すら打ち砕くほどの威力を得ることがある。

 強力なサイコキネシスの一撃は、まさに鉄砲水のようであると言われることが多い。

 だが、あの少年が起こしてみせた一撃は風のようだった。無論、サイコキネシスにも例外はあるが、現時点ではあの少年の異能の候補から外しても構わないだろう。


「やりますね!?」

「あったりめぇだ! テメェら如き、教授の教えを受けた俺たちの敵じゃねぇんだよ!」

「くっ……!」


 リリィは歯を食いしばり、少年を睨みつける。

 少年の言葉に反論したいが、たった今、彼の力で押し戻されてしまったところだ。言葉が出ない。

 そんなリリィの背中を見ながら、啓太はトランプを取り出す。


「まだ、情報が足りない……。はっ!!」


 今度は上へ向けてトランプをばら撒く。

 啓太の力を受けたトランプは、群れを成して空を飛ぶ。

 一度は青い空の上へと飛んでゆき、ある程度飛び上がると、今度は一気に下降してゆく。

 少年の頭上に向けて降り注ぐトランプたちは、さながら滑空爆撃機のようであった。


「っと! うぜぇな!!」


 だが、やはり少年には通じず、彼の手の先の障壁の様なものに遮られ、トランプが中空で静止する。

 だが、今度は一発では終わらない。


「せぇい!」


 少年の動きが止まった一瞬を狙って、今度は横に向けてトランプを一閃する。

 まっすぐ飛んでくるトランプを見て、先ほどまで余裕綽々という様子だった少年の表情に焦りが生まれる。


「うあああ!? あぶねぇ!」


 慌ててトランプを回避するように、少年は横に飛んだ。

 瞬間、少年が受け止めていたはずのトランプが、拘束から解放されたように宙で飛び回る。


「力がなくなったわけじゃない……まだまだ!」


 啓太はトランプに異能が生きていることを確認し、少年を追い立てるように無数のトランプで彼を追い立てる。


「ちょ、ま!?」


 少年は複数飛び回るトランプのどれを受け止めるべきかわからず、下手な踊りを踊るように逃げ惑う。

 そんな少年の姿を見て、リリィは今がチャンスであると確信したのか、傘を構える


「ケイタさん! 私、行きます!」

「あ、リリィ!?」


 止めるいとまもあればこそ、リリィは一気に少年に向かって突撃してくる。

 自身の周囲を飛び回るトランプ。そして突撃してくるリリィ。

 この二つを前に、少年は怒りの表情で叫び声を上げた。


「なめんじゃねぇー!!」


 瞬間、少年を中心に風が集まるかのように動く。

 砕けた欠片が、力を失って落ちたトランプが。少年へ集うように動き。


「うぅらぁぁぁぁぁぁ!!!」


 次の瞬間、少年を中心にとんでもない爆風が巻き起こる。

 爆風は少年へ迫っていたリリィを、そして彼の周りを飛び回っていたトランプを吹き飛ばし、周囲三百六十度にあるものすべてを吹き飛ばした。

 爆風に煽られたリリィの体が、宙へと舞い上がってしまう。


「っきゃぁぁぁぁ!!??」

「リリィ!」


 木の葉か何かのように吹き飛ばされてしまったリリィを追いかけ、啓太が駆ける。

 懐に手を突っ込み、トランプを一束取り出してリリィに向けて投げ飛ばす。


「間に合えぇ!!」


 啓太が投げたトランプは、網のように広がり、リリィの体を受け止める。


「わぷ!」


 トランプの群れに顔から突っ込んでしまったリリィが小さく声を上げる。

 リリィをトランプで何とか受け止められた啓太は、ホッと息をつき、リリィの体を地面へと下す。


「リリィ、大丈夫?」

「は、はい……まさか、あんな一撃を放てるなんて」

「だから言ったじゃないか。相手の異能がわからないうちは、迂闊に仕掛けない方がいいって」

「す、すみません……」


 啓太の叱責に、リリィはシュンとうなだれる。

 一瞬、リリィを慰めそうになった啓太だったが、彼女の今後のためとぐっとこらえ、立ち上がる。

 先ほどの爆発を起こした少年の方へと視線を向けると、彼は怒りにまみれた表情でこちらを睨みつけていた。


「やるじゃねぇか、テメェ……!」

「そっちこそ。そんな小さな体で、あんな力を使えるなんて、思わなかったよ」


 彼の力に、ある程度の核心を得られた啓太は、少年を挑発するように睥睨した。

 啓太の視線が気に入らないのか、少年の眼差しがさらにきつくなる。


「誰がガキだテメェ! なめてると承知しねぇぞ!!」

「言ってないよそんなこと」


 思いがけず、幼さを垣間見せる少年の様子に、啓太は思わず苦笑する。

 そんな啓太の態度がさらに癪に障ったらしく、いよいよ少年の表情が悪鬼じみてくる。

 そのまま前に出ようとした少年の機先を制するように、啓太は声を上げた。


「空気を圧縮する異能。それが君の力なんじゃないかな?」

「!」


 啓太の言葉に、少年の足が止まる。

 リリィは立ち上がり、啓太の腕をつかんだ。


「空気を圧縮するって、どういうことですか!?」

「そのままの意味だよ。空気を圧縮することで爆弾や壁を作り、それを使って戦うのが彼の異能だ」

「………」


 少年はしばらくの間黙り込んでいたが、観念したように舌打ちをした。


「……よくわかったじゃねぇか。その通りだよ」


 言いながら、少年は手のひらを上へと向ける。

 先ほど少年の周りで起こったように、風が彼の手のひらへと集まっているのがわかる。


空念複合体(エア・コンプレックス)っつってな。自分の体の周囲の空気を際限なく圧縮できるのが俺の異能だ」


 圧縮された空気は、少年の手のひらの上で球体に纏まり、向こうの景色が歪んで見える。相当な圧力がかかっているようだ。


「一気圧で大体一キログラムくらいの力がかかる。俺は、最大で一千気圧の状態を自分の意志で生み出すことができるのさ」

「ということは……一トン近い力を出せるってことですか……!」


 少年の言葉に、リリィは慄く。

 そもそも一千気圧なんて状態、聞いたこともない。そんな圧力が駆けられてしまうと一体どうなるのか、想像もできない。


「……なるほど」


 だが、少年の言葉にも、啓太は冷静な様子を崩さない。

 そんな啓太の様子に、少年は気分を害したようだ。

 顔を歪めて、手のひらの上に生み出していた空気の塊を握りつぶした。


「……なんだテメェ、そのヨユーは。テメェのよわっちぃ異能で同じだけの力が出せんのか?」


 少年は言いながら、大きめの石の欠片を手に取る。


「教授の敵が生んだ、カスの異能者がよぉ……」


 そして、圧縮した空気でその意思を握りつぶす。


「人のこと見下してんじゃねぇぞ! 圧縮気圧に飲み込んで、飲めないジュースにしてやろうか!?」


 同時に、少年の異能が暴走したかのように、風が荒れ狂う。

 啓太は顔を庇って風をやり過ごし、そしてはっきりと口にする。


「力の強弱が、全てじゃないよ。君は、大事なことを見落としてるんだ」


 啓太はトランプを一束取出し、パラパラとデモンストレーションを行うように手元で弄ぶ。


「僕はここに来て、それを学んだ」

「教授の敵が作ったようなクソッタレな街で、学ぶことなんざねぇよ!」

「……何が気に入らないのか知らないけれど、これ以上この街を傷つけさせないよ」


 啓太は少年を睨みつけ、構える。

 二人のやりとりに、リリィは戸惑いながらも同じく構える。

 少年は顔を怒らせながら、自らの周囲の空気を圧縮し始めた。

 轟、と風が鳴り、唸りを上げる。

 やや傾き始めた日の光が、風を操る悪鬼の姿を怪しく照らした。




 圧縮空気を操る少年は、力の限り暴威を振るう。

 そんな暴風に対し、二人はなすすべがあるのか?

 以下、次回ー。

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