表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/104

Scene.82「いつ来ても、息の詰まりそうな場所だな。ここは」

 タカアマノハラ、倉庫街。

 発展途上のタカアマノハラを開発するための物資、タカアマノハラで生活する者たちの食料や消耗品、研究者たちが使用する研究資材などなど……。

 タカアマノハラを支える、ありとあらゆる物資が存在する場所であり、現時点でタカアマノハラの大部分を占めるのがここだ。

 日夜、少しずつ開発はされているが、それでもタカアマノハラ全体の三分の一ほどを占める、広大な敷地面積を誇る。

 もっとも、一般的に倉庫街と呼ばれているのはコンテナが大量に積まれている場所であり、そこだけで言えば四分の一程度。残りの部分は、景観の問題で倉庫ではなく、一般的な会社ビルのように偽装されている。外側から見て、初見では倉庫であるとはわからないほどの誤魔化しっぷりだ。ある意味で、タカアマノハラで一番見ごたえのある場所と言えるかもしれない。

 そんな委員会の虚栄心の塊である、倉庫街・ビル群の中を歩きながら、暁は小さくため息を突いた。


「いつ来ても、息の詰まりそうな場所だな。ここは」

「ここは……? 倉庫街に向かっていたのでは?」

「あ、リリィはここ、初めてだよね。ここも倉庫街なんだ」


 タカアマノハラに来て日の浅いリリィが首を傾げる。

 そんな彼女に、啓太は簡単にこの場所のことを説明してやった。


「――というわけなんだよ」

「これが倉庫なのですか……?」


 疑わしげに、四階建てビル型倉庫を見上げるリリィ。

 外から見る限りでは、完全に商社ビルである。ブラインドこそかかっているが、出入り口からサラリーマンが出てきてもおかしくない雰囲気である。


「タカアマノハラは水上都市だからな。建物を建てられる場所は限られてくる。倉庫みてぇな物資を置く施設ってのは結構場所を食うからな。横に伸ばせねぇんじゃ、縦に伸ばすしかねぇだろ」

「はぁ……」


 暁の説明に、リリィは曖昧に頷いた。

 敷地面積を稼げない以上、空間は最大に生かさねばならないということだろうか。

 とはいえ、それならば言っておかねばならないこともある。


「だったら、あんな風にコンテナを広げてないで、あそこにもビルを建てたらよろしいのでは?」

「だな。俺もそう思う」


 ビル群の間から覗く、倉庫街らしいコンテナの山を指差すリリィに、暁はしたり顔で頷いてみせた。


「俺も同じこと、西岡のおっさんに行ったことがあるが、おっさん曰く「……全部がビルだと、ビルの中が倉庫だとすぐにばれる」んだそうだ。おっさんはいい顔してなかったがな」

「……タカアマノハラも大変なのですね」


 なんとなく察して、リリィはため息を一つついた。

 世界中の注目を集めるタカアマノハラ。であれば、たとえ見栄でも張らねばならないのだろう。この街が、すなわち世界に対する日本からのアピールなのだから。

 どこなく黄昏てきた二人の背中を見て、啓太は苦笑いを浮かべながら声をかける。


「まあ、タカアマノハラの経営を案じるのはさておきまして……これからどうしますか、先輩?」

「どっかで誰かに行き会って、なおかつそいつが今回の騒動の主犯格ってのが、一番おいしい展開だな」

「おいしいどころか、怪しいですね、それ……」


 適当なことを言って先を歩く暁の背中を、啓太は呆れたような眼差しで見つめていた。

 と、そんな暁の背中に何かが張り付いているのに気が付いた。


「?」


 目を凝らしてみる。

 黒い……小さなゴミの様なものだ。

 もぞもぞと暁の背中で動いているので、啓太はそれが無視か何かだと思った。


「先輩? 背中に何か――」


 だから啓太は、ひと声かけてそれを取ってあげようと思い、手を伸ばす。

 その瞬間、暁の姿が忽然と消えた。


「「え」」


 手を伸ばしていた啓太、そしてそばを歩いていたリリィは、同時に呆けたような声を上げた。

 暁が立っていた場所から、何か黒いものが立ち上っているのが見える。

 よく見ると、それは何かの文字のように見えた。

 啓太は、直観的に暁の背中に張り付いていたものと同じものであると感じた。


「え、なんで、いきなり」

「先輩!」


 突然の出来事に、声を失うリリィを押しのけ、啓太は暁がいた場所に駆け寄る。

 啓太の身ている前で、立ち上っていた文字はかき消えてしまう。

 啓太はしゃがみ込んで、文字の立ち上っていた場所を見つめる。

 そこに何かあったような感じはなく、暁は本当に忽然と消えてしまった。


「先輩……くそっ!」


 啓太は悔しさから拳を握り、地面を叩いた。


「今のタカアマノハラには、こっちに敵意を持っている異能者が溢れているのは分かっていたのに……!」

「ケイタさん……」


 リリィは不安そうに啓太を見つめていたが、その不安を振り払うように首を振り、自らを鼓舞するように声を上げた。


「ケイタさん! もしアラガミ・アカツキが囚われているというのであれば、ここで足を止めている場合ではありません! 急いで、アラガミ・アカツキと彼を捕えた物を探さなくては!」

「リリィ……うん、そうだね!」


 啓太は少し驚いたような顔になったが、すぐに自分を奮い立たせて立ち上がる。


「先輩を捕まえたってことは、分断を狙ってるはずだ! 急いで先輩を探して、合流しよう!」

「ええ!」

「残念だけど、狙ってんのは分断だけじゃねぇんだなぁ」


 互いを励まし合うように、声をかける二人の間に割り込む声が一つ。

 まだ年若い……啓太やリリィより歳の低い男の子の声に聞こえた。


「「!」」


 弾かれたように、二人が声のした方へと振り返ると、そこに一人の少年が立っていた。

 ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべてこちらを見ている。

 そして隠す気のない敵意を感じ、二人は身構えた。


「っ! 何者です!」


 リリィは叫んで、傘を突き付ける。

 啓太もトランプを取出し、油断なく構える。


「先輩をどこかに飛ばしたのは、君か!?」

「俺じゃねぇよ。俺の仲間だよ」


 言いながら、少年はゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 啓太とリリィは表情を険しくしながら、それぞれの武器を構えた。


「何が目的だ! どうして、タカアマノハラを――!」

「一個は頼まれたから。んで、もう一個は……」


 少年は両手を上げ、勢いよく振り下ろした。


「この街を作ったのが、教授の敵だからだよぉ!!」


 同時に弾ける大気。突き抜ける衝撃波。

 二人は目の前の爆発に煽られて、そのまま後ろへと吹き飛んで行ってしまった。


「うわぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁ!?」

「へっ! まだまだぁ!!」


 そう言いながら、少年は両手を振り上げ、もう一度腕を振り下ろす。

 倉庫街のビル群の中に、幾度となく爆発音が響き渡った。






「………なんだこれ」


 啓太たちと共に倉庫街・ビル群を歩いていたはずの暁は、いつの間にか見覚えのない場所を歩いていた。

 何らかの障害物の様なものが見えるが、少なくともタカアマノハラではないだろう。

 タカアマノハラの地面は真っ白ではないし、アスレチックか何かのように障害物は生えていないし、そもそも空から太陽が消滅したりはしていない。

 白夜か何かのように、星も太陽もないのに白く輝いている空を見上げ、暁は唸り声を上げた。


「あー……これはあれか。ハコニワ型だな……?」


 一見しただけではあるが、暁はそう断定した。

 ハコニワ型にもいろいろあるが、強力な異能者になるとこのように異空間を忽然と出現させることもできる。

 もっとも有名なのは、光葉のイザナギだ。彼女の影の中は無明の闇であり、無限の泥でもある。一度飲まれるとどこかに引っかかることなく沈み続け、真っ暗闇の中で彼女の心の闇に食われることとなる。彼女の闇には許容量の限界がないらしく、一度に五十人以上の人間を飲み込んだことがあることも確認されている。

 とはいえ、あまり慌てるようなことでもない。この手の異空間を生成する異能者は、第一世代でない限りそれ以上の能力を持っていないことが多い。飲まれたからと言って、今すぐどうにかなるわけではないだろう。

 もっとも、その異空間自体に何らかの能力が付加されていることは多いので、楽観視できる状況ではないのだが。

 暁はめんどくさそうに周りを見回していたが、ふとこの状況に心当たりがあることを思い出した。


「……タカアマノハラではないどこか……?」


 そう。それは、つぼみによってもたらされた予言の一つ。

 タカアマノハラや駿に関するものとは別に言われた、暁に対しての予言。

 その内容は、確か――。


「……っと」


 その内容に関して思い出そうとしたとき、頭上に影が差した。

 影の生まれた方に顔を向けると、そこには一人の男が立っていた。


「………」


 男は顔に包帯を巻き、高い場所に立ってこちらを睥睨していた。

 暁も男を見上げ、睨みつける。


「……誰だ、テメェ」

「………」


 男は暁の問いに答えることなく、すっと手を上げる。

 手を翻し、次の瞬間指を鳴らす。


 ボガァン!!


 瞬間、暁の元で赤い爆炎が弾ける。

 燃える物のないはずの場所で、轟々と紅蓮の炎が音を立てて燃え上がる。

 包帯男は、うっそりと目を細める。

 そして、もう一度手を振り上げ、追撃の一撃を加えようと――。


「何しやがるテメェ」


 した瞬間、怒りにまみれた暁の声が響き渡る。

 包帯男は舌打ちをし、その場から飛び退く。

 遅れて、男が足場にしていた白い足場がサイコキネシスが抉る。

 続いて、全身をサイコキネシスで防御していた暁が、自らの体の表面を舐める爆炎をサイコキネシスで吹き飛ばした。


「クッソあちぃ……なんなんだテメェは」


 暁は睥睨しながら、その辺りにある障害物を破壊しながら包帯男へ近づいてゆく。


「テメェみてぇな、むさくるしい野郎に見覚えも心当たりもねぇよ。人違いの見当違いだ。他当たんな」

「………」


 障害物から降り、しゃがんでいた包帯男がゆっくりと立ちあがる。


「―――………」

「あ?」


 ぼそぼそと、何かを呟いているが、暁の耳には届かない。

 せめてもの慈悲に聞いてやろうと、暁が不用意に近づいてゆく。


「―――ヴゥアァァァァァァァァァ!!!!」


 だが、その接近を許すまいと、包帯男の周りから爆炎が立ち上った。

 駿の炎が流れる水のような綺麗な炎だとすれば、包帯男の爆炎はマグマか何かの様な猛々しい炎だった。

 触れようとするものを、爆発の勢いで吹き飛ばし、破壊しようとする激しい炎だ。

 暁はその爆破の勢いに逆らうことなく後ろへと飛ぶ。


「ヒュゥ。やるじゃねぇか」


 目の前で、ダイナマイトか何かの爆発に等しい異能の発現を見たというのに、暁は涼しい顔であった。

 むしろ、包帯男の激しい異能の発現に感心したと言った様子だった。


「最近、骨のねぇ奴ばっかり相手にしてたんだ……。少しは楽しめそうじゃねぇか」


 コキリと指を鳴らし、舌なめずりをする暁。

 ギリっと体の関節を鳴らし、今にも飛び掛かりそうな構えを取る包帯男。

 そんな二人を、遠くの方から小さな少女が見つめていた。




 さあ、最終決戦の幕開けである!

 勝つのはどちらか!

 以下次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ