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Scene.80「なんでもありですね、ホント……」

 無事に昼食を終えた暁たちは、さしあたっては当初の目的地であった倉庫街へと向かうことにした。

 食堂で言ったように、生徒会室に集まっている探査系異能者たちの監視網ですら補足が難しい駿を見つけるのは至難の業だ。


「駿の野郎、カグツチで重力やら摩擦やら衝撃やらを燃やして移動しやがるからな。差し当たり、人類である以上今のあいつを捕捉するのは不可能だと言っていいだろう」

「なんでもありですね、ホント……」


 暁の言葉にがっくりうなだれながらも、啓太は首を傾げる。


「でもそれだけの移動速度があるなら、タカアマノハラ中を探索し終えて、光葉さんを見つけられそうな気がするんですけど……」

「光葉がいない状態の駿は、普段抑え込んでる感情の歯止めが外れてる状態でな。言ってみりゃ、ブレーキの壊れたダンプカーみてぇなもんだ。狙ったところに向かうのも、止まるのも難しいだろうよ」

「そして止めるのも命がけなんですね、わかります……」


 前向きにとめることを考えれば、持久戦からの燃料切れを狙うのが正道だろう。

 そう言う意味でも、現時点での駿の放置は正しいと言えた。


「では倉庫街に向かうのは? 何か当てがあっての事なのですか?」

「何かを隠すなら倉庫街。これはタカアマノハラの常識だ」

「なんですかそれは……」


 リリィの質問に胡散臭い答えを返す暁。

 啓太は半目でそんな暁を睨むが、暁は心外だというように肩を竦めて見せた。


「わかってねぇな。確かにそのまんま過ぎると思うだろうが、道路やコンビニ、果てはトイレの中にまで監視カメラが設置されてるタカアマノハラでも、積み荷の中までは監視してねぇのさ」

「まあ、外部から運び込まれたものですしね……。でも、異能があれば中が見えることはあるんじゃないんですか?」

「まあな。そんな異能者がいるなんて話は、今ん処聞いたことはねぇが」

「もしいたとしても、その方一人に全てを監視していただくのも酷な話ではないでしょうか?」

「それもそっか……」


 現状、異能というものの再現性はあまり高くはない。

 サイコキネシスのように本質が同じものは多く存在するが、その発現が全く同じであるという異能者はほとんど存在しない。

 異能の発現の形というのは、個人の性質に大きく依存するからであると言われている。この世に全く同じ人間が二人いないように、異能というものも人の数だけ存在するわけだ。


「それに、積み荷のコンテナなら、太陽光を遮断して真っ暗な状態を生み出せるからな。放っておいても勝手にダウンし続けるだろ」

「そう言う意味でも厄介ですよね……。向こうが脱出するのを期待できないわけですし……」

「まあな――」


 暁は呟きつつ、上の方から跳んできた水の塊をサイコキネシスで弾き飛ばした。


「――っと」

「うわ! なんですか!?」

「雨にしては大きいです!」


 手にした傘を差しながら、飛びのいたリリィが見上げた先には、二人の人間が空を飛んで戦っている姿があった。


「あっははぁー! 落ちろぉ!!」

「くそぉぉぉ!!」


 一人の少女に、ボンベの様なものを背負って飛んでいる男が追いつめられているようだ。

 男はボンベから絶えず霧状のものを噴射し、その反動で飛んでいるように見える。先ほど飛んできた水の塊は男が形成したもののようだ。今も両手に抱えるほどの大きさの水の塊を少女に向けて飛ばしているところだ。

 危なげなくそれを回避した少女は、どうも異界学園の生徒のようだった。

 両手両足からオレンジ色の炎の様なものを噴射し、全身のあちらこちらから似た輝きを放ちながら、かなりの速度で飛び回っている。その姿はさながら人間ジェット機のようであった。

 スカート姿で惜しげもなく宙を飛び回るその少女に、暁は見覚えがあった。


「あー、崎原か。相変わらずのかっ飛び具合だなぁ、オイ」

「あのー……あの人はどういう異能の持ち主なんですか……」


 一度は上を見上げたものの、崎原と呼ばれた少女がスカートであることに気が付いて素早く視線を逸らした啓太が、気まずそうに暁へと尋ねた。

 ちなみに崎原はスカートに下に眺めの短パンをきっちり履いていることを、彼女の名誉のために記しておく。


「見たまんま、全身からジェット噴射みてぇな熱波を放出できる異能だな。一つだけでも結構な威力だが、それを最大で五つ同時に噴射できる。おかげで、あんな感じで空を飛ぶこともできるってわけだ」

「お! 暁君やっほー!」


 のんびり自分を見上げる暁に気が付いたのか、崎原は敵に浴びせ蹴りを放ちながら声をかけてきた。

 放った蹴りにも噴射の勢いのが乗っているため、結構な威力となって敵の男を打ち据える。

 十分敵との距離が離れたのを見てから、崎原は暁たちの方へと飛んでくる。


「後輩ちゃんたちもやっほー! 元気に学校生活エンジョイしてるかいー!?」

「あ、はいー!」

「先輩も元気そうでー!」


 勢いよく頭上を通過して行く崎原になんとか返事を返す二人。

 やや遠くの方で旋回する彼女を見て、リリィが不思議そうに暁を見上げた。


「……そういえば、アラガミ・アカツキは空を飛びませんよね? それは何故ですか?」

「あん? どういう意味だ?」

「いえ……アラガミ・アカツキの異能の強度であれば、あんな具合に空を飛ぶこともできるのでは? 聞けば、車一台を一撃で破壊するだけの力があると言いますし」


 そう言ってリリィが指差す先には、何とか体勢を立て直した敵に飛び蹴りを放つ崎原の姿が。


「必殺のぉー! 流星ジェット蹴りぃー!」

「ぐはぁぁぁぁぁ!!??」


 今度はきっちり地面に落下する敵の姿。

 それをぼんやり眺めながら、暁はリリィの質問に答えた。


「単純に効率の問題だな。崎原の場合、自分の体からジェット熱波が噴射する能力で、それを最も効率的に利用するとなると、あの形に落ち着く。対して、俺のようなサイコキネシストが空を飛ぶ場合、二つほど方法が考えられる」


 暁は言いながら、手を振ってくる崎原に手を振りかえしながら歩きはじめる。


「一つは自分の体にサイコキネシスをかけて、持ち上げる。この方法の利点は、特に準備がいらないってことだ」


 言いながら、そばにあった自販機を持ち上げて、再びの流れ弾をしのぐ暁。

 まさに今持ち上げてみせた自販機のように自分の体を持ち上げるということなのだろう。


「ただし難点が一つ。サイコキネシスを操る場合、大抵の異能者は、サイコキネシスは自分の手の延長線であるとイメージする。言っちまえば、自分の首根っこを自分で持ち上げて空を飛ぶって方法なわけだが、そうなるとどうイメージして自分を持ち上げればいいか、こんがらがる奴が多いんだな。なんで、この方法だと、空を飛ぶというより、地面を跳びはねる形になる」

「むう、なるほど……」

「そしてもう一つが、何らかの物体にサイコキネシスをかけて、その上に乗ること」

「いやっはぁー!!」


 暁が次の方法の説明に入るのと同時に、三代が崎原の空中戦に割って入ってきた。


「崎原ぁ! お前の獲物は頂きだぁ!」

「あー! ズルいよ三代! そいつはあたしの獲物だー!」

「ちょうどあんな感じだな。古金の切られた札(ワイルドカード)にも言えることだが、この方法の場合、長い支柱で乗るものを支えればいいからイメージするのがたやすい。サイコキネシスで空を飛びたい場合、この方法のほうが効率はいい」

「そぉれぇー!!」


 三代が、波に乗るように宙を滑る。

 そして敵である異能者の腹に、勢いよくスノーボードを叩き込んでやった。

 ようやく浮き上がってきた異能者は、続く強襲のおかげで再び墜落の憂き目にあってしまう。

 三代はそのまま崎原の隣に並ぶように空を飛び始めた。


「もー! ひどいよ三代!」

「悪い悪い! だが、こう言うのは早い者勝ちだからな!」

「――ただし、この方法には欠点がある。それは、通常のサイコキネシスとは複数個所にサイコキネシスを発現できんということだな」


 追走し合う三代と崎原を白けた眼差しで見つめる暁。

 彼が何を思っているのかはわからないが、自身もサイコキネシストである啓太とリリィは納得したように頷いた。


「なるほど。物を浮かすことにサイコキネシスを使っているのであれば、当然空を飛びながらサイコキネシスで攻撃することも防御することもできなくなる、と」

「先の方法なら、全身にサイコキネシスを纏っているわけですから、攻撃はともかく防御はできますよね」

「そう言うことだな。つっても、相手が空を飛んでいようがサイコキネシスならそこに念力打ちこみゃ終わりだがな」


 ふらふらと飛び上がってきた異能者の向けて腕を振る暁。

 次の瞬間、異能者の背負っていたボンベが破裂し、異能者はあらぬ方向へと吹き飛んでいった。

 それをみて、崎原と三代が悲鳴を上げる。


「「あー!?」」


 慌てて飛んで行った異能者を追いかける二人の背中を見つめながら、暁はため息を突いた。


「別に飛ぶこと自体を否定するわけじゃねぇが、そこに固執する必要性はまったくねぇな。言っちまえば、ロマンの領域さ」

「そうですか……。でも、傘を使って空を飛ぶリリィは、ちょっと見てみたいかなぁ……」


 ふと、何かを思いついたらしい啓太がポツリとそんなことを呟いた。

 空を見上げ、先ほど呟いた光景を想像したのか少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「なんていうか……その、可愛らしそうだし……」

「ふーん……ケイタさんはそう言うのが好きなんですか……」


 それを聞いたリリィは意味深に頷き、おもむろに暁の方へと振り返った。


「アラガミ・アカツキ! 私の異能で空は飛べるでしょうか!」

「……うん、まあ、強度は十分じゃねぇの?」


 二人の会話に辟易したような顔で、暁は適当に相槌を打つ。

 それを聞いて何かに対してやる気を見せるリリィであったが、すぐにハッとしたような表情で啓太へと振り返った。

 スカートを押さえて、恥ずかしげに俯きながら。


「……ただ、今日は下にスパッツを穿いていませんので、試すのは後日ということで」


 と、そんなことをのたまった。

 啓太は数瞬呆けていたが、すぐに意味を悟って顔を真っ赤にした。


「い!? あああ、いやいや、その……!!」


 慌てたように腕を振り見出し、しかしすぐにうつむいてリリィにグッと頭を下げた。


「ごめんなさい……」

「えっと……? どうしてケイタさんが謝るんですか?」


 啓太の行動に、リリィは不思議そうに首を傾げるが、それに答える者は誰もいなかった。

 先を行く暁は、振り返らずに二人へと声をかける。


「置いてくぞラブコメーズ」

「あ、すいません!」

「待ってください!」


 辛辣な声色の暁の言葉を受けて、二人は慌ててその背中を追いかけた。




 車を壊すか、飛べるかできると、強力な異能者認定となります。

 さて一行が倉庫街へと向かうところですが。

 少し、昔話をしましょうか。

 以下、コメントレスー。

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